後輩に本命の相手が居るらしいから、セフレをやめようと思う

ななな

文字の大きさ
2 / 5

2

しおりを挟む
 本命と付き合えたのに、俺とセフレを続ける理由って何なんだろう。家に帰る途中で、ふと疑問に思った。

 佐野ってそんなにヤリチンだったのか?

 あまりそのイメージはなかった。出会った当初は、モテまくってるのに恋人もセフレもいらないっていうスタンスだったから。

 しかも、バスケのサークルでの集まりや飲み会でも俺の隣によく居て、お開きになった後もついてくるような男だ。その人懐っこさが可愛くて、後輩の中でも一番気に入っていた。笑った顔がどことなく昔飼ってた犬に似てるし。

 趣味のバスケ以外にも、やってるゲームが同じだったりして、仲良くなるのも時間が掛からなかった。酔っ払ったせいで一線を越えても、関係が希薄じゃなかったのはそのせいだろう。

 だから…………正直、ショックだ。
 ずっと片思いしていた相手が居たこと。
 その相手と付き合えたこと。
 二つも隠し事されていた挙句、俺と関係を続けるような男だったとは…………。



 飼い犬に手を噛まれたような気持ちになりながら、電車へと乗る。満員ほどではないが、空席がないくらいには混んでいた。それが憂鬱さを助長させる。

 ドア側に立って、気晴らしに音楽でも聴くかと思ってスマホを取り出したら、とんでもない量の通知が溜まっていた。そのどれもが佐野からだ。

 着信のほかに、LINEのメッセージも鬼のように届いている。

『俺、何かしましたか?』
『急に何なんですか』
『理由をちゃんと説明してください』
『どうして怒ってるんですか』
『電話出てくれませんか』
『ねえ、無視ってひどくないですか』
『足早すぎてうざいです』
『電話出て』
『バカ』
『電話出ろ、アホ』

 後半なんてほぼ悪口だ。仮にも先輩なんですけど。既読つけちゃったし、返事を返さなかったらうるさそうだから返すだけ返しておこう。

『電車』

 それだけ伝えたら、すぐに既読がついた。

『降りて引き返してください』
『やだよ』
『じゃあ、俺が行きます。次で降りてください』
『俺のとこなんか来んなよ。もっと大事にするべき相手が居るだろ』
『そんなの居ません』

 どういうことだ?
 俺は本命より大事な存在ってこと?
 どんな存在だよ。ただの先輩でセフレだろ。

『それ、ちょっとおかしいって』
『何でおかしいんです?』
『俺も佐野のことは大事だと思ってるけどさ。とりあえず、二人きりで会わないようにしよ』
『そのとりあえずって何ですか。今日の椎名さん、怖いんですけど。何かに取り憑かれてません?』

 俺だって佐野の考えがよくわからなくて怖い。

『俺は至って正常だよ。おかしいのは佐野のほうだ。埒あかないから、もう連絡してくんなよ』
『は? ねえ、やだ、こんな意味不明のまま俺のこと捨てるつもりですか?』

 捨てるってなんだ、捨てるって。
 お前には本命が居るだろうに。まるで俺と付き合ってるみたいな言い方してくるな………。

 違和感を感じつつも、俺はLINEを閉じた。



 佐野の考えはさっぱりわからない。
 普通は本命と付き合えたのなら、セフレという不毛な関係は続けたりはしないだろう。

 特別だと思える相手が居るなら、大事にするべきじゃないか? 俺は本気で人を好きになったことがないから、余計にそう思う。
 
 今まで誰とも付き合ったことがないわけじゃないが、人見知りしない性格のせいか、向こうから好意を寄せられてなんとなく付き合うことが多かった。

 そんで、振られる。
 他の人と仲良くしすぎとか、そんな理由で。

 俺も別に好きという感情がないわけではないけど、別れを切り出されて焦ったり、執着するほどの相手は今まで居ない。

 そう、さっきの佐野のような………。
 何であそこまでセフレの俺に思い入れがあるんだろう? 確かに仲良かったし、身体の相性も良かったけどさ。

 逆に、佐野の本命の相手って誰なんだ。
 誰にでも愛想良いわりには、いつも俺の隣に居るようなやつだったから、見当もつかなかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

悪役令息はもう待たない

月岡夜宵
BL
突然の婚約破棄を言い渡されたエル。そこから彼の扱いは変化し――? ※かつて別名で公開していた作品になります。旧題「婚約破棄から始まるラブストーリー」

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...