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買いたいもの

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 机の上におかれたそれは、ふわっふわしている。フォークでさしたあと、ナイフで切り分ける。それだけでも、おいしいような気がして早く口に入れたくなった。


「アンナ?」
「今日は、よくない?」
「ダメですからね?」


 そう言われ、しぶしぶ切り分けたパンケーキをアデルの口へほうり込む。一応毒味をしてくれているのだが、正直私には必要がない。恨めしそうにアデルを睨むとおいしそうに頬をゆるめている。小憎たらしくなり、足で脛を軽く蹴ってやる。
 いたかったのだろう。言葉にできないほど、アデルは目に涙をためて我慢していた。そんなアデルに気が付いたダリアは、気の毒そうにしている。


「もう食べてもいい?」


 アデルに聞けば首を縦に振って頷いている。まだ、痛む脛をさすっていた。


「おしそうね!」
「本当ですね?」


 ダリアとそのふわふわのパンケーキを見ながら、うっとりしていると、復活してきたアデルが私に抗議を始めたが知らぬ顔をしておいた。


「アンナは酷いです!」
「ひどいのはアデルだわ!私の至福の一口を取ってしまったのだもの」
「心配しなくても、私の分を少し分けますから……子どもっぽいことはしないでください?」
「……本当にくれるの?」
「もちろんです。アンナの食べた分より多く持っていっても構いません」


「どうぞ」と差し出してくれるアデルのものも毒味が終わっているので、私はアデルが切り分けたなかでも特別大きなものを選んだ。アデルは文句ひとつ言わず、ニコニコと笑っているが、私の気持ちに気が付いたのか、「おいしくいただいてください」と微笑んだ。
 出来る男子に育ちつつあるアデルに笑顔で「ありがとう」とだけ伝えてパクリと口に入れた。


「本当、甘いものには目がないですよね?」
「そうね。大好きなのよね。そう言えば、ダリアも同じものを選んだけど、良かったのかしら?」
「もちろんですよ!ふわふわしてておいしいですね?」


 ダリアの笑顔を見て、アデルと二人ホッとした。たくさん歩かせていたせいで、全てが嫌になっていたらどうしようかと二人とも考えていた。


「そういえば、アンナに相談があるの」
「なにかしら?私に答えられること?」
「えぇ、セバスチャン様ともっとも長く一緒にいられるので、何か欲しいものを探しているのですが……」
「何がいいってこと?」


 コクっと頷くダリアに私は、セバスのことを考えた。何がいいだろうと。思いついたのは、初めて外で遭遇したときのことだった。


「セバスに平民が着るような服を買ってあげるのはどうかしら?」


 私の提案にダリアはとまどい、アデルは糸がわかったようで、笑い始めた。
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