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1章
【16】教会に出頭
しおりを挟む朝起きて、ご飯を食べに降りるだけなのにルーシは新しい服を着た。
「どう?」
「とても似合ってるわ」
「ありがとう」
ルーシは嬉しそう。
白のYシャツにグレーのベスト。ボトムは黒。カジュアルな素材じゃなかったら子供のフォーマルになりそうね。
「ルーシおはよう。もう着てきたの?」
1階にはリネットとニコラが、食堂のカウンターに座っている。
「似合じゃない」
「ありがとう」
2人はパンとスープを食べている。この宿の朝食なのだろう。
「ほい、あんたの分だよ。持ってきな」
カウンター奥の厨房からチェリオさんが2人分を1つのお盆に乗せて出してくれた。
スープはクリームシチューみたい。
「おいしい」
「ありがとね。気に入ったなら贔屓にしてな。サービスするから」
チェリオさんはカウンターに肘ついて豪快な笑みをした。
次に1階に降りた時にはリネット以外揃ってた。
「その服、よく似合ってるわ」
ヴィオラが言う。
「ありがとう」
「もう部屋に戻らないなら、チェックアウトしちゃうよ?」
「うん。大丈夫」
セドリックが受付に向かったのでルーシも付いていく。
「チェックアウトですね。承りました。次また泊まる時にはお話しましょうね」
セルヴィが微笑む。どこかチェリオさんに似てる。
「お待たせ」
「あ、リネットさん、いつもと雰囲気違う!」
白ブラウスに紺のコルセットスカート。
存在感のある胸がさらに強調されてる。
「すごく可愛い!」
「ふふ、ありがとう」
リネットは嬉しそうだけど、カシウスがそれを選んだとなると、奴はあの歳で立派なおっぱい星人ね。
中央広場まで馬車で行き、そこでジークリットさんと合流。
黒シャツに黒のパンツ。髭は剃ったみたいだけど、柄が良いとは言えないわ。
「皆さん、おはよう」
程なくしてガイウスさんとロジバールさんも到着した。
「げ、ガイウス!何でお前まで居るんだよ」
「僕たちも出席するよ」
「は?呼ばれてないだろうが」
「教会には伝えてあるから大丈夫だよ」
「ちっ、余計な事を」
「ひさしぶりに会ったのにつれないなぁ」
「俺は会いたかなかったよ。 とにかく向かうか。セドリック達は待ってるか?」
「はい。広場で時間潰してます」
「じゃぁ、また後で」
教会の門はすぐそこだったのに、そこから入らず裏に回る。
そこにも小さな門があって、内側に神父っぽい人が立っている。
「どうされましたか?」
「出頭する様言われてまして」
なにやら巻いてリボンしてある羊皮紙を渡してる。
神父がそれを確認すると、門を開けて通してくれた。
「どうぞこちらへ、ご案内致します」
教会の裏の建物はバックヤードなんでしょう。地味で天井の低い、石造りの2階建て。
入って左の突き当たりの部屋に通された。
「しばらくお待ち下さい」
長手方向の真ん中に扉があり、同じ方向を向いた長テーブルに椅子。
テーブルには白いクロスがかけられ、椅子は濃茶で背もたれが長く、肘掛けもある。クッション部分はくすんだ赤。
それが、両サイドに3席づつと、お誕生日席が1つ。
壁には窓がない。通気孔らしき穴が4つあるだけ。
10畳位はあるだろうに、狭苦しいと言うか重苦しく感じる。
扉入って左にお誕生日席。そこから見て、左にルーシ、リネット、ジークリットさん。
右にガイウスさん、ロジバールさん。
アタシはルーシの膝の上に座って待つ。
ガチャ
扉が開き、みんな一斉に立ち上がった。
「お待たせ致しました」
扉を開けたのは水色の修道服を着た娘。
続いて白いローブにおっきな被り物した、見るからに偉い人っぽい老婆が入ってきた。
「マジかよ」
ジークリットさんの呟きが聞こえた。
ガイウスさん達もちょっとびっくりしてるみたい。
「見知った方ばかりですね。どうぞお掛けになって」
お婆さんはそう言いながらお誕生日席に腰を降ろした。
水色修道女はお婆さんの左斜め後ろに立ってる。
「メルヴィル司教様。お久しぶりにございます」
「サンペリエ公爵殿もご息災でなによりです。今日はお越しになると聞いて驚きましたよ」
「恩人が聴取を受けると聞いたので、勝手ながらでしゃばって参りました」
「あら、お知り合いだったのですか?」
「先日知り合ったばかりでは御座いますが、家の執事が大変お世話になったので」
ロジバールさんが会釈する。
「ロジバールさんもお元気そうですね。‥‥そうですか」
メルヴィル司教さんは背を凭れて1拍置いた。
「私の承知していない事も有るようですね。概要を1番分かっているのはギルド長かしら。1度皆さんと認識を揃えたいので、説明して下さるかしら」
「‥‥分かりました」
「皆さん、ここで、初めて聞く事もあるかも知れませんが、他言は控える様お願い致します」
メルヴィルさんが念押しする。
「1ヶ月程前、教会から偽ポーション製造の疑いのある魔女を調査、場合に寄っては出頭命令の代行の依頼を受け、ギルド所属の冒険者パーティーをファルファルンの森に派遣。」
ジークリットさんが淡々と述べていく。
「森の中心部にある洞窟で、監禁されている少年と動物を発見したので保護し、洞窟内を探索したが彼ら以外の痕跡が見当たらなかったので帰還させました。その道中、ロジバール殿がモンスターに襲われている所に遭遇したので彼を救助し、護衛を兼ねて同行。2日前に無事帰還した。」
「教会側としては、『偽ポーション』と言うよりは新しい製造方向が発見されたのであれば、製造方法を伝授して頂きたいと言った意味合いだったのだけど?」
メルヴィルさんが訂正したけど、それは表向きな言い回しなのだろうと思う。
「私共に依頼内容を説明された時は、その様に仰ってました」
「貴女は?」
「リネット・ヘルガと申します。依頼を受けたメンバーの1人です」
「そんですか。それはありがとうございました。後ギルド長、我々が認定した者以外を『魔女』と呼ぶのは控えて下さい」
メルヴィルさんは前のめりになって少し強めに言った。
「便宜上の事ですので、ご容赦下さい」
「‥‥分かりました。他の方で概要に補足のある方はいらっしゃいますか?」
誰も居ないみたい。
「‥‥では、私から質問させて頂きます」
少しルーシの方に体を向けた。
「貴方のお名前は?」
「ルーシです」
「苗字は?」
「‥‥分かりません‥‥」
「そうですか。そちらのウサギの様な動物は貴方の従魔ですか?」
「はい。ナナチャです」
「ナナチャは魔獣なのかしら」
「分かりません。たぶんそうだと思います」
「ルーシは貴方を監禁していた人物が誰だか分かりますか?」
「サーリエの事でしょうか」
「そのサーリエと言う方は貴方とどう言うご関係ですか?」
「‥‥分かりません」
「では、ポーションの製造に関わる事を見たり聞いたりしたことは?」
「ありません」
「そうですか」
また背を凭れて1息置く。
「貴方の記憶を見せて頂いても良いかしら」
「?」
どう言う事?
「どう言う事でしょうか」
「私のスキルは触れた人の心と会話し、記憶を覗く事が出来るのです」
なんて都合の悪いスキル持ってるのかしら。それじゃぁ、アタシ達が隠してることバレちゃうじゃない。
「もちろん、今回の件に関する事以外は覗きませんし、スキル発動中でも嫌なら拒絶出来ます。宜しいですか?」
断ったら心証悪くなりそうだし、困ったわねぇ。
「ちょっと良いですか?」
リネットが小さく手を上げた。
「どうぞ?」
「その、記憶を覗けるのでしたら、ルーシの家族を探す手掛かりも見つけられますか?」
おぉ、リネット。
ルーシに家族は居ないのよ。あなたの優しさは嬉しいけど‥‥
「家族の記憶があれば可能ですよ」
「じゃぁ、お願いしてもいいですか。ルーシ、いいよね?」
「‥‥うん」
あぁ、何の対策も考えずにOKしちゃった。
対策の取りようも無かったか。
願わくばポーションの実験用モルモットにされてたと解釈してくれるのを願おう。そう見えなくも無いだろうし、たぶん。
「では、テーブルに右手を置いて、目をつぶってくれるかしら。」
ルーシは言われた通り、右手を置いた。
その上にメルヴィルさんが左手を置く。
2人共目を閉じて、何も喋らなくなった。
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