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◇雨男と雨女②
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「うわっ、……今から外窓の掃除をやるのか?」
目が合った途端に声をかけてきた人物は、私より四歳年上の男性社員である窪田さんだ。
ちなみにこの店舗には、もうひとり四十代の男性店長がいる。
パートさんやアルバイトの子も働いているけれど、社員は私と萌奈ちゃんと窪田さんと店長の四人だ。
「思い立ったんで、今やっちゃいます!」
「十一時になったら店長来るだろ。そのときにやったほうがポイント高いとか考えないんだな。梅宮らしいわ」
「別に店長に評価されたいから窓掃除するわけじゃないですもん」
私たち社員の勤務形態はシフト制で、早番と遅番に分かれている。
アルバイトの休みの希望もあるため、店長がうまくシフトを組んでくれていて、今日は社員の私たち三人が早番で店長が遅番だ。
先ほど窪田さんに伝えた言葉は本心で、誰かに褒められたいとか点数を稼ぎたいとか、そんな理由で外窓の掃除をするわけではない。
私はこの店で働けさえすればそれでいい。
店長に気に入られたいなどという願望は皆無なのだ。
一見そんな捻くれたことを言う窪田さんも、店長に媚びたことなんてないくせに、と心の中でつぶやいておく。
「窪田さん、ひなたさんは自己顕示欲なんてない人なんですから~」
窪田さんの言葉は萌奈ちゃんの耳にも入ってしまったようだ。
私の援護射撃をしようと、かわいらしく唇を尖らせて抗議してくれている。
「あはは、萌奈ちゃん、大丈夫。窪田さんはいい人ですもんね~?」
「いいえ、今のはなんだかいじめてるように聞こえました~!」
なんとかうまくなだめようとしたものの、萌奈ちゃんが子供みたいに再び挑発をする。
彼女は冗談のつもりなのだろう。
「うるさいな、双子か。その喋り方、いい加減やめろよ。ふたりともおんなじように語尾を伸ばすから、俺の耳がおかしくなる」
……いや、間違っても私と萌奈ちゃんは双子ではない。血も繋がっていない。
だけどたまに窪田さんは、わかっていて私たちをそう呼ぶ。
たしかに萌奈ちゃんの喋り方につられてしまうことはあるけれど。
「ヤダ~、窪田さんこわぁ~い!」
両手を頬に当てて、萌奈ちゃんがコミカルに怖がってみせる。
それにならって私も萌奈ちゃんと同じポーズをして「こわぁ~い」と言うと、窪田さんがわざとらしくあきれて溜め息を吐いた。
「なんだ、その取って付けたようなブリっ子は」
「かわいくないですか?」
「しかもふたり揃ってやるなよ! 特に梅宮、お前はいい歳をして……。そんなあざとさが許されるのは、二十五までだからな! それが俺のボーダーラインだ」
窪田さんがいきなり自分勝手過ぎるボーダーラインを引いた。
萌奈ちゃんは私よりも三つ年下で二十四歳だからセーフだけれど、私は二歳もオーバーだ。
「おい、寺沢。お前だってギリギリだぞ」
「窪田さん、今日も口が悪いですね。それに、セクハラだと思いますけど~?」
萌奈ちゃんの言うとおりだ。窪田さんは残念ながら口が悪い。
ここで働き出した当初は私もそれに驚いたけれど。
窪田さんの口の悪さには、今は完全に慣れてしまった。
もちろんお客様に対して接客時はきちんと正しているし、同僚に対しても親近感だとか愛情があるのがわかるから、私たちも許せている。
口は悪くとも後輩の面倒見はいいし、実は良い人で頼りになる先輩だ。
そんな窪田さんと萌奈ちゃんのやり取りを笑って聞き流すようにしながら、私は窓掃除のために店の外に脚立をセッティングした。
目が合った途端に声をかけてきた人物は、私より四歳年上の男性社員である窪田さんだ。
ちなみにこの店舗には、もうひとり四十代の男性店長がいる。
パートさんやアルバイトの子も働いているけれど、社員は私と萌奈ちゃんと窪田さんと店長の四人だ。
「思い立ったんで、今やっちゃいます!」
「十一時になったら店長来るだろ。そのときにやったほうがポイント高いとか考えないんだな。梅宮らしいわ」
「別に店長に評価されたいから窓掃除するわけじゃないですもん」
私たち社員の勤務形態はシフト制で、早番と遅番に分かれている。
アルバイトの休みの希望もあるため、店長がうまくシフトを組んでくれていて、今日は社員の私たち三人が早番で店長が遅番だ。
先ほど窪田さんに伝えた言葉は本心で、誰かに褒められたいとか点数を稼ぎたいとか、そんな理由で外窓の掃除をするわけではない。
私はこの店で働けさえすればそれでいい。
店長に気に入られたいなどという願望は皆無なのだ。
一見そんな捻くれたことを言う窪田さんも、店長に媚びたことなんてないくせに、と心の中でつぶやいておく。
「窪田さん、ひなたさんは自己顕示欲なんてない人なんですから~」
窪田さんの言葉は萌奈ちゃんの耳にも入ってしまったようだ。
私の援護射撃をしようと、かわいらしく唇を尖らせて抗議してくれている。
「あはは、萌奈ちゃん、大丈夫。窪田さんはいい人ですもんね~?」
「いいえ、今のはなんだかいじめてるように聞こえました~!」
なんとかうまくなだめようとしたものの、萌奈ちゃんが子供みたいに再び挑発をする。
彼女は冗談のつもりなのだろう。
「うるさいな、双子か。その喋り方、いい加減やめろよ。ふたりともおんなじように語尾を伸ばすから、俺の耳がおかしくなる」
……いや、間違っても私と萌奈ちゃんは双子ではない。血も繋がっていない。
だけどたまに窪田さんは、わかっていて私たちをそう呼ぶ。
たしかに萌奈ちゃんの喋り方につられてしまうことはあるけれど。
「ヤダ~、窪田さんこわぁ~い!」
両手を頬に当てて、萌奈ちゃんがコミカルに怖がってみせる。
それにならって私も萌奈ちゃんと同じポーズをして「こわぁ~い」と言うと、窪田さんがわざとらしくあきれて溜め息を吐いた。
「なんだ、その取って付けたようなブリっ子は」
「かわいくないですか?」
「しかもふたり揃ってやるなよ! 特に梅宮、お前はいい歳をして……。そんなあざとさが許されるのは、二十五までだからな! それが俺のボーダーラインだ」
窪田さんがいきなり自分勝手過ぎるボーダーラインを引いた。
萌奈ちゃんは私よりも三つ年下で二十四歳だからセーフだけれど、私は二歳もオーバーだ。
「おい、寺沢。お前だってギリギリだぞ」
「窪田さん、今日も口が悪いですね。それに、セクハラだと思いますけど~?」
萌奈ちゃんの言うとおりだ。窪田さんは残念ながら口が悪い。
ここで働き出した当初は私もそれに驚いたけれど。
窪田さんの口の悪さには、今は完全に慣れてしまった。
もちろんお客様に対して接客時はきちんと正しているし、同僚に対しても親近感だとか愛情があるのがわかるから、私たちも許せている。
口は悪くとも後輩の面倒見はいいし、実は良い人で頼りになる先輩だ。
そんな窪田さんと萌奈ちゃんのやり取りを笑って聞き流すようにしながら、私は窓掃除のために店の外に脚立をセッティングした。
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