許嫁幼馴染が弟に純愛寝取られたので、俺は変わることにした。

wakaba1890

文字の大きさ
34 / 38

王子の正体。

しおりを挟む

 学年で一番人気の王子様を下した俺は色々と疲れたため、その日はそのまま早退した。

 そして、次の日、冬休みを越せばそのほとぼりは収まるだろうと、残り数日程度の今学期を全休しようと思ったが、それを読まれたのか久留米が家に押しかけてきたため、行く羽目になってしまった。

 女子からの人気が爆発していた王子様を倒したためか、登校中、男子生徒たちからは楢崎の時とはまた数段違った尊敬の視線を感じており、女子生徒たちからはガッツリ目の敵にされていた。

 そして、何故か久留米は自慢げにしながら微笑み、周囲を牽制していた。

 ともかく、それは篠蔵も同じようで、教室に着くとどこか上機嫌に昨日の事を掘り返してきた。

「・・よよーい、昨日は災難だったなー!」

「.....そうだな。」

 昨日と比べ校内が一段静かになった事で、海道くんの機嫌はいつもより上向きだった。

「ん、海道くんは天堂さんの事がそんなに気に入らなかったのですか?」

 いつもより柔和な彼の空気から、ひょこっと出てきた久留米はなぜか微妙にずれた経緯を導いていた。

「.....ん?」

 窓越しに快晴な天気に当たりながら、外の景色を見ていた彼はその曲解されてる発端に疑問符を浮かべた。

「あれ、天堂くんの事が気に入らなかったから、締めたんじゃあないんですか?」

 そして、久留米の陰に隠れていた、青鷺は腕を交差させて物騒なポーズをとりながら同じような事を言っていた。

「....スゥ、お前らなぁ」

確かに、天堂が決闘を申し込んで来た時も、見ていた女子生徒たちから見れば俺から絡んでいったように見えても致し方ないのは事実だったが、随分前に滅びたオールドメディアのようなひどい言われようだった。

「うーん、まぁ、勘違いなのはわかりますが、実際気に入らなかったのは事実でしょう?」

「....否定はできんな、ただ天堂よりか周りの騒いでる奴らが耳障りだったから、唯一意味のある決闘だったな。」

「ふふっ、海道くんは定期的に何かしらに巻き込まれますね。」

「....はぁ、勘弁してほしい。」

 ほんとそう言ったのは芝春に押しつけたいところだが、あいつクリアした判定になっていそうなんだよな...

.....あれ、もしかして俺がプレイヤー認定されてるから、変にイベントに巻き込まれんのか?

 いや、まさか、だとしたら、誰かしらとゴールしないと....

 ギャルゲー世界の名残が残っているのだとしたら、嫌に自分に降りかかってくるイベントが止むには、誰かしらとゴールしないといけないという面倒な結論に陥り、そういうのは今はもういないこのキャラへの手向けから逸脱していると納得できなかった。

ーーーーガラガラっ

 しかし、この世界はそれを許してくれそうになかった。
 
「ーー・・海道くんはいるかい?」

「「「キャァァァァっ!!」」」

「天堂くんっ!!」

「はぁぁ...今日も素敵すぎ、朝から最高」

 扉から出てきたのは、 件の人、天堂 飛鳥であり静かだった教室内は一気に熱気に包まれた。

「....スゥ....行くぞ、天堂。」

「ぇ...あ、はい。」

「....大丈夫かしら」

 息をゆっくり吐きながら、こんなうるさい所では天堂からの話?を消化できないため、意外と細い天堂の腕を掴んで屋上へ連れ、彼らを見送った久留米は心配そうに頬に手を当てていた。

「・・うわっ、こんな所があったんだね。うぅ....はぁ、いい所だね。」

 ラピュタが入っていそうな雲を一望できる、日光で一面温められた屋上に連れられた天堂は、息を深く吸って気分良さそうに可愛らしい笑顔を浮かべていた。

「お前、来た事ないのか?」

「うん、本棟の屋上は何度か行った事があるけど、ここは初めてだね。それに、いつも、女の子たちが僕を離してくれないからね....」

「....お前も、大変だな。」

 中学の頃、芝春も桜楼とクラスが離れた年は、今がチャンスとクラス中の女が芝春を囲っており、四六時中カバディされていたのを思い出し、今の天童に姿を重ねた。

「んぅ....」

「なんだよ」

 子供みたいに頬を膨らませて、不満気に近くで顔を寄せてくる天堂にそう聞いた。

「何で、名前で呼んでくれないんだい。僕ら、拳を交わし合った仲じゃないか」

「俺は、お前に指一本触ってないだろ。」

 天堂が気に食わなかったのはお前呼ばわりされる事だったらしいが、彼の言う通りこちらからというか互いに指一本触れていないため、端から見れば決闘と言っていいのか定かではなかった。

「ぐぅ...確かに....」

 確かに彼の言うことは正しかったため、不服ながら納得していた。

「で、何のようなんだ。天堂?」

「っ!...そうそう、昨日の決闘の勝利報酬の話でね。」

 一方、呼び方なんてどっちでも良い彼は用件を聞くと、それは報酬の話であった。

「いらねぇ...」

 その手の話は、虎野パパや楢崎、京奈と散々した話であったが、今現在も彼が欲するものはなかった。

「え、いやっ!そう言うわけにもいかないんだ....」

 それを聞いた天堂は虚をつかれた後に、どこか焦るように食い気味にそう言ったきた。

「あ?」

「その....僕は天堂グループの跡取りで、父に今回の決闘の始末を聞かれてね。今は誤魔化してるけど、タダでまけ、勝利者への対価を支払ってないと、それは天堂家の名に泥を塗ることになる....」

 短く彼の経緯を聞くと、また虎野と似た面倒な事情だった。
 
「なら、俺が直接言いに行く。」

 今回の件もそうだが、面倒なイベントに巻き込まれそろそろ鬱憤が溜まっていた彼は、つい出そうになった言葉を直接言うために少し前のめりになっていた。

「え、あー...それは、ちょっと....」

「天堂が案内しねぇなら、俺一人で行くだけ....」

 父の怖さを想像して、目を細めながらやんわり断ろうとしていたが、変なスイッチが入っていた彼は今日にでも行く気であった。

「ちょちょっ!それは勘弁をぉっ!・・」

 昨日の決闘時点で、すでに海道も身元が割れているため、仮に彼一人だけ行かせてしまえばそれこそ天堂に落ち度が出来てしまうため、天堂は了承するほかなかった。

 そして、放課後。夜空を明るく照らす天堂グループ本社ビルへと到着した。

「・・あ....ぇ...本当に行くのかい?」

「何してんだ、行くぞ。」

「わっ、待ってよー!」

 見慣れているはずの渋谷の一等地に建つ天堂グループ本社ビルを前に、狼狽えている天堂であったが、彼は既に先へと向かっていた。

 すると、彼の顔が通っているのか、天堂なしでもすんなりと通り、とんとん拍子で会長室まで案内された。

 未だ腹を括っていない天堂は、弱々しく引き返そうと提案してくるが海道には通じなかった。

「....あの、やっぱ...」

ーーーコンコン

「失礼。」

「...おぉっ!君が海道くんか。」

 資料とモニターを照らし合わせていた天堂パパは、こちらが目に入ると作業を中断して駆け寄ってきた。

「あぁ」

 思っていた様態と違って歓迎されながら、出されるがままに握手に応じた彼であったが、彼も天堂とは初めて会ったはずだった。

「いやぁ、噂はかねがね聞いているよ。君の数量統計理論は素晴らしい。お陰で、うちの業績は冬季でも上昇傾向を維持しているよ。はははっ」

 彼がコンテストで優勝した統計理論は、仮想環境でコスト制限をシュミレートし、どの因子が逓減に寄与するかを確率的に予測するものであった。
 元は、持っていた株式の中で所有権を持っていた製造業関連の企業へ、コスト最適化を促すための方策として考えた理論であり、お陰で持っていた株式は軒並み数十倍に膨れ上がった。

 そして、今では更に応用を極めた理論で株式投資において日本株では負けなしであり、鮎川さんに肉薄していた。

 と言うのはともかくとして、海道はさっさと要件に入って終わらせにいった。

「今日の要件だが、先日の決闘への報酬は要らないという事だけを伝えに来た。」

「.....飛鳥。どう言う事だ?」

「ぁ...っと、先日の決闘で...」

「....申し訳ない。海道くん。」

 決闘の始末なんてさっさと終わらせていたと思っていた天堂パパは、表情ひとつ変える事なく飛鳥に詳細を聞こうとしたが、要領を得ないと見切った彼は素早く海道に頭を下げた。

「ん、俺は何も失ってないだろ」

「大筋は聞いているよ。大方君に落ち度はないだろう、飛鳥が先に吹っかけては負け、挙げ句の果て、その代償を支払わずにして、浅はかにも君に泣きついたのだろう。」

「大体合ってるな。」

 耳がはやい天堂パパは経緯を正確に把握しており、その辺は海道と一致していた。

「っ....ん...」

 それを聞いた天堂は何も言い返すことが出来ずに、ただ目を伏せていた。

「天堂家の当主として、重ねてお詫びする。うちの子が迷惑をかけて申し訳ない。」

 そして、天堂パパは改めて頭を深く下げて謝罪した。

「.....」

 初めは、お前らの都合なんか知るかよ。と始末をつけて終わらせるつもりだったが、思った以上に敬意に満ちた謝罪をされ、むしろこちらが悪者のようになってしまっていた。

「今ので、報酬の件はチャラだ。要件はもうない故、帰らせてもらう。」
 
「....すまないが、そうはいかないよ。」

 居心地が悪くなり始めたので、早めに切り上げる事にしたが、そう易々と帰らせてくれなかった。

「はぁ...だから...」

「このまま、先の謝罪だけで終わらせてしまうのは、天堂家の名に恥じる。何でもひとつ要望を言ってくれ。」

「スゥ.....(これまた相応の事を言わないと終わらないか....)」

 シェンロンのような常套句を聞いた俺は、既視的な状況で渋々思案した。

(既に満たされてるから、欲しいものは特にないしな....強いて言うなら、さっさと高校辞めて南の島でのんびり自分の時間に没頭したいってのがあるが、別に2年くらいすれば行くのは確定だろうし、それ以外なら、)

 この世界の日本は、武士が何であるか子供でも理解しているから、こういった状況で有耶無耶にできないのは致し方ないにせよ、毎度毎度似たような事を言われても答えは同じだった。

「じゃあ、一つだけ質問に答えてくれるか?」

「あぁ!勿論さ、何でも聞いてくれ。」

 私財や独自のコネクションなどの紹介などと想定していたが、ここですぐに済むような対価だと思い少し安堵していた。

 そして、彼はおもむろに蚊帳の外だった天堂を指差し、その問を突きつけた。 

「なんで、こいつは男装してるんだ?」

「.....ん?」

 彼に突然指を指された天堂はいつもの嘘くさい微笑みではなく、作風の違うアホ面を晒していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

処理中です...