同室のクールな不良に嫌われてると思っていたのに、毎晩抱きしめてくる

ななな

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 その日の夜は、なかなか寝付けなかった。
 津田と夜ご飯を食べてる時も、昼間のことを思い出してドキドキしてしまったし、今もそう。

 二段ベッドの下で寝ている津田の存在が気になって仕方ない。

 ……………トイレ、行こうかな。
 布団に入ってからどれくらい時間が経ったかわからない。一度下に降りようと思って、梯子に足をかけた時だ。ずるっと足を踏み外した。


 がたっ、がたがた、どたんっ!


 暗闇の中で大きな音が鳴る。
 床に転げ落ちた俺は、盛大に尻餅をついた。

「いっ……たぁ………!」
「大丈夫か? 落っこちた?」

 音で起きたのか、下段から顔を出した津田が心配そうに聞いてくる。

「うん、落ちた……足を踏み外しちゃって……」
「なにしてんだよ。怪我は?」
「痛いけど……してないと思う」

 足首は動くし、お尻へのダメージが大きいだけだ。捻挫まではしてないはず。

「そっか。ならいいけど………下で寝れば?」
「え?」
「また上に登るのしんどいだろ」

 ど、どういうこと?
 かわりに上で寝てくれるってことかな。
 
 でも、そのわりに津田が動く気配はない。

「場所を交換してくれるってことじゃないの?」
「いや………俺、高いところ怖えーし」

 声だけしかわからないけど、津田は恥ずかしそうに言った。

 高いところが怖いって………。
 だから、最初に上下どっちか決める時に「俺は下」って速攻で決めたの?

 猫っぽいと思ってたけど、高いのは無理なんだ。そっか………。

 …………………なにそれ、可愛い。
 可愛すぎないか? この男。



「…………一緒に寝るってこと?」
「うん」

 うん、って。
 そんなことある? 俺たち高校生だよ?

「早く来いよ。動けねえの?」
「う、動ける。大丈夫」

 ちょっと待って、冷静になれない。痛みなんてどこかに吹っ飛んでしまったのに、津田の元へと磁石のように引き寄せられていく。

 一緒に寝る……寝るのか………。
 冷静に考えたらおかしいのに、冷静じゃない俺は深く考えることができなかった。

「お、おお邪魔します………」

 布団の中に潜り込むと、津田の足先に触れた。シングルサイズだから、お互い横向きでも窮屈だ。ただ、暗くても津田の顔がよく見える。

「……せまっ」

 本音を漏らした津田はまた笑った。涙袋がぷくっと浮かび上がる。普段は滅多に笑わないのに。

 今日は機嫌いいの? なんで?
 …………それで、何で俺もニヤけてるんだ?

 ああ、もう、よくわかんない。
 心臓が………うるさい。


「…………あのさ」
「………な、なに?」
「俺、何か抱きしめてないと寝れないんだよ」
「………?」
「だから、高瀬のこと抱きしめていい?」

 ーーーえっ、えっ? 抱きしめる?

「いつもは布団だけど、それだと高瀬が布団に入れなくて風邪引くだろ」
「あ、う、うん………確かに?」

 なぜか納得した俺に、津田の腕が伸びてくる。

「もうちょいこっち来て」
「えっ、あ、はい」

 津田のほうに身体を寄せたら、正面から抱きしめられた。

「狭いけど……これ、落ち着くな」

 耳元で囁かれた声に、胸がきゅっと締め付けられる。顔だけじゃなくて、声まで良いの勘弁してほしい。

 しかも、何この状況。前は寝ぼけて抱きしめられた感じだったのに、自ら津田の腕の中におさまってしまった。

 でも………やっぱり落ち着くなあ……。
 程よくあったかい体温に、津田の匂い。抱きしめる力もちょうどいい。次第に緊張の糸も解けていく。

「高瀬は? 男に抱きしめられるの、きもい?」

 …………えっ、全然………。
 きもいなんて一ミリも思っていない。

 でも、友達同士でこれって普通なのかな?
 そもそも、津田と俺って友達?

 一つも理解できないのに、抱きしめられるのだけは落ち着くって思う。お互いそう思ってるんだから、別にいいよね? やっぱりおかしい?



「…………高瀬?」

 なかなか返事をしないから、津田が俺の名前を呼んだ。

 何か答えなきゃ。そう思うのに、言葉が喉につっかえて出てこない。

「………もう寝たのか。寝るの早すぎだろ」

 いくらなんでもありえないよ。俺は丸眼鏡の子供じゃないんだから。

 けど、寝てるってことにしたほうが都合がいい気がした。今の俺は何を口走るかわからない。また下手に「いい匂いする」とか言って、引かれたくない。

 秒で寝たってことにしておけば、少なくとも「きもくはないよ」っていう意思表示にはなるだろう。そうだ、そうに違いない。



 ーーーちゅ


 思考を遮るように、頭のてっぺん近くに何かが触れた。

 …………今の、何だ?
 柔らかい感触と………聞き慣れない音。

「…………おやすみ」

 ぎゅう、と一度強く身体を抱きしめられて、すぐに力が緩まる。しばらく時間が経ったら、小さな寝息が聞こえてきた。

 …………………え? 待って?
 ……………今の、キスだよね?

 寝ぼけてるとかじゃ…………ないよね。
 何でキスしたの? え? え?

 抱き枕にキスするのが癖なのかな。あはははは。

「…………………っ」

 心臓がちいさく、押しつぶされてる感じ。
 苦しい。苦しいのに、つらくはない。

 なんだこれ…………どういう現象?
 死ぬのかな、俺…………身体熱いし。
 今なら幽体離脱できそうだ。

 ………とりあえず、寝よう。寝るしかない。明日起きたらまた考えよう。

 これも、もしかしたら夢かもしれないから。
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