許嫁幼馴染が弟に純愛寝取られたので、俺は変わることにした。

wakaba1890

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振替休日。

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 振替休日の初日、回復力にも優れた彼の体はいつものように7時には覚醒し、朝のルーティーンを終えた彼は朝日を浴びながらコンビニまで散歩していた。

「ーー・・良い天気だな。」

 関東平野の日照時間は素晴らしく最適で、冬に近づく月の中でも母なる太陽は十二分な日光を供給してくれていた。

 旅行やどこかへ出かけたり、何かのイベントに赴くなどハレの日も良いものではあるが、今日のような何でもない平和な休日はかけがえのない素晴らしいものであった。

「ーー・・ありやしったぁー。」

ウィィン

「..あそこでいいか」

 コンビニでホットティーを買った彼は近くの公園で一息つくことにした。

「...ふぅ。」

チュンチュン

 小鳥のさえずりと、朝風に揺られる木々がなびく音に耳を澄ませながら、ベンチの背もたれに体を預けた。

(...思ったより歩いたな)

 初めは10分くらいのコンビニに行こうとしていたが、朝日が気持ち良くてもう一歩先のコンビニまで行ってしまった。

「ふぅーふぅー...スゥ..あちっ」
 
 そんなことを思いながら、かなり神経を注いでホットティーを啜ると灼熱の太陽がここにも宿っていた。

「...少し待つか。」

 しばらくは冷めそうになかったので、カップを外して熱気を散らすことにし、読みかけの本を手に取った。


「ほっほー...ほっほー...ほっほー」

「なぁ、昨日のシンソウブラック見たか?!」

「見た見た!最後のシーンがめっちゃかっこよかったっ!」

「あー...部活だりぃ..」

「昨日、先輩がさぁ..」


 本に沈んでいる中、朝の取り留めのない音が聞こえてくるが、どこかその何でもない日常的な音が程よい環境音として、刻みよくページを繰るのを促していた。

「...ふぅ。」

 キリの良いところまで読み終えた彼は、本を胸ポケットにしまい、程よい熱さまで冷えたホットティーを啜った。

「..あ、あいつはあの時の」

 そして、登校時間を過ぎ、静謐な空気が流れる公園を見渡していると、いつぞやの黒猫さんと目が合った。

「...んなぁーお」

 こちらに気付いたのか、黒猫さんはこちらに近づきわざわざ挨拶をしてきた。

「あぁ、おはようさん。」

「んなっ」

 すると、見計らったかのようにこちらの膝の上に乗ってきた。

「おっ..って..おい。」

 日当たりの良い場所が俺のところだったのか、ただ甘えたかったのか定かではないが、すでに心地良さそうに俺の膝の上でくつろいでいた。

「...まぁ、良いけどよ。」

「んぁー」

 膝の上に心地の良い重さを感じつつも、時折黒猫さんの頭を撫でながら再び本に耽っていた。

 読んでいる本は、

 思ったよりも、本に入ったことで一時間ほどで読み終えてしまった。

 良い本を読了した後の、心がジワりと鳴り響く感覚に身を任せながら、蒼い澄んだ空を見上げていた。

 良い具合に、日光浴と森林浴を終えた彼は、いつの間にかありえないくらいに体が伸びている黒猫さんを、そっとベンチに置いて、昼飯の材料を買いにスーパーに行くことにした。

「...またな。」

「..んなぁ」

「ふっ..」
 
 変な鳴き方だなと、変な奴には変な猫に惹かれるのかと思った。




(...味噌煮込みうどんとか良いな。いや、カレーうどんとかも..)

 スーパーにつき、お馴染みの音楽を聴きながら今日の昼飯を何にするか考えていると、雑誌コーナーの方で何やら見知った声が聞こえた。

「・・ねぇちゃんっ!!これ買ってよー!!」

「この前、同じやつ買ったでしょ」

「いや、これは週刊で、最新刊なんだって!」

「毎回、そんなの買えません!」

「うえぇ....」

(...あいつは)

 見知った姿の女性が目に入り、見てしまったものは仕方ないと、とりあえず助け舟を送ることにした。

「...あー苦労してるな。楢崎。」

「海道っ!?」

 意図したわけではないが、彼女の死角から声をかけると、こちらを振り返る前に俺の名前を呼んでいた。

「...おじさん誰?」

 すると、呆けている彼女の弟が彼の素性を勘違いしていた。

「...おじ....さん...」

 確かに今日は帽子を深く被っており、服装もいかにも休日の独身男って感じのジャージ姿ではあるが、この世界に来て一番ショックを受けていた。

「あーっ..悠。この人は私の一学年下の後輩だよ。」

「えー?!見えない!!」

「ぐっ...」

 容赦のない三本程の槍が体を貫き、ライフはもうゼロに近かった。

「海道っ..すまない。悠も悪気があったわけじゃ...」

「そ、それより、週刊雑誌が欲しいのか?」

 これ以上、胸を貫かれるわけにはいかなかったので話を逸らしに行った。

「え、あ...そうなるな..」

 楢崎も何となくは把握しているようだった。

「..毎週買ってるから、貸してやる。」

「ほんとぉ?!ありがとうっおじさん!!」

「...あ、あぁ。」
 
 おじさん呼びにも流石に耐性がつき始め、精神年齢は37歳だから間違いではないかと受け入れつつあった。

「ちょ、だから...この人は・・」

 彼女が何とか訂正しようとしているものの、初対面の印象というのはなかなか覆せそうになかった。


 その後、なぜか一緒に買い物することになり、掴み取りで袋いっぱいの生姜と、おひとり様一つの豚肉の肉塊500グラムを買わせられた。

「ーー・・いやー助かったよ、海道。」

「おじさん。すごい手がおっきいんだね!」

「あ、あぁ。」

 彼の中で海道はすっかりおじさん扱いされていた。

「...海道。このあと時間あるか?」

「あぁ。」

「なら、よければお昼食べて行かないか?」

「あー...ご馳走になる。」

 そこまでされるのは少し気が引けたが、どのみち買い物袋を彼女の家に持って行かなければだったので、素直に受け入れることにした。

「うむ、了解した!」

 誘いがすんなりと通り、花開くような笑顔が咲いた。
 




 
トントントン...

「ーー・・なぁ、本当に手伝わなくて良いのか?」

 台所の方から小刻みにまな板を鳴らす音が響く中、手持ち無沙汰が妙に気が落ち着かず、再度同じことを投げかけてしまう。

「んー?うん、大丈夫!ゆっくりしててー」

 家での楢崎は妙に家庭味があり、いつもの凜とした彼女よりかは雰囲気が柔らかかった。

「あ、あぁ。」

「....。」

 彼女の弟は彼が貸した週刊雑誌を真剣に読み込んでおり、彼は未だ手持ち無沙汰にあぐねていた。

(....新妻みたいだな。)

 台所で鼻歌混じりに調理している楢崎を横目で見ていると、やはりそういった感想を抱いてしまい、結局ご飯ができるまで彼女の無防備な後ろ姿を眺めていた。
 
 
 

 

「ーー・・うわぁ!!うまそーっ!」

「ちょっ、いただきますしてからでしょっ」

 おそらく全人類が好きであろうカレーを目の前にした弟君は、飛びつくように食らおうとしていたが、楢崎に止められた。

「はーいっ、いただきますっ!!」

「はい、召し上がれ。」

 割と聞き分けの良い弟は素直に、彼女にならい食事を始めていた。

「...頂きます。」

「うん、召し上がれ」

 微笑ましい様子を傍に食し始めると、楢崎は穏やかな様子でそういった。

「....モグモグ。」

 淡々と食事していると、彼女はチラチラとこちらの反応を気にしていた。

「...ど、どうだ?」

 彼女に感想を聞かれ、少し前に青鷺と久留米が作ってくれた弁当の時を思い出し、率直な感想を返すことにした。

「..うまい。かなり」

「そ..そうかっ...よかった..」

 素直な彼の感想を聞いた、楢崎は嬉しさを滲ませていた。

「あっ!らっきょも食べるか?自家製なんだ」

「...もらっていいか?」

 確かに美味しいのだが、ちょうど口を涼ませたいところだったので親切にあやかることにした。

「あぁ!とってくる!」

「....」

 先までうまそうにカレーを貪っていた悠が不思議そうにこちらを見つめていた。

「...どうかしたか?」

「...おじさんって、ねぇちゃんの恋人なの?」

「なっ?!」

 良いタイミングで楢崎が戻ってきており、小皿を持ちながら硬直していた。

「いや、違う。」

「ふーん。おねぇちゃん!おかわりっ!」

 悠は自分から聞いた割には特に興味なさそうにしながら、ちょうどよく現れた彼女にそういった。

「...っ....ふぅ、はいはい。」

 一人で乱れている彼女であったが、一息吹いて、おかわりをついだ。

「俺ももらっていいか?」

「あ、あぁ。ふふっ..」

 思わぬ言葉に彼女は隠す素振りも見せずに、ご機嫌に彼のお皿を受け取った。

 

 その後、デザートまでご馳走してもらい、一息ついていた。

「...さてと。」

 一緒に一息ついていたが、彼女はそういえばと台所の方へと向かい洗い物をしようとしていた。

「....俺がやる。」

  流石にもてなされているばかりと思っていたため、食い気味に台所に割り込んだ。

「あっ...じゃあ、お皿をタオルで拭いてくれ」

「あぁ。」

 彼女は彼に気圧されたのか素直に了承し、もらってばっかりのこちらの気持ちは少し和らいだ。

 悠はデザートを食してからすぐさま寝てしまっており、淡々と洗い物が消化されていく中、食器の甲高い音と水で泡が流れる音だけが部屋に響いていた。

「...な、なんか...夫婦みたいだな。」

 ふと、彼女はこちらを見るでもなく、少しこそばゆそうにそういった。

「...かもな。」

 家ではいつもよりも穏やかな彼女は、年季は入ってはいるものの、よく手入れされたエプロン姿も相まって、まさに新妻のような空気を醸しており、彼女の言葉がすんなりと入った。

「っ...」

 思わぬ好感触の返答に、彼の方を向いてしまう。

 そして、彼のスッと流れるような、涼しい横顔に見惚れて口が緩む。

「なぁ、海道は...」

 決闘以来、今までで一番彼との物理的な距離が近く、二人っきりの中、彼女は何か言いかけていた。

「....よし、終わりだな。」

「え、あ...あぁ、そうだな...」

 いつの間にか洗い物は終わっており、彼もその全てを拭き終えていた。 

「そろそろ帰る。今日は色々ありがとな。」

 そして、昼飯にデザートまでご馳走になったため、これ以上もてなされるのは申し訳が立たなかったので、少ない荷物をまとめ帰ろうとした。

「あっ...」

 しかし、彼女はそうはさせてくれなかった。

「どうかしたか?」

 他に何か用があると思い、なぜか一杯一杯な彼女に向き合う。

「え、あ...賞味期限が近い茶菓子があるんだ。お茶でもどうだ...って、勿論このあと予定がなければだが...」

 学校の時のようなクールで、キリッとした彼女とは程遠く、楢崎は弱々しく、塩らしい様子で絞るようにそういった。

「....構わない。」

 帰っても筋トレしてゲームするか位であったので、彼女の様子を不思議に思いつつも、彼女の誘いを了承した。

「ほんとか?!すぐお茶を入れるっ!」

「...そんな急がなくても」

 バタバタしている感じはないが、異様に手際よくお茶を沸かしていた。

  


「...うまいな。」

 家では男の一人暮らし故、茶沸かしなど面倒なことはしなかったので、いつもアミノ酸ドリンクかスポドリ、水くらいであったので、シンプルな煎じた家庭のお茶は久しぶりであった。

「そうか、よかった。」

(...なんか今日、女っぽいな)

 お盆を胸に当てながら、こちらの感想にホッとしている彼女はいつもよりも女っぽかった。

「むっ、なんか失礼な事考えていないか?」

「..いや、うまいなと。」

 こう言う時の女のセンサーの精度は、嫌に正確だった。

「うむ、そうか。」

 一瞬、学校の時の雰囲気に戻ったが、彼の素直な感想で元に戻った。

「「.....。」」

 しばらくお茶と残りかけの茶菓子を摘み、静かな時が流れていると、おもむろに彼女の方から話が振られた。

「..そういえば、海道。修学旅行はどうだったんだ?」

「まぁ、普通。」

「っ..普通って....もっと他に感想あるだろう...」

 彼女は彼のぶっきらぼうな返答にズゴっと体を落とし、苦言を呈していた。

「あー...まぁ、楽しかったな。」

 前の世界での修学旅行でも、割と自由に行きたいところに行って楽しかったが、今回の知った仲の友人との修学旅行はまだ違った楽しさではあった。

「うぅ...やはり、私も行きたかったぞ...」

 微妙に表情が柔くなっている彼の表情を見て、彼女は悲しそうに茶菓子を頬張っていた。

「...まぁ、次はあいつらと一緒に行けるから、良いだろっ」

 普通に次は、プライベートで行けばいい話であったため、まぁ、そんな落ち込むなというのも含めて、一口カステラを彼女の口に放った。

「むぐっ...むぅ、そふでふぁあるが...」

 いきなりの口撃に、不本意そうに頬を染めながら、彼女はリスみたいにモグモグと咀嚼していた。

「ふっ..まぁ、楽しんでこい。」

 彼女のリスのような頬袋が可愛らしく、思わず笑みがこぼれそうになった。

「...む?海道も行くのであろう?」

 咀嚼しきり、お茶で口を潤した彼女は他人行儀な彼の言葉に引っかかっていた。

「いや、そう言うのは女同士の方がいいんじゃないか?」

 普通、旅行って同姓同士で行くものだと勝手に思っていたため、彼女の前提は少しギャップがあった。

「ん?なぜだ?」

 彼とのギャップに触れた彼女は何をいっているんだ、お主はといった顔でこちらを見ていた。

「俺が行っても邪魔なだけだろ。」

 白木は例外として、普通の旅行でほぼ女グループに男が一人だけってのは正直気が引けた。

「ッ!....はぁ...環奈が言っていたのはこれかぁ...」

『ーー・・海道くんは、見えない壁っていうか....未だに、距離を感じるんですよね。』

 彼のこういった姿勢に、彼女は以前海道が話の話題に上がった際に、環奈がボソッと言っていた事を思い出した。

「?」

 何も変な返答をしたわけでもな買ったが、やれやれといった様子で頭を抱えていた彼女を見て、彼は疑問符を浮かべていた。

「....とかく、俺は行かんでも...」

 行けば楽しいのはわかっているが、予定ができるというのは正直鬱陶しいためそこまで乗り気ではなかった。なので、早めに確実にそれを切り上げようとした。

「だ・め・だっ!」

  すると彼女は拳二つ分くらいの近さまで顔を近づけ、こちらの返答を拒否した。

「っ...」

 まっすぐすぎる彼女の青い瞳の前では、はぐらかしたり目を背くことは許されなかった。

「....何でだよ。」

 彼女に気圧されながらも、彼は彼女がそこまでムキになる理由を欲した。

「...そ、それは...」

 そこまでは考えていなかったのか、彼女は言葉を詰まらせていた。

「だろ、俺が行っても...」

「とにかく!一緒に来るんだっ!」

 彼女の勢いが削がれたタイミングで、この話を終わらせようとしても彼女はパッションで押し切った。

「...あぁ、わかった。」

 しばらく見つめあった後、おそらくここで了承しないとこのやり取りは終わらないと直感し、渋々了承した。

「うむ。それで良い」

 望んだ返事が返ってきたのに満足そうに、彼女は満面の笑みを浮かべた。

「...ふっ」
(可愛いやつだな。)

 不覚にも彼女の嘘偽りないその笑みを可愛いと思ってしまい、何だか二回負けた感じがしたが悪い気はしなかった。







 上機嫌になった彼女を傍目に、ふと中庭の方に目を映すと丹念に手入れされている中庭が目に入った。

「...今更だが、なんでバイトしてんだ?」
 
 みたところこの家の内装や、そこそこに広い中庭からそこまでお金に困っているようには見えなかった。
 それに彼女自身、年相応の物欲すらなさそうなため欲しいもののためとも思えなかった。

「あ、あぁ...あー、地元の道場がな...なくなりそうで、何とか今は私が維持費を出して...」

 彼女はどこか言いずらそうにしていたが、上機嫌さが残っているのか割とスラスラと話してくれた。

「.....。」

 そして、それを聞いた彼は顔には出さなくとも内心愕然としていた。

(....もっとこう、親が病気でお金を工面しなきゃとか、借金とかでとか色々想定はしてたが....)

 正直、色々と言いたいことはあったが、とにかくその程度の事で安堵していた。

「はぁ...何で俺を頼らないんだ....」

 そして、とりあえずはそれだけが引っかかっていた。

「え...いや、友に迷惑かけては...」

「だぁほ、そんな事じゃねぇよ。」

 金の援助とかを頼み込むとかそういうニュアンスで捉えていたが、それではなく彼はただ困っていたならせめて相談くらいはして欲しかったというだけであり、そのもどかしさを彼女のおでこを人差し指で軽く押して解消した。

「いたっ...い....わけではないが...なんだ?!」

「ったく、お前は、単純というか、愚直というか...」

 まだ未成年なんだから教師や、大人に頼るのが普通なのだが、彼女は持ち前の責任感の強さゆえか、何でも自分で何とか出来ると思い上がっている節があった。

「....だぁほっ!」

 それが少しムカついたので、もう一度彼女のおでこを指で突いた。

「わぁっ...なっ、なんだ?!」

 押されたおでこを手で押さえながら、初めて見る彼の一面に彼女はわかりやすく動揺していた。

「...国からの公認をもらえ」

 彼女のかけがえのない時間がこれ以上、バイトなんぞに無駄にされたくないので、すぐに先手を打った。
 
「こ、公認?」

「あぁ、国は文化保全と青少年の健康な心身の育成に、空手、柔道、剣道、合気道や、それに準ずる施設に補助金を出してる。」

「なっ、え、初耳だぞっ!!」

「調べればすぐに出るぞ」

 実は、この世界の日本は前の世界とは別の歴史を辿っており、そのお陰で政府や国民は国体の祖を理解しているため、著しく民主性が優れていた。

「zoozleか?名前は聞いたことはあるが....それに、人様に力を借りるなど...」

(そっからかぁー...)

 その一言で、彼女は機械音痴であることが見て取れ、若さ以上に視野の狭さが顕著であった。

 しかし、今はそれよりも最後のが聞き捨てならなかった。

「だぁほ!」

「いたっ、くはないな...何をするっ?!」

「あのな、この国の政府や行政は、国民のために尽力してんだ。それにもとはといえば、楢崎の両親が働いて納めた税金から還元してるんだから、さらに未成年である楢崎は、国からの制度や支援を受ける義務があるんだよ。」

「ぐっ...しかし....」

 彼女を形成してきた、他人に迷惑をかけない、他人のせいにするのは良くない、自分のことは自分でどうにかするなど、聞こえの良いが、実際には役に立たない言葉のせいで、それでも彼女は納得しきれていなかった。

「今は支援を受けろ、そして、働き始めたら、また、納税の義務を果たして、今のお前みたいに支援を必要とする人に行き渡るようにしろ。」

 今度は彼女の目をしっかりと見つめて、力強く諭した。

「(支援を必要とする人か...).....わかった。」

 彼の言葉が届いたのか、どこか清々しいくらいに納得してくれ、どこかそれ以上に、何か決意したような感じが感じ取られた。

「よし、取り敢えず今からでもweb上で審査の申し込みが出来るから、パソコン取り出してくれ。」

 話がひと段落したところで、彼女にパソコンの催促をした。

「あ、あぁ。.....あった。」

「....いや、お前がやるんだぞ。」

 俺の前にパソコンを置かれたが、先の致命的なスキル不足から彼女にやってもらう必要があった。

「え...しかし、起動の仕方すら...」

「...今日は最低限のパソコンの使い方が身に付くまで、付き合ってやる。」

「えぇ....」

 おそらくパソコンや電子機器が苦手であろう彼女は、初めて弱気な彼女が垣間見れた。

 結局、数時間ほどかかったもののweb上での申請が完了し、彼女自身の華々しい剣道の実績から国からの認可の可否はそう心配ではなかった。 


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