異世界着ぐるみ転生

こまちゃも

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百十三話 舞踏会(前編)

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百十三話 舞踏会(前編)


朝から馬車に揺られること三時間。
たどり着いたお城は、アレストロ王国のお城と同じくらい立派だった。

「お尻がぁぁぁ」
「ごめんなさいねぇ」

私の箒で飛んだ方が早いと言ったのだが、馬車はレッツヴォーグのお城からのお迎えで、断る事が出来ないのだそうだ。
低反発のクッションを敷いたのに、お尻が痛いって・・・この世界の貴族って凄いな。
馬車が停まり、クレスが先に降りる。
舞踏会は夜開かれるのだが、クレスを招待した王妃様が「お茶も」というので、昼間に到着。

「どうぞ、お嬢様」

クレスが差し出した手の上に、自分の手を添えて馬車から降りた。
背中がムズムズしそうだが、この辺のマナーやら所作を徹底的に教え込まれたおかげで、考えなくても身体が動いてくれる。
クレスの、くの字に曲げられた腕に、そっと自分の手を添える。

「ようこそお越しくださいました、クレス様」

出迎えてくれたのは、燕尾服を着た初老の男性だった。
クレスを見て、私を見た男性が一瞬止まるが、何事も無かった様に振る舞うのは流石お城の執事という感じだ。
アレストロと同じく、この国でも獣人は数が少ない。
馬車で町を通り抜けて来たが、一人も見かけなかった。
迫害はされていないが、どちらかと言うと獣人の方が人族と係わりたくないと距離を置いているのだと、クレスが教えてくれた。
なるべく微笑みを崩さない様にぼんやりと考えていたら、いつの間にか中庭に案内されていた。
綺麗に整えられた庭には、色とりどりの花が咲いている。
その先に、石造りのガゼボが見える。
東屋かぁ。庭に造っても良いかもなぁ。

「クレス殿、よう来てくれた」

ガゼボに案内されると、綺麗な女性が座っていた。王妃様だ。
白髪を綺麗にまとめ上げ、上品さが滲み出ている。

「お招き頂き、感謝いたします」
「ここには私と、信用できる使用人しかおりません。楽にしてください、クレス先生」

先生?

「ありがとう。そうさせていただくわ」

クレスがいつもの口調に戻った。

「そちらのお嬢さんは」
「ヒナと申します。お初にお目にかかり、光栄にございます」

ドレスを摘み、腰を下げて礼を取る。

「可愛らしいお嬢さんねぇ」
「私の一番、大切な子よ」

何を言うか、クレスのボケェ!

「さぁ、座って頂戴」
「ありがとうございます」

私達が座ると、メイドさん達がお茶を入れてくれた。

「クレス先生は全く変わらないわねぇ。あれから六十年以上経つというのに」

六十年!?

「私がこの城へ嫁いで来た時に、刺繍の先生をしてくださったの」
「五年くらいいたかしら?途中で王子が御生まれになって、産着や子供服も作り始めたから」
「私、刺繍が本当に駄目でねぇ」
「薔薇の刺繍が、新種の毒花に見えるくらいにね」
「もぉ、先生ったら」

楽しそうに昔話に花を咲かせる二人。
だが、クレスが少し寂しそうなのは、気のせいじゃない。
寿命の差。
中年男性にしか見えないクレスと、初老のお婆さん。
しかし実際には、クレスの方が年上だ。
きっと、幾度となく見て来たのだろう。

「それで、今日はどうしたの?招待状まで送ってきて」
「私達、今夜の舞踏会で隠居しようと思うの。それで、最後にどうしても先生にお会いしたくて」
「・・・そうなの」

テーブルの下、ギュッと手を握り込むクレスの手が見えてしまった。
その手に、そっと自分の手を重ねた。
一瞬驚いた顔したクレスだが、次の瞬間には柔らかい微笑みに戻っていた。

「第二の人生ってやつね!きっと、楽しい事が沢山あるわよ!」
「ふふふ、クレス先生らしい・・こほっ!けほっ!」

王妃様が突然咳き込んだ。
メイドさん達が慌てて背中をさする。

「少し、風に当たり過ぎたみたい。ごめんなさいね」

年のせい、と言うには顔色が悪すぎる。
申し訳ないと思いつつ、王妃様を鑑定してみた。

『状態:毒』

それを見た瞬間、頭にカッと血が上った。
何処のどいつだ!こんな優しそうなお婆さんに毒盛りやがった奴は!
皆が王妃様を見ている隙を見て、目の前にあるコップのお水にポーションを混ぜた。

「クレス、これ」

クレスは一瞬不思議そうな顔をしたが、何も言わずに頷き、王妃様にそのコップを差し出した。
王妃様はそのコップを受け取り、一口飲んだ。

「少し、休ませていただきますね」
「え、ええ」

クレスが不思議そうに王妃様に返事をすると、彼女はメイドを連れて城の中へと戻って行った。
私達はというと、執事さんに案内された部屋へと移動。
舞踏会が開かれるまでは、ここで過ごして良いそうだ。

「ヒナちゃん?」

説明を求められた。まぁ、当然だよね。
念の為探索を使うと、この部屋の様子を窺っている者が三人いた。

「クレス、私少し眠くなっちゃった」

そう言って、ソファに座るクレスの膝に乗った。

「え、その・・・嬉しいけど」

ポーチから毛布を取り出し頭まで被ると、「シー」と人差し指を口にあて、静かにするように言った。

「もう、甘えん坊さんねぇ」

察したのか、クレスが私を抱きしめる。
そして、ギリギリ聞こえるかどうかの小声で話し始めた。

「王妃様の状態は毒」

ビクリ、とクレスの身体が震えた。

「さっき渡したのはポーションだから、大丈夫」
「でも、いつもみたいに光らなかったわよ?」

私が使ったポーションは、欠損部位だろうが不治の病だろうが、老衰以外は治す。
飲んだ時に身体が淡く光るのだが、王妃様は光らなかった。それに、飲んだ後もメイドに支えられて歩いていた。

「遅効性。しかも、光らないのを作った」
「何故?」
「・・・逃げる為」

だってあんなの、ポーション飲みました!って言ってる様なもんじゃん!
治ったのを見て喜んでもらえるのは嬉しいけど、何処で手に入れたとか聞かれると困るし、作れます!と言うのもなぁ・・・。
だから、普通の水みたいに渡して、効果が出る前に逃げる。
そうしたら、何が効いたのか分からないからね!
王妃様は少し休むと言っていたから、眠っている間に効果が出るはず。

「ふ、ふふふ・・・そんなの、聞いた事ないわ。毒を盛って逃げるんじゃなくて、ポーションを盛って逃げるだなんて。ふふ、ヒナちゃんらしい」
「即効性の物もちゃんとあるけどね」

私を抱きしめるクレスの腕に、少しだけ力が込められた。

「ありがとう」
「お礼を言うのはまだ早いよ。誰が、何故そんな事をしたのか。王様はどうなのか」

毒を盛られたのが一度なのか、それとも少しずつ数回なのかが分からない。

「調べるにしても、私達は舞踏会までしかここにいられないし」

どうしたもんかと考えていると、扉をノックする音が聞こえて来た。

「失礼いたします。第一王子がお見えになりました」

慌ててクレスの膝から降り、毛布をポーチの中に入れた(0.2秒)。
扉が開くと、一人の中年男性が部屋に入って来た。

「ご無沙汰しております、アレックス殿下」

クレスが礼を取ったので、私もそれに倣う。

「その様に硬くならないでください、先生。どうか、いつもの様にしてください」
「・・・分かったわ、アレックス」

分かっちゃったの!?良いの?

「大丈夫よ、ヒナちゃん」
「そちらの美しい方が、クレス先生の大切な方ですか」
「あげないわよ?」
「はっはっはっ!私にはレイラとフォーセと言う、この世で最も愛する者達がおりますので。あぁ、今日も可愛い」

第一王子は二つの小さなポートレートを取り出すと、うっとりとした顔で頬ずりをした。

「こ~んなに小さかったあんたがねぇ。幸せそうで良かったわ」
「おっと・・・コホン。それでは、本題を」

アレックスさんは立ち上がると、深く頭を下げた。

「・・・母をお救いくださり、感謝いたします」

うぉっとぉ、即行でバレたぁ!
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