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4章
【114】
しおりを挟む行商人の馬車は、馬2頭で引く大きさなのに、帆が無い。
大きさ的にも、商人が使うにも帆が無いのは珍しい。
そこが1番分かりやすい特徴だ。
見た所、操縦者とその隣に一人。荷台の前方に2人に後方に1人の5人組。
「確かに間違いなさそうですねえ」
コリティスが認識出来たって事は相手も気付いたはずで、関係あるのかないのか荷台後方の男がギターっぽい弦楽器を持って歌い出した。
吟遊詩人も1人居たって言ってたから、いよいよ確定じゃない?
「何の歌だろう」
「ミタの英雄譚ですねえ。三神教の聖人のお伽噺ですう」
知らない題名。
それよりも、何だろう、超耳障り。
ちゃんと聞こえ出すとどんどん頭が痛くなる。
「ナナチャ?どうかしたのかにゃ?」
「あの歌聴いて頭が痛いみたい」
下手くそだからって訳じゃ無さそう。
「スキルなのかな」
「分からないけど、声掛ける口実になりそうにゃ」
ナミルが大声で行商人に声を掛けると馬車は止まり、歌も止まった。
頭痛が無くなる。
「どうかされましたか?」
操縦者と荷台に乗ってる3人は男で、助手席に女が1人。
「歌聞いてウチの馬が頭痛いって言うから、歌わないで欲しいのにゃ」
「え、言い掛かり?」
スキルじゃなかったのならそう思っても仕方無い。
只、関係ないけど、この女どっかで見た事あるのよね。
「どうして頭痛だと分かるのですか?それに歌が原因だなんて‥‥ あ、従魔ですか」
「そうなんですう。現に今は痛くなったみたいですしい」
「なら先に行って貰える?」
あ、思い出した!
パルイ村でデュラハンなすり付けて来た奴だ。
あの時もう1人居た男はこの中に居ない様だけど。
「ナミル、コリティス」
一応ルーシに伝えといて貰いましょ。
「どうしたの、先行かないの?」
男共は商人として礼儀正しい雰囲気見せてるのに、女だけやけに強く当たってくる。
こっちが女の子ばかりだから毛嫌ってるのかな。
「それじゃぁ、先に行かせて貰うにゃね」
コソコソ打ち合わせしてから馬車を動かす。
前塞いで逃げ辛くしてから審問開始ね。
行商人の馬の前に馬車をビタ着けする。
「何してるの、邪魔よ」
アタシは、ナミル達が降りてる間にこっそり元の身体に戻して貰って、背後に廻っとくわ。
これで簡単には逃がさないはず。
「我々は異端審問官です。積み荷を改めさせて貰います」
「『蔦縄』!」
ナミルが口上を述べ出すと、地面から蔓が伸び人を拘束する魔法が発生した。
よくコリティスが使うヤツ。
ただ、今回はコリティスじゃない。
「!」
蔓はコリティスとナミルを縛り上げ、口まで塞ぐ。
「動んじゃないわよガキ、ちょっとでも動いたら2人を絞め殺すわ」
首にも蔓が巻き付いている。
やられた、いきなり攻撃してくるとは思ってなかった。
「いきなり何するにゃ!」
ナミルが牙で蔓を噛み千切る。
それで喋れる様になったけど、それだけだ。
首の蔓も健在。
「何で俺達を疑ったんだ?」
疑われてるって思っただけでここまでするとかだいぶヤバい奴等じゃない?
「お前達が偽ポーション扱ってるのは分かってるにゃ」
「‥‥何でコイツ等それを知ってるんだ‥‥?」
ナミル達に聞こえない位の声がする。
「それを村で売ってるのは分かってるにゃよ!」
「シーマか‥‥だからウィンゲートは信用できないんだよ」
誰が発した小声なのか分からなかったけど、礼儀正しい風だった男共がナイフを抜く。
「殺るか?骸なんざ、その辺に埋めときゃ分かりゃしねぇだろ」
輩に成り下がった3人の男。
その方がしっくり来るわね。
「コリティス、喋れたら首守る魔法使える?」
ルーシの問いにコリティスは頷く。
吟遊詩人の後ろに隠れた女、なんだか顔色が悪く成ってる。
ナミルとコリティスを拘束し続けてる事で魔力が枯渇してるのかも。
「ナミル、コリティスの口の蔓噛みきって、他の蔓はそのままでいいよ。ボクが戦うから」
ルーシもアタシから見えてるそれが分かってるのか、2人に指示を出す。
ナミルが声を出さずに頷いている。
「行くね!」
「ガキから殺っちまえ!」
丸腰の少年に大の大人が3人がかりで襲い掛かる。
まぁ本当は丸腰じゃないし、ルーシにかかればイチコロでしょうけど。
「『鉄輪』!」
口が利ける様になったコリティスがいつもののんびりした口調からは想像出来ない速さで詠唱した。
するとコリティスとナミルに鉄の首輪が現れる。
それで首を絞められるのを守るって寸法なのね。
「ルーシ、手足の1本や2本切り落としたって直ぐには死なないにゃ。偽ポーション持ってるんだろうから、やっちまえにゃ!」
さっきから素手で男共の攻撃をかわしてるのは、生かして捕らえなきゃならないからだったのね。
アタシ、つい火ィ吹いて焼き殺そうとしちゃってたわ。危ない危ない。
アタシはまだ動く気配のない吟遊詩人と女を監視してよ。
切りかかって来た男の右腕をかわしたと同時にディアボロスを出現させて切り落とす。その流れで右足も。
片側の手足が無くなった男は立ってられずに倒れ込む。
「ガキが、何処からそんなもん出しやがった」
ディアボロスの厳つさと切れ味に怯む残りの男共。
倒れてる男の手足からは思ったほど血は出てないわ。
コリティスが魔法で止血したっぽい。そんな事まで出来るのね、魔法って。
ただ、コリティスの血色が悪く成って来てる気がする。
いつもと違う魔法で魔力使い過ぎてるのかも。
「何そんなチビに手こずってるのよ!」
「こいつ結構小賢しいんだよ。急に変な武器出すし」
「2人同時に行きなさいよ。誰も見てないんだから格好悪いとかないでしょ」
女がリーダーなのか、意気がってるだけなのか。
そもそも3対1で格好悪い事してるってのは忘れちゃってるのかしら。
左右からルーシを挟み込む男共。
ディアボロスの切れ味見ちゃったらナイフ1本でやり合うのに尻込みするのは致し方無い。
ルーシの体捌きも体感してるしね。
「!」
ルーシはそんな男共を待たなかった。
ディアボロスを低く振り、右の男の両足首を切り落とすとそのまま左の男へ。
ジャンプしてかわそうとしてるので大鎌をセリ上げてお腹にブスリ。
2人とも倒れて、うずくまったり這いつくばったりしてるけど、これまた出血は少々。
更にコリティスの顔色が悪くなってる。
「使えない奴ら!」
女から仲間への愛情が感じられない。
「まさか俺に出番が回って来るとはな」
吟遊詩人がそう言いながら弦楽器を構えた。
初めて聞く地声。さっきボソボソ独り言言っていたのはコイツみたい。
「あたしも加勢するわよ」
「お前は2人を縛り上げる事に専念しておけ」
ルーシが吟遊詩人に迫り、ディアボロスを振る。
それをギリギリの距離でかわす詩人。
まさかのコイツがボス?
すかさず二手目を薙ぎろうとした時、弦楽器のサウンドホールから沢山のワイヤーらしき物が飛び出す。
「ルーシ!!」
不意を突かれたルーシの両肩、両肘、両腿にワイヤーが突き刺さり宙に浮かされる。
右手首に巻き付いたワイヤーが絞め上がり、ディアボロスが手首ごと地面に落ちた。
「ああー!!」
ルーシの悲鳴と共に、最後の1本が心臓を貫いた。
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