異世界着ぐるみ転生

こまちゃも

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第百四十五話 オアシス

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第百四十五話 オアシス


アヌリと一緒にラクダに似たラーフに乗り、砂漠を進んで行く。
元々の身体が大きいからか、ラーフの足取りは意外と早かった。オアシスにたどり着くのは夕方頃かと思っていたが、町を出て二時間程で姿が見える距離にまで来た。
途中で休憩をはさみつつ、お昼前までにはオアシスにたどり着く事が出来た。

「わぁ~! 綺麗!」

広大な砂地に、まるでそこだけ違う世界がポツンと置かれた様な光景。
大きな湖を中心にして、森とは行かないものの、様々な植物が生えている。
ラーフはそのまま湖へと近づくと、その足を止めた。
思わず座席から飛び出してラーフの背に乗ると、涼やかな風が湖から流れて来る。

「ヒナ様、行きましょうか」
「は~い」

ラーフの背からアヌリの肩へと移動すると、そのままアヌリが歩き始める。
ラーフは慣れたもので、湖の傍の日陰でのっそりと座り込むと、気持ちよさそうに目を閉じた。休憩時間って事かな。

「そういえば、どんな見た目をしているの?」
「大きさはこれくらいの、赤い実です」

アヌリが両手で見せてくれたサイズだと、手毬くらいか?

「一見すると一つの実ですが、割ると‥あぁ、あれです」

アヌリが見つけたようで、一本の木に近付いた。

「あれ、これってザクロ?」

昔住んでいた家の庭にもあった。そう言えば、祖母が町で通りかかった家の庭先を見て「この国は平和で裕福になったんだねぇ」としみじみ言っていたのを思い出した。そのお家はいたって普通の家で、庭には小さな花壇と芝生が敷かれていた。正直、祖父母の家の方が大きい。田舎だからね。
私が不思議に思っていると、祖母は「昔は今みたいに物が多くなくて、大きなスーパーやモールなんて物も無かった。子供も大人も腹いっぱいに食べる事なんてできなくてねぇ。家の庭には必ず、食べられる実のつく木を植えたもんさね」と言っていた。
そう言えば、古い家には必ず柿やミカン、キンカンや栗等の木が植わっていた。あれはただ単に季節の食べ物を楽しむ為だけではなく、何かあった時の為の備えにもなっていたんだと、初めて知った。

「ヒナ様の世界ではザクロと言うのですか。こちらでは、シャッカと言います」

アヌリが実を一つ採り、ナイフで割って中を見せてくれた。
中には真っ赤な小さな粒がぎっしり! 初めて見た時は、ちょっと怖いと思ったっけ。

「食べてみますか?」

アヌリが一粒取り出し、自分の掌の上に置いてくれた。

「いただきます」

注:地球にいる猫には、与えないでください!

ザクロの粒を口に含むの、ほんのりとした甘さが鼻に抜ける。そして、カリッと歯を立てると、中から少し酸っぱい果汁が口に広がった。

「ん~、懐かしい!」

味よりも先に、懐かしさが出てしまった。
だが、昔食べたのとは違う食感が口の中を刺激する。

「シュワシュワする!」

まるで、炭酸を飲んだ時みたいだ!

「ふふふ。これは本来、水に溶かして飲むものなんです」
「最初に言っふえふょ!」

シュワシュワが凄すぎて、思わず口を両手(前足?)で押さえた。

「申し訳ございません、つい」

アヌリは珍しく悪戯っぽくはにかむと、自分のアイテム巾着から水の入った水筒を取り出し、ザクロの果肉を一粒放り込んだ。そしてゆっくりと、こぼさない様に水筒を揺らした。
え、それだけ?
お酒を割る時に使う、苦いソーダを思い出した。

「どうぞ」

アヌリは水筒の中身を小さなコップに移すと、私の前に差し出した。
苦いのは嫌だな~と思いながらコップの中を覗いてみると、パチパチと気泡が弾ける音と共に、甘い香りが漂って来た。ちょっと一舐め‥‥あ、美味しい。さっきの酸っぱさは無いし、昔飲んだそのままの味だ!

「そのご様子ですと、お気に召されたようですね」
「うん! 美味しいよ!」

水に溶かしただけで、こんなに美味しくなるなんて。いや、その前に、ザクロがの果汁が炭酸って事か。

「ふむふむ。シャッカにはそんな使い方があるのか」
「「ん?」」

突然男性の声が背後から聞こえて来た。振り返ってみると、大きな山が!って、よく見ると大きなリュックサック? アヌリの背を軽く超えているから、二メートル以上はあるはず。

「砂漠での水分補給は不可欠であると同時に汗によって失われた塩分が」

リュックサックの向こう側から、何やらブツブツと聞こえて来る。
アヌリに手で合図して、リュックサックの反対側へとまわってもらうと、そこには何だがもっさりとした男性がブツブツと言いながらメモを取っていた。
背はアヌリくらいで、肩までありそうな髪はバサバサのもっさもさ。細そうだが、巨大なリュックサックを背負っているのに、全然重そうに見えない感じが地味に凄い。

「何者だ」

いつの間にか剣を抜いていたアヌリが、剣先を男性に向けた。

「(こら、何やってんの!)」

小声で抗議するが、アヌリは「任せてください」と言わんばかりの笑顔。
全然任せられないんですけど⁉

「おい」
「喉に入った砂を流す意味もあるかもしれ‥‥おや?」

やっとこちらに気付いた男性が、のっそりと顔を上げた。
もさもさの前髪は男性の鼻まで伸び、見えているのは口元だけ。

「貴様、何者だ」

私どころかアヌリまで気配を感じられず、いつのまにか背後に立っていた男性。アヌリは厳戒態勢って感じだが、嫌な雰囲気は感じられない。怪しいか怪しくないかと言うと、かなり怪しいけどね。

「私はコール・ヴァンデウォーターと‥‥先日? いや、去年だったか廃嫡されたから、ただのコールで」

ゆっくりと言うか、あまり興味なさそうなもっさりさんだな。廃嫡されたとか、微妙に重たい話なのに!

「そちらさんは‥‥剣士、いや、冒険者と」

こちらからは見えないのに、ジッと見つめられているのが分かる。

「使い魔、ではないね。魔獣とは比べられない程の存在感に加え独特な魔力の質は聖獣に近く」

急に喋り方が早くなったと言うか、さっきのブツブツとした呟きに戻った。んん?

「興味深い」
「ふっ‥‥この方の素晴らしさを一目で見抜くとはな」

アヌリともっさりさんが固く握手を交わした。
砂漠のど真ん中のオアシスで、何かが芽生えたらしい。
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