推測と仮眠と

六弥太オロア

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  「鳴」を取る一人

37.

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石像と言うなら、そう見えてくる。
しかし、どことなくとか。
無理をして、形作られた様子はない。
自然に出来たという具合の石。

丸いもの、丸くないもの。
石。
そこへ向かう。
向かうのは、地下入口に先客が居たために。
針路を変えた降旗一輔ふりはたいちすけ

先客。
よく見えない。
今の位置から、そして場合では。
彼が振り返ってみて、人相は判別出来ず。

何しろ、結構距離もある。
あの先客に、俺の存在は気付かれなかったろう。
と降旗は思って。

ただ、しきりにあたりを見ている先客。
一体、何故、今地下入口に?






一瞬、プツと鳴ったが。
振動に変わる。
電話である。
それが、石像に向かうまでの間、数回。

午後、三時四十分を過ぎて。
少しずつ日の強さがおさまる。

石のれ?
石像へ向かって、どうする?
先客の様子を伺うのに、丁度いい具合と判断した降旗ふりはた

結構。それでは。
電話を掛けてみる。






「ええと。やっぱり地下だったよ。お前の言う通り」

と降旗。
電話の相手は、先程二手に分かれて、別で動いたやつである。

「なるほど。こちらに来ますか?」

「いや。俺も地下入口に向かってた。鐘搗かねつきの奴らは、今そっちへ向かってるはずだ」

「じゃあ、話はどうします」

「こっちも急ぎなんだよ。鐘搗はてめえで何とかしてくれ」

「降旗さんでないと、困るのでは?」

「俺の場合、既に話の腰を折られているだろう。お前らで頼むよ」

「分かりました。で、扉へ直接なんですか?」

「そう」

「了解」






慈満寺じみつじで鐘が鳴ると人が死ぬ」。

そんなことが現実に、起こっている。
地下で死んだのだ。

鐘搗かねつきは、その死に関わったりしたか?
関わったようにも考えられるし、あるいは偶然で片づければそれまでだ。
二回。
二人。
どちらも地下で、自然死ということらしい。

奴はそんなタマだろうか?
人を殺すような?
どうだろう?
勝手に考えを拡げるなら、俺の場合はノーだ。
関わったとすれば、間接的にだ。
地下の宝物殿の扉を、閉じたのはむろん鐘搗である。
そこから、急に死に始めた。

降旗の分析。






ともかく。
地下だ。
俺が開けなければならないのは、変わりなく。

先客は、一体なんの目的で、地下入口に?
降旗は、やきもきしてきた。

鐘搗の連中は、あっちで勝手にやる。
こっちは、宝物殿なのだ。
先客の様子を伺う。
すると、いつの間にかもう一人。
向かっている者が。

更にか。
この時間に?
何の用で地下に来たりする?
降旗は諦めて、スマホをペンでいじり出す。













むろん、現場と写真は違う。
もっと言うなら、パンフレットだ。

プリントされた記事と、現実の景色。
ここだ。慈満寺じみつじへ。
パンフレットでも済んだかもしれない。
でも、一応通って来た。
何回も。
足繁あししげく。

寺のこと?
別に知識はなくとも。






先に、用意出来る物。
そこは正解だった。と思っている。
専門分野でなくても、予想ぐらいは立てられる。

一個失敗した。
ポシェットがない。
どこかに、置いてきてしまった。
手元にあるのは、現金とIDロック解除用のカード。
それと、今の準備だ。

ポシェットには、何も入っていない。






地下入口の監視カメラ。
数歩ぐらい近づけば。
自分の姿。
慈満寺側の職員に映って見えるだろう。

地下入口のIDロック盤。
IDカードを通せば、自分の開閉履歴が残る。
慈満寺でセキュリティが、しっかりしている。
それは、違いない。

だけれど、二人も死んだ。

セキュリティがしっかりしていても、どこかに抜けがある。

特にその傾向が強くなるだろう。
今は恋愛成就キャンペーンだから。
職員はそちらの人の流れ。
対応で忙しいはず。

無理が出来ない。人員だってある。
誰か人が眼で見て、確認する範囲については、抜けが出るだろう。






抜けが出るから、いいというのでもない。
二段階だ。
映像だって、根本をなんとかする必要がある。

映った映像は監視カメラの機能を通して、職員側に送信される。
IDロックの情報もしかり。

恋愛成就キャンペーンに、セキュリティ方面の僧侶も駆り出されれば、抜けは出る。
自分の開閉記録も時間が経てば、徐々に切り替わって行く。
なかったことになる。






全部予想だ。
確証はない。
ただ、難しいこともない。

ナイフを取り出す。
少し距離を置き、投げ。
上手い具合にコードは丸々ちぎれる。

どのコードを切ればいいか。
大体、把握が済んでいる。
プツ。
二本ほど切れて、支柱がずれた。

映像は途切れたか?
支柱がずれたので、向こうを向くカメラ。
いずれにしろ、姿は映らないだろう。

ただのいたずら?
配線が切れていても、余程の切れ方でなければ。
今の場合、大丈夫。
事故と思われるかもしれない。






IDロック盤に通す。
リーダー部分の細いくぼみにカードを入れて、さあ上から下へ。
そのスライドで開く。
地下入口だ。

ロック盤に手で触れる。
ナイフの持ち主。













一方、降旗一輔ふりはたいちすけ
動きのない先客二人を見ながら、焦り始める。
場所は、石像の影から。
正確には、先客に近づく先客か。

いつ、動くんだ?
ずっと入口へ居るつもりか?

扉を開けるタイミング、そこに俺が間に合うといいが。
とか彼は思っている。
   
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