11 / 19
珍客
しおりを挟む
その後しばらく、憔悴の余り為氏は床についてしまった。領内の経営は怠っていないものの、三千代姫の死を嘆き悲しむばかりで、出馬の指図の知らせも一向に出されない。
為氏が悲嘆に暮れるのも無理はなかった。源蔵がこっそり教えてくれたところによると、為氏は食事を取る以外のことは一切行わず、ただ涙を流す日々だという。岩瀬の地の政務は、実質的に四天王が相談しながら行っているのだった。
そんな為氏に構わず、四天王を中心に家臣たちは戦支度を整えていた。
風の噂に聞こえてきたところによると、治部大輔は「為氏が早急に出馬命令を出し城を落とそうとするのは必然。こちらは知謀を以て館に籠もり、防戦しようではないか。たとえ蟷螂の斧であったとしてもだ」と宣ったという。
和田から須賀川に送った間者の報告によると、治部大輔は、須賀川近郊の領内に触れを回したらしい。
為氏方の兵は、一人も知恵の有る者がいない。わずかな謀で大功を成そうとしている者たちであると触れて回っているという。さらに、手勢を揃えるためだろう、次のような触れを各郷に回したという。
「亡国の暗君を捨てて武士道の義臣に加わろうとするならば、一刻も早く十五歳以上七十歳以下の者は、当城へ馳せ集い我に従え。忠臣には恩賞を与え、不忠の者は老若男女問わずことごとく死罪とする」
愛娘の死の悲しみに沈むのではなく、それを奇貨として檄を飛ばしたというのだ。その噂話を持ち込んできたのは、須田家三男の三郎兵衛だった。彼が須賀川城下に送り込んだ忍びの者が、噂を持ち帰ってきたのだ。やはり、治部大輔はかねてから噂されていたように須賀川の太守として勢力を固める肚だったのだろう。三千代姫は、そのための駒に過ぎなかった。
それを思うと、図書亮の心は沈んだ。
一方、和田の者らも為氏の心中を思いやっている暇はない。御一門衆や四天王などの宿老を中心に、伊豆・相模・駿河・信濃にいる二階堂一族への加勢を頼む檄文が飛ばされた。
それと合わせて、領内の人民にもかの起請文を元にしたものが、回文として披見された。
一.治部大輔は欲心に染まり、権力を握り民を憐れまず、財を貪り、人民を殺したことは通常の範囲を越えたものである。酒に溺れ、長いこと民が飢えているのにも気づかず、楽人の訴えにも耳を傾けない。
二.国を守るために代官として遠国に遣わされたにもかかわらず、その甲斐なく、本来ならば守護のものである財政を横領し、その勢いは龍が水を得るために雲上に昇って飛翔するのと変わらない勢いである。
三.先例のない賦役をかけ、地下(ちげ=不動産税)を貪り、そのために民は遠国や他の国に妻子を求めに行き、夫婦や親子は別れの憂き目にあい、民は困窮し国力が弱っている。
四.梟悪盛んであり、道理に背き賄賂にふけり、世の中の費えを知らない。
五.主君に歯向かって謀叛を企て、兵を集めて国を操ろうとしてる。
これらの五逆は天争を犯し、之を捨て置くことは、誰ができるだろうか。
図書亮も、美濃守に命じられてせっせと領内への回文を書き写しながら、改めて治部大輔の悪行に思いを馳せた。
地下を必要以上に取っていたのは、自分を岩瀬の地の太守に任じるよう、都の幕府に働きかけるための資金だったのではないか。もしも治部の運動が幕府に認められたとするならば、今までの例にない珍事となるだろう。
そう自分に言い聞かせながらも、暮谷沢での惨劇を思い出すと、心は晴れない。
また、治部大輔が横暴を振るえた背景には、都や鎌倉の事情も絡んでいるに違いなかった。
都の一色家からの知らせによると、現在、幕府に将軍はいない。七代目将軍であった義勝は就任早々、病に斃れた。その後、管領である畠山持国によって三春殿と呼ばれていた子供が、わずか十一歳で帝から義成名前を賜ったという知らせが、都の一色本家から図書亮の元にも届けられていた。その義成は、来年元服を予定しているという――。
自分が元服したのも十五のときだったから、義勝の元服は決して早いわけではない。だが、そんな子供が国を保てるのかは、いささか疑問だった。
そしてこの地において、自分は一体何をしているのか。本来、宮内一色家の再興のためにこの地に下向してきたはずが、華々しい手柄と言えば、為氏と三千代姫の婚姻を取り持っただけに過ぎない。それも、暮谷沢の一件で破綻した。まもなく始まるであろう戦への高揚感と、二階堂家の内紛を奇妙に冷めた目でみる自分とが、綯い交ぜになる。
それを藤兵衛にこぼすと、藤兵衛は苦笑いを浮かべた。
「お主、この地に下向してきたときにも同じようなことを申していたな」
「そうだったか?」
言われてみて、図書亮も思い出した。あの時、為氏を「まだ子供だ」と侮っていたが、四天王や御一門衆の助力を得ながらも、為氏は何とか国主としての面目を保ってきた。
だが、今まさに治部大輔との決戦を控えて、悲嘆に暮れるばかりだ。三千代姫を失ったのが、それほど痛手だったのか。そして、二階堂一族の戦いに決着がついた後、自分はどうしたいのか。近頃、その目的が見えなくなりつつあった。
「お主は、口の割に情に脆いところがある」
藤兵衛の指摘は、図書亮も思い当たるところがあった。主夫妻の悲劇は、必ずしも図書亮一人の責任ではない。それにも関わらず、ここまでかの悲劇に思いを馳せるのは、図書亮も三千代姫の魅力の虜となっていたからなのかもしれなかった。
「近々戦になるのは、間違いない。図書亮。一色の名を汚したくなければ、ぬかるなよ」
幼馴染みらしく、きっぱりと忠告してくれた藤兵衛の顔つきは、坂東武者そのものだった。鎌倉にいたときから図書亮の兄代わりのようなところがあったが、服部の娘であるはなとの結婚を機に、本格的に須賀川に腰を据えるつもりになったようだった。どうやら彼から見ると、図書亮はまだまだ甘いところがあるらしい。
戦への機運が高まっていくのと比例するかのように、りくの腹は日に日に丸みを帯びていった。この姿を見ていると、つい荒ぶった心もまろみを帯びていく。
一時はつわりに悩んでいたりくだが、近頃は食欲を取り戻してきたようで、男の図書亮に負けないくらいの勢いで、食を進めていた。
できれば出産のために早く木舟に返してやりたいのだが、出水のときと同じように、りくは木舟に戻るのに難色を示していた。
「戦の場に女がいると穢れるというではないか」とも説得してみたが、りくを怒らせただけだった。
「子を産むのは、女にとっては戦と同じことです。その戦から逃げるおつもりですか」
そう言われてしまうと、身も蓋もない。どうも近頃はりくの尻に敷かれている気がするが、決して不快ではなかった。
図書亮自身の戦も、大掛かりな戦となるのは間違いない。そのため、峯ヶ城にいく道すがらにある羽黒山妙林寺に立ち寄って、私かに戦勝祈願をすることもあった。
妙な法師と出会ったのは、木枯らしが強く吹く日だった。
例の大仏に向かい合って、りくの安産祈願と図書亮自身の戦勝祈願を行っていたときのことである。右手の方から、しゃりん、と錫杖の音が響いた。音のした方に目をやると、丘の上に建てられている妙林寺から回ってきたものか、一人の法師が折烏帽子を被って、立っている。
反射的に、刀に手をやった。聖域とは言え、この時世である。須賀川の手の者が化けているかもしれなかった。
「物騒な御仁だな」
法師は、にやりと笑みを浮かべた。その出立ちは、白い手甲脚絆を身に着け、笈厨子を背負っている。右手に金剛杖をついており、一見ただの山伏に見えた。典型的な、羽黒修験の姿である。
「一色図書亮とお見受けしたが、間違いござらぬか」
図書亮は、返事をしなかった。
(なぜ、俺の名を知っている)
まずそれが、不気味だ。当然、図書亮はこの法師に見覚えがない。
「奥方に近々子が生まれる故、ここへ安産祈願に参られているのであろう。後は、須賀川の戦に備えての祈願もか」
「何奴!」
図書亮の私事まで知っているのか。思わずかっとなった図書亮は太刀を抜き、そのまま大段上に振りかぶって法師を斬ろうとした。だが法師は、図書亮の渾身の一太刀を、手にした錫杖であっさりと防いだ。
この動き。紛れもなく武士かそれに近い者である。
(どうする……)
図書亮の背後には、里の道に続く急な石段がある。足を踏み外せば石段を転げ落ちて、戦の前に怪我を負いかねない。
「法師。名を名乗れ」
拮抗しながら、図書亮は吐き捨てた。
「須賀川の手の者ではござらぬ故、ご安心召されよ。さる高貴な御方のお使いで、一色殿をお訪ねしてきた次第」
憎たらしいことに、法師は息を乱さずに明るく答えた。
この話からすると、まず間違いなく忍びの者だろう。問題は、どこからやってきた者か。そして、何の為に図書亮に近づいてきたかである。
「そうだな。今は明沢とでも名乗っておくとしようか」
法師の言葉に、図書亮は鼻を鳴らした。いかにも怪しげな名乗りである。
「明沢。なぜ私を狙う」
今の図書亮は、岩瀬二階堂家の一家臣にすぎない。誇れるものと言えば、筋目の良さくらいであろう。
「別に一色殿の御命を狙っているわけではござらぬ。都におわす一色本家からの知らせを持ってきたまで」
本家からと聞いて、図書亮は若干怒気を和らげた。だが、いままで一色本家から忍びの者が来た試しはなかった。通常は、一年の時候の挨拶の折りに、都の様子を知らせてくるくらいである。
相手が胡乱の者であることには違いないが、本家からの使いとなれば無視できない。図書亮は、ようやく太刀を収めた。同時に、明沢も錫杖を下ろす。だが図書亮は、警戒を緩めなかった。
「……で、本家からは何と?」
明沢の答えは、至極あっさりしたものだった。
「一色家が、再び山城・丹後の守護に任じられた。つまりは一色家の復権だな」
思わず、息を呑む。都の一色本家は、足利一族に系譜を連ねる名門でありながら、近年、代将軍足利義教に睨まれて没落していたのだった。本家の主だった一色義貫は、義教の命令で大和信貴山において、永享の乱の責任を負わされて自害した。図書亮の父が殺され、二階堂氏一族の須賀川下向にもつながった事件である。
その罪が、公的に許された。
「待て。そうなると、上州の宮内一色家も……」
「うむ。関東管領である上杉殿も、再度鎌倉公方を立てられることにご同意なされた。宮内一色家も近々、帰参が認められるであろう」
戦を目前にして、思いがけない話が飛び込んできたものだ。
だが、と図書亮は心を静めた。
「それと、二階堂家の戦がどのような関係がある」
それが、どうにも理解できない。すると明沢は、図書亮を馬鹿にするかの如く、からからと笑い声を立てた。
「簡単なことだ。須賀川の治部大輔は、京の細川殿に働きかけ、己が正当であると認めさせようとしておる。我が主としては、それは困るのだ」
「すると、お主の主は」
明沢は、笑みを貼りつかせたまま、はきとは答えなかった。だが、都で細川と対立する三管領四職家の家柄と言えば、自ずと限られる。恐らく畠山氏辺りがこの画図を描いているのだろう。
「一色殿が与する和田の方々も、細川の息が掛かった者にのさばられては、今後困ったことになろう」
さて、この話をどう捉えたものか。たかが一地方の豪族の勢力争いに畠山氏が首を突っ込んでくるのは、どうしたわけか。
「お主は私にどうせよと?」
「簡単なことだ。須賀川との戦に勝てば良い。それが則ち、我が主への忠義の証となろう」
その主とは、誰なのか。それが今一つはっきりしないのが、図書亮は不安だった。建前上は、為氏が現在の図書亮の主である。だが武家の筋目としては、一色家は足利の支流だ。本来は足利家に忠義を尽くすのが、筋と言えば筋なのである。
この明沢を使っている主が畠山氏だとすれば、須賀川との戦を前にして、余計な話を持ってきてくれたものであると、図書亮は感じた。
「ここまで話を聞かせてやったのだ。今晩の飯くらいは馳走してくれるのであろうな」
図々しくもそう述べる明沢を、図書亮は睨みつけた。この明沢という僧が、本物の僧だとは図書亮は信じていなかった。だが、風体は紛れもなく羽黒修験のそれであるし、山伏であれば有髪の僧も珍しくない。何より、体術では明らかに図書亮より格上だ。ここで逆らって殺されても困る。
仕方なく明沢を自宅へ連れて帰り、りくに客人の分の夕餉の支度を命じた。
珍客の来訪にりくも戸惑ったようだったが、お得意の「木の子の汁」を用意して、明珍をもてなしてくれた。秋に採れた木の子を塩漬けにして保存しておき、それを汁物にしたものである。
明沢はというと、「誠に殊勝な御心がけである」と述べ、ちゃっかりとその場でりくの安産祈願の修法を行い、おまけのように図書亮の武運長久の祝詞を述べてくれた。いかにも僧らしいその振る舞いに、りくはあっさりと丸め込まれた。
一通り腹が満たされたと見ると、明沢は席を立った。
「修法まで行っていただいたのですもの。せめて一晩の宿だけでも」
そう申し出るりくの勧めを、明沢は軽くいなした。
「いやいや。今晩は妙林寺の庫裏で泊まるつもりだった。元よりそこで人との約束もあるしな」
それならばなぜここへ押しかけた。そう言いたいのを、図書亮はぐっと堪えた。やはりこの明沢という僧侶は、食えない。
「今晩の食事の礼をもう一つ進ぜよう。明日にでも、出陣命令が出る。一色殿は先鋒組と決まった」
明沢の言葉に、図書亮は冷水を浴びせられたような心地になった。まだ、図書亮の耳にも届いていない情報を、なぜこの僧が知っている。
りくも、さっと顔色を変えた。
「では御内儀。誠に結構な飯だった。どうか御身を大切になされよ」
そう言うと、明沢は再び不可解な笑みを図書亮に向け、家を出ていった。
二人で頭を下げて明沢を送り出すと、りくがこわごわと図書亮の側に身を寄せた。
「あの御坊の仰ったことは、まことなのでしょうか」
「分からん」
得体の知れない坊主の言うことなど、当てになるか。そう断言したいところだが、都の一色本家の情報や新しい鎌倉公方の話を持ってくるなど、妙に世事に通じていた。四天王ですら仕入れてきたばかりの情報なのではないか。
だとすれば出陣命令も、四天王の誰かから情報を仕入れてきたものか。
図書亮が明沢の言葉に考え込んでいると、明沢と入れ替わるように安藤左馬助がやってきた。
「一色殿。先ほど、出陣が決まった。明朝より須賀川の城に討ち入る。日の出の刻に、峯ヶ城に参られよ」
「遂に来たか……」
図書亮は、身震いした。同時に、先ほど押しかけてきた明沢の情報は、正しかったと思い知らされる。
「陣割は」
「総勢二八〇〇名。先鋒が箭部安房守殿、二陣が二階堂左衛門殿、三陣が二階堂下野守殿。本陣が御屋形の旗本衆と決まった。戦の総指揮は、美濃守様が執られる」
二階堂左衛門は、確か木之崎城主だったはずだ。二階堂下野守は、矢田野左馬允の別名である。二階堂御一門衆も、本気で治部を滅ぼすつもりだ。図書亮が初めて岩瀬の地にやってきたあのときとは、覚悟が違う。
「一色殿は先鋒だな」
何を思ったか、安藤はそう述べた。図書亮の身分も一応は為氏の旗本衆のはずだが、同時に四天王の一人、箭部安房守の身内でもある。箭部の娘であるりくの夫だから、箭部一族として安房守の陣に組み入れられたのだろう。武功を立てる機会も多いかもしれないが、死ぬ確率も一番高い。
先ほどの明沢との会話が、頭を過る。
今回の戦で武功を立てれば、それが宮内一色家の家名復帰のきっかけに成り得る――。
「安房守さまや舅殿と共に、武功を挙げて来るぞ」
図書亮はりくに向けて、不敵な笑みを浮かべた。
反対に、りくは不安そうな色を隠せない。覚悟をしていたとは言え、自身の出産を前にして、夫も父も戦場に立つのが、怖くてたまらないのだろう。
為氏が悲嘆に暮れるのも無理はなかった。源蔵がこっそり教えてくれたところによると、為氏は食事を取る以外のことは一切行わず、ただ涙を流す日々だという。岩瀬の地の政務は、実質的に四天王が相談しながら行っているのだった。
そんな為氏に構わず、四天王を中心に家臣たちは戦支度を整えていた。
風の噂に聞こえてきたところによると、治部大輔は「為氏が早急に出馬命令を出し城を落とそうとするのは必然。こちらは知謀を以て館に籠もり、防戦しようではないか。たとえ蟷螂の斧であったとしてもだ」と宣ったという。
和田から須賀川に送った間者の報告によると、治部大輔は、須賀川近郊の領内に触れを回したらしい。
為氏方の兵は、一人も知恵の有る者がいない。わずかな謀で大功を成そうとしている者たちであると触れて回っているという。さらに、手勢を揃えるためだろう、次のような触れを各郷に回したという。
「亡国の暗君を捨てて武士道の義臣に加わろうとするならば、一刻も早く十五歳以上七十歳以下の者は、当城へ馳せ集い我に従え。忠臣には恩賞を与え、不忠の者は老若男女問わずことごとく死罪とする」
愛娘の死の悲しみに沈むのではなく、それを奇貨として檄を飛ばしたというのだ。その噂話を持ち込んできたのは、須田家三男の三郎兵衛だった。彼が須賀川城下に送り込んだ忍びの者が、噂を持ち帰ってきたのだ。やはり、治部大輔はかねてから噂されていたように須賀川の太守として勢力を固める肚だったのだろう。三千代姫は、そのための駒に過ぎなかった。
それを思うと、図書亮の心は沈んだ。
一方、和田の者らも為氏の心中を思いやっている暇はない。御一門衆や四天王などの宿老を中心に、伊豆・相模・駿河・信濃にいる二階堂一族への加勢を頼む檄文が飛ばされた。
それと合わせて、領内の人民にもかの起請文を元にしたものが、回文として披見された。
一.治部大輔は欲心に染まり、権力を握り民を憐れまず、財を貪り、人民を殺したことは通常の範囲を越えたものである。酒に溺れ、長いこと民が飢えているのにも気づかず、楽人の訴えにも耳を傾けない。
二.国を守るために代官として遠国に遣わされたにもかかわらず、その甲斐なく、本来ならば守護のものである財政を横領し、その勢いは龍が水を得るために雲上に昇って飛翔するのと変わらない勢いである。
三.先例のない賦役をかけ、地下(ちげ=不動産税)を貪り、そのために民は遠国や他の国に妻子を求めに行き、夫婦や親子は別れの憂き目にあい、民は困窮し国力が弱っている。
四.梟悪盛んであり、道理に背き賄賂にふけり、世の中の費えを知らない。
五.主君に歯向かって謀叛を企て、兵を集めて国を操ろうとしてる。
これらの五逆は天争を犯し、之を捨て置くことは、誰ができるだろうか。
図書亮も、美濃守に命じられてせっせと領内への回文を書き写しながら、改めて治部大輔の悪行に思いを馳せた。
地下を必要以上に取っていたのは、自分を岩瀬の地の太守に任じるよう、都の幕府に働きかけるための資金だったのではないか。もしも治部の運動が幕府に認められたとするならば、今までの例にない珍事となるだろう。
そう自分に言い聞かせながらも、暮谷沢での惨劇を思い出すと、心は晴れない。
また、治部大輔が横暴を振るえた背景には、都や鎌倉の事情も絡んでいるに違いなかった。
都の一色家からの知らせによると、現在、幕府に将軍はいない。七代目将軍であった義勝は就任早々、病に斃れた。その後、管領である畠山持国によって三春殿と呼ばれていた子供が、わずか十一歳で帝から義成名前を賜ったという知らせが、都の一色本家から図書亮の元にも届けられていた。その義成は、来年元服を予定しているという――。
自分が元服したのも十五のときだったから、義勝の元服は決して早いわけではない。だが、そんな子供が国を保てるのかは、いささか疑問だった。
そしてこの地において、自分は一体何をしているのか。本来、宮内一色家の再興のためにこの地に下向してきたはずが、華々しい手柄と言えば、為氏と三千代姫の婚姻を取り持っただけに過ぎない。それも、暮谷沢の一件で破綻した。まもなく始まるであろう戦への高揚感と、二階堂家の内紛を奇妙に冷めた目でみる自分とが、綯い交ぜになる。
それを藤兵衛にこぼすと、藤兵衛は苦笑いを浮かべた。
「お主、この地に下向してきたときにも同じようなことを申していたな」
「そうだったか?」
言われてみて、図書亮も思い出した。あの時、為氏を「まだ子供だ」と侮っていたが、四天王や御一門衆の助力を得ながらも、為氏は何とか国主としての面目を保ってきた。
だが、今まさに治部大輔との決戦を控えて、悲嘆に暮れるばかりだ。三千代姫を失ったのが、それほど痛手だったのか。そして、二階堂一族の戦いに決着がついた後、自分はどうしたいのか。近頃、その目的が見えなくなりつつあった。
「お主は、口の割に情に脆いところがある」
藤兵衛の指摘は、図書亮も思い当たるところがあった。主夫妻の悲劇は、必ずしも図書亮一人の責任ではない。それにも関わらず、ここまでかの悲劇に思いを馳せるのは、図書亮も三千代姫の魅力の虜となっていたからなのかもしれなかった。
「近々戦になるのは、間違いない。図書亮。一色の名を汚したくなければ、ぬかるなよ」
幼馴染みらしく、きっぱりと忠告してくれた藤兵衛の顔つきは、坂東武者そのものだった。鎌倉にいたときから図書亮の兄代わりのようなところがあったが、服部の娘であるはなとの結婚を機に、本格的に須賀川に腰を据えるつもりになったようだった。どうやら彼から見ると、図書亮はまだまだ甘いところがあるらしい。
戦への機運が高まっていくのと比例するかのように、りくの腹は日に日に丸みを帯びていった。この姿を見ていると、つい荒ぶった心もまろみを帯びていく。
一時はつわりに悩んでいたりくだが、近頃は食欲を取り戻してきたようで、男の図書亮に負けないくらいの勢いで、食を進めていた。
できれば出産のために早く木舟に返してやりたいのだが、出水のときと同じように、りくは木舟に戻るのに難色を示していた。
「戦の場に女がいると穢れるというではないか」とも説得してみたが、りくを怒らせただけだった。
「子を産むのは、女にとっては戦と同じことです。その戦から逃げるおつもりですか」
そう言われてしまうと、身も蓋もない。どうも近頃はりくの尻に敷かれている気がするが、決して不快ではなかった。
図書亮自身の戦も、大掛かりな戦となるのは間違いない。そのため、峯ヶ城にいく道すがらにある羽黒山妙林寺に立ち寄って、私かに戦勝祈願をすることもあった。
妙な法師と出会ったのは、木枯らしが強く吹く日だった。
例の大仏に向かい合って、りくの安産祈願と図書亮自身の戦勝祈願を行っていたときのことである。右手の方から、しゃりん、と錫杖の音が響いた。音のした方に目をやると、丘の上に建てられている妙林寺から回ってきたものか、一人の法師が折烏帽子を被って、立っている。
反射的に、刀に手をやった。聖域とは言え、この時世である。須賀川の手の者が化けているかもしれなかった。
「物騒な御仁だな」
法師は、にやりと笑みを浮かべた。その出立ちは、白い手甲脚絆を身に着け、笈厨子を背負っている。右手に金剛杖をついており、一見ただの山伏に見えた。典型的な、羽黒修験の姿である。
「一色図書亮とお見受けしたが、間違いござらぬか」
図書亮は、返事をしなかった。
(なぜ、俺の名を知っている)
まずそれが、不気味だ。当然、図書亮はこの法師に見覚えがない。
「奥方に近々子が生まれる故、ここへ安産祈願に参られているのであろう。後は、須賀川の戦に備えての祈願もか」
「何奴!」
図書亮の私事まで知っているのか。思わずかっとなった図書亮は太刀を抜き、そのまま大段上に振りかぶって法師を斬ろうとした。だが法師は、図書亮の渾身の一太刀を、手にした錫杖であっさりと防いだ。
この動き。紛れもなく武士かそれに近い者である。
(どうする……)
図書亮の背後には、里の道に続く急な石段がある。足を踏み外せば石段を転げ落ちて、戦の前に怪我を負いかねない。
「法師。名を名乗れ」
拮抗しながら、図書亮は吐き捨てた。
「須賀川の手の者ではござらぬ故、ご安心召されよ。さる高貴な御方のお使いで、一色殿をお訪ねしてきた次第」
憎たらしいことに、法師は息を乱さずに明るく答えた。
この話からすると、まず間違いなく忍びの者だろう。問題は、どこからやってきた者か。そして、何の為に図書亮に近づいてきたかである。
「そうだな。今は明沢とでも名乗っておくとしようか」
法師の言葉に、図書亮は鼻を鳴らした。いかにも怪しげな名乗りである。
「明沢。なぜ私を狙う」
今の図書亮は、岩瀬二階堂家の一家臣にすぎない。誇れるものと言えば、筋目の良さくらいであろう。
「別に一色殿の御命を狙っているわけではござらぬ。都におわす一色本家からの知らせを持ってきたまで」
本家からと聞いて、図書亮は若干怒気を和らげた。だが、いままで一色本家から忍びの者が来た試しはなかった。通常は、一年の時候の挨拶の折りに、都の様子を知らせてくるくらいである。
相手が胡乱の者であることには違いないが、本家からの使いとなれば無視できない。図書亮は、ようやく太刀を収めた。同時に、明沢も錫杖を下ろす。だが図書亮は、警戒を緩めなかった。
「……で、本家からは何と?」
明沢の答えは、至極あっさりしたものだった。
「一色家が、再び山城・丹後の守護に任じられた。つまりは一色家の復権だな」
思わず、息を呑む。都の一色本家は、足利一族に系譜を連ねる名門でありながら、近年、代将軍足利義教に睨まれて没落していたのだった。本家の主だった一色義貫は、義教の命令で大和信貴山において、永享の乱の責任を負わされて自害した。図書亮の父が殺され、二階堂氏一族の須賀川下向にもつながった事件である。
その罪が、公的に許された。
「待て。そうなると、上州の宮内一色家も……」
「うむ。関東管領である上杉殿も、再度鎌倉公方を立てられることにご同意なされた。宮内一色家も近々、帰参が認められるであろう」
戦を目前にして、思いがけない話が飛び込んできたものだ。
だが、と図書亮は心を静めた。
「それと、二階堂家の戦がどのような関係がある」
それが、どうにも理解できない。すると明沢は、図書亮を馬鹿にするかの如く、からからと笑い声を立てた。
「簡単なことだ。須賀川の治部大輔は、京の細川殿に働きかけ、己が正当であると認めさせようとしておる。我が主としては、それは困るのだ」
「すると、お主の主は」
明沢は、笑みを貼りつかせたまま、はきとは答えなかった。だが、都で細川と対立する三管領四職家の家柄と言えば、自ずと限られる。恐らく畠山氏辺りがこの画図を描いているのだろう。
「一色殿が与する和田の方々も、細川の息が掛かった者にのさばられては、今後困ったことになろう」
さて、この話をどう捉えたものか。たかが一地方の豪族の勢力争いに畠山氏が首を突っ込んでくるのは、どうしたわけか。
「お主は私にどうせよと?」
「簡単なことだ。須賀川との戦に勝てば良い。それが則ち、我が主への忠義の証となろう」
その主とは、誰なのか。それが今一つはっきりしないのが、図書亮は不安だった。建前上は、為氏が現在の図書亮の主である。だが武家の筋目としては、一色家は足利の支流だ。本来は足利家に忠義を尽くすのが、筋と言えば筋なのである。
この明沢を使っている主が畠山氏だとすれば、須賀川との戦を前にして、余計な話を持ってきてくれたものであると、図書亮は感じた。
「ここまで話を聞かせてやったのだ。今晩の飯くらいは馳走してくれるのであろうな」
図々しくもそう述べる明沢を、図書亮は睨みつけた。この明沢という僧が、本物の僧だとは図書亮は信じていなかった。だが、風体は紛れもなく羽黒修験のそれであるし、山伏であれば有髪の僧も珍しくない。何より、体術では明らかに図書亮より格上だ。ここで逆らって殺されても困る。
仕方なく明沢を自宅へ連れて帰り、りくに客人の分の夕餉の支度を命じた。
珍客の来訪にりくも戸惑ったようだったが、お得意の「木の子の汁」を用意して、明珍をもてなしてくれた。秋に採れた木の子を塩漬けにして保存しておき、それを汁物にしたものである。
明沢はというと、「誠に殊勝な御心がけである」と述べ、ちゃっかりとその場でりくの安産祈願の修法を行い、おまけのように図書亮の武運長久の祝詞を述べてくれた。いかにも僧らしいその振る舞いに、りくはあっさりと丸め込まれた。
一通り腹が満たされたと見ると、明沢は席を立った。
「修法まで行っていただいたのですもの。せめて一晩の宿だけでも」
そう申し出るりくの勧めを、明沢は軽くいなした。
「いやいや。今晩は妙林寺の庫裏で泊まるつもりだった。元よりそこで人との約束もあるしな」
それならばなぜここへ押しかけた。そう言いたいのを、図書亮はぐっと堪えた。やはりこの明沢という僧侶は、食えない。
「今晩の食事の礼をもう一つ進ぜよう。明日にでも、出陣命令が出る。一色殿は先鋒組と決まった」
明沢の言葉に、図書亮は冷水を浴びせられたような心地になった。まだ、図書亮の耳にも届いていない情報を、なぜこの僧が知っている。
りくも、さっと顔色を変えた。
「では御内儀。誠に結構な飯だった。どうか御身を大切になされよ」
そう言うと、明沢は再び不可解な笑みを図書亮に向け、家を出ていった。
二人で頭を下げて明沢を送り出すと、りくがこわごわと図書亮の側に身を寄せた。
「あの御坊の仰ったことは、まことなのでしょうか」
「分からん」
得体の知れない坊主の言うことなど、当てになるか。そう断言したいところだが、都の一色本家の情報や新しい鎌倉公方の話を持ってくるなど、妙に世事に通じていた。四天王ですら仕入れてきたばかりの情報なのではないか。
だとすれば出陣命令も、四天王の誰かから情報を仕入れてきたものか。
図書亮が明沢の言葉に考え込んでいると、明沢と入れ替わるように安藤左馬助がやってきた。
「一色殿。先ほど、出陣が決まった。明朝より須賀川の城に討ち入る。日の出の刻に、峯ヶ城に参られよ」
「遂に来たか……」
図書亮は、身震いした。同時に、先ほど押しかけてきた明沢の情報は、正しかったと思い知らされる。
「陣割は」
「総勢二八〇〇名。先鋒が箭部安房守殿、二陣が二階堂左衛門殿、三陣が二階堂下野守殿。本陣が御屋形の旗本衆と決まった。戦の総指揮は、美濃守様が執られる」
二階堂左衛門は、確か木之崎城主だったはずだ。二階堂下野守は、矢田野左馬允の別名である。二階堂御一門衆も、本気で治部を滅ぼすつもりだ。図書亮が初めて岩瀬の地にやってきたあのときとは、覚悟が違う。
「一色殿は先鋒だな」
何を思ったか、安藤はそう述べた。図書亮の身分も一応は為氏の旗本衆のはずだが、同時に四天王の一人、箭部安房守の身内でもある。箭部の娘であるりくの夫だから、箭部一族として安房守の陣に組み入れられたのだろう。武功を立てる機会も多いかもしれないが、死ぬ確率も一番高い。
先ほどの明沢との会話が、頭を過る。
今回の戦で武功を立てれば、それが宮内一色家の家名復帰のきっかけに成り得る――。
「安房守さまや舅殿と共に、武功を挙げて来るぞ」
図書亮はりくに向けて、不敵な笑みを浮かべた。
反対に、りくは不安そうな色を隠せない。覚悟をしていたとは言え、自身の出産を前にして、夫も父も戦場に立つのが、怖くてたまらないのだろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
九州のイチモツ 立花宗茂
三井 寿
歴史・時代
豊臣秀吉が愛し、徳川家康が怖れた猛将“立花宗茂”。
義父“立花道雪”、父“高橋紹運”の凄まじい合戦と最期を目の当たりにし、男としての仁義を貫いた”立花宗茂“と“誾千代姫”との哀しい別れの物語です。
下剋上の戦国時代、九州では“大友・龍造寺・島津”三つ巴の戦いが続いている。
大友家を支えるのが、足が不自由にもかかわらず、輿に乗って戦い、37戦常勝無敗を誇った“九州一の勇将”立花道雪と高橋紹運である。立花道雪は1人娘の誾千代姫に家督を譲るが、勢力争いで凋落する大友宗麟を支える為に高橋紹運の跡継ぎ統虎(立花宗茂)を婿に迎えた。
女城主として育てられた誾千代姫と統虎は激しく反目しあうが、父立花道雪の死で2人は強く結ばれた。
だが、立花道雪の死を好機と捉えた島津家は、九州制覇を目指して出陣する。大友宗麟は豊臣秀吉に出陣を願ったが、島津軍は5万の大軍で筑前へ向かった。
その島津軍5万に挑んだのが、高橋紹運率いる岩屋城736名である。岩屋城に籠る高橋軍は14日間も島津軍を翻弄し、最期は全員が壮絶な討ち死にを遂げた。命を賭けた時間稼ぎにより、秀吉軍は筑前に到着し、立花宗茂と立花城を救った。
島津軍は撤退したが、立花宗茂は5万の島津軍を追撃し、筑前国領主としての意地を果たした。豊臣秀吉は立花宗茂の武勇を讃え、“九州之一物”と呼び、多くの大名の前で激賞した。その後、豊臣秀吉は九州征伐・天下統一へと突き進んでいく。
その後の朝鮮征伐、関ヶ原の合戦で“立花宗茂”は己の仁義と意地の為に戦うこととなる。
【時代小説】 黄昏夫婦
蔵屋
歴史・時代
江戸時代、東北地方の秋田藩は貧かった。
そんな中、真面目なひとりの武士がいた。同僚からは馬鹿にされていたが真面目な男であった。俸禄は低く貧しい。娘二人と実母との4人暮らし。
秋田藩での仕事は勘定方である。
仕事が終わると真っ直ぐ帰宅する。
ただひたすら日中は城中では勘定方の仕事をまじめにして、帰宅すれば論語を読んで知識を習得する。
そんな毎日であった。彼の名前は立花清左衛門。年齢は35歳。
娘は二人いて、一人はとめ15歳。もう一人は梅、8歳。
さて|黄昏《たそがれ》は、一日のうち日没直後、雲のない西の空に夕焼けの名残りの「赤さ」が残る時間帯のことを言う。「|黄昏時《たそがれどき)」。 「黄昏れる《たそがれる》」という動詞形もある。
「たそがれ」は、江戸時代になるまでは「たそかれ」といい、「たそかれどき」の略でよく知られていた。夕暮れの人の顔の識別がつかない暗さになると誰かれとなく、「そこにいるのは誰ですか」「誰そ彼(誰ですかあなたは)」とたずねる頃合いという意味で日常会話でよく使われた。
今回の私の小説のテーマはこの黄昏である。
この風習は広く日本で行われている。
「おはようさんです」「これからですか」「お晩でございます。いまお帰りですか」と尋ねられれば相手も答えざるを得ず、互いに誰であるかチェックすることでヨソ者を排除する意図があったとされている。
「たそかれ」という言葉は『万葉集』に
誰そ彼と われをな問ひそ 九月の 露に濡れつつ 君待つわれそ」
— 『万葉集』第10巻2240番
と登場するが、これは文字通り「誰ですかあなたは」という意味である。
「平安時代には『うつほ物語』に「たそかれどき」の用例が現れ、さらに『源氏物語』に
「寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる 夕顔の花」
— 『源氏物語』「夕顔」光源氏
と、現在のように「たそかれ」で時間帯を表す用例が現れる。
なおこの歌は、帖と登場人物の名「夕顔」の由来になった夕顔の歌への返歌である。
またこの言葉の比喩として、「最盛期は過ぎたが、多少は余力があり、滅亡するにはまだ早い状態」をという語句の用い方をする。
漢語「|黄昏《コウコン》」は日没後のまだ完全に暗くなっていない時刻を指す。「初昏」とも呼んでいた。十二時辰では「戌時」(午後7時から9時)に相当する。
「たそがれ」の動詞化の用法。日暮れの薄暗くなり始めるころを指して「空が黄昏れる」や、人生の盛りを過ぎ衰えるさまを表現して「黄昏た人」などのように使用されることがある。
この物語はフィクションです。登場人物、団体等実際に同じであっても一切関係ありません。
それでは、小説「黄昏夫婦」をお楽しみ下さい。
読者の皆様の何かにお役に立てれば幸いです。
作家 蔵屋日唱
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる