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彼の胸中。
しおりを挟む「ーー・・がっ...まじか...」
朝ジムを終え、朝サウナで気持ちよく整った後、ファイナルなファンタジーをプレイしており、ちょっとだけ遊ぶつもりが、熱中してしまってしまい気付けば一時間近くプレイしてしまっていた。
そして、ちらっと時計を見ると時刻は9時を回っており余裕で遅刻していた。
「...っと、もう学校始まってんな...いくか。」
キリが良かったわけでもないが、楽しみは後に取っておく主義なのでその辺で切り上げ、学校へと向かった。
季節は秋を迎えた。10月初旬の天気は暑くも寒くもない過ごしやすい気温で、人々の活動を活発にさせていた。
ただ、彼を除いて..
「ーー・・やっぱ行かんでいいか..」
いくら楽しみを後に取っておきたくとも、先までの没入感が抜けきれず続きが気になってしまっていた。
「...ん」
そんな事を言っていると、普段は通らない学校まで続く並木道に差し掛かり、綺麗で多様な色彩を彩っている紅葉が目に入った。
どこを眺めても、暖かい色を基調とした紅葉が綺麗だった。そして、導かれるかのように紅葉の並木道を歩くのはどこか心を澄ませ、心が洗われるのを感じた。
「...良いとこだな....ぁ。」
自然にそう呟いていると、並木道の先に紅葉をより引き立てるかのように、白い天使が現れた。
「...!」
一瞬、天使かと見違える程、幻想的で綺麗なその人は白木さんで、こちらに気付いた彼は素晴らしい一日を約束する屈託のない笑顔でこちらに手を振っていた。
「..しら可愛い。」
微妙に声の届かない距離だったのが、幸いして彼から漏れた心の声は白木に届かずに済んだ。
「...海道くんも寝坊?」
わざわざ待っててくれた白木は、追いついた彼にイタズラな笑顔でそう聞いた。
「..あぁ、そんなところだ。」
寝坊ではなかったが、白木の無敵の笑顔の前ではYesかYesしか選択肢はなかった。
「ふふっ、一緒だね。」
「..ふっ、そうだな。」
朝からご機嫌な白木さんは、彼の気など知らず彼の心をかき乱していた。
(...可愛い。)
教室の前に着くと、授業中にも関わらず何やら賑わっていた。
ガラッ
「「「......。」」」
彼が教室に入ると一瞬で鳴り止んだが、彼が席につくと徐々にうるささを取り戻していった。
「ーー・・おう、重役出勤か?」
「あぁ。」
何かのしおりを持っている篠蔵は、冗談めいたことを言ってたが彼は気にせず漫画本を取り出していた。
「...って、おいー。」
「...あ。」
篠蔵は何かツッコミを入れようとしていたが、どこからか現れた久留米が彼の漫画本を取り上げて、この時間の説明をした。
「おはよ、海道くん。今、修学旅行の班決めしてるから、ちなみに海道くんは私の班に決まったよ。」
「おい、勝手に...」
「春ちゃんも同じ班にした。」
遅れている間に勝手に決められたことに異議を唱えようとしたが、すぐに御された。
「なら、良いか。」
「っ..ぁ..//」
あっさりと納得した彼を見た白木さんは、どこか居ずらそうに久留米の影に隠れた。
「?...あと、一人は..」
四人一組らしかったので、最後の一人を探していると、青髪の眼鏡をかけた女子がひょこっと現れた。
「私です!」
「って、お前か」
「お前って...私は青鷺です!」
実は結構頑張って猫をかぶっている青鷺がラストピースだった。
「...ふぅーん。」
やけに仲が良さそうな彼女とのやりとりを見ていた、久留米は異様な観察眼から何か察していた。
「なんだよ」
「いつの間にか、仲良くなったんですかね。」
「っ...へー、なんででしょうねぇー...」
昨日の件を言うわけにも行かず、青鷺はわかりやすく誤魔化していた。
「...実は格ゲーのフレンドでな。最近それを知ったんだ。」
このままだと、久留米に丸裸にされかねないので、見かねた彼は助け船を出した。
「そ、そう!それです!」
彼からの合わせろ。という視線を受けた彼女は、勢いよく久留米に迫りながら彼に乗った。
「そ、そうなんですね...。とりあえず、旅順を決めましょうか。」
ゲームとかアニメなどの関連には疎い彼女は、彼女の反応に違和感を覚えつつもそう言うものだと腹に落としていた。
「ーー・・11時か、まぁ少し早いが昼休みで。」
そうして、無事に要領の良い久留米が旅順を決め終え、午前中を使ったロングホームルームから、緩めの担任によって早めの昼休みを迎えた。
「ーー・・なぁ、白木。昼..」
「あー...僕はちょっと作品に取り組まないとだから...」
いつものように白木を誘ったが、今日は芳しくなかった。
「..あぁ、わかった。悪いな引き留めて..」
白木にも用事があるとはいえ、断られてしまった事への気落ちは隠せなかった。
「あ...うん。ごめんね...」
それを察した白木は、申し訳なさそうにそう言い残し美術室へ行ってしまった。
胸が痛みながら、今までのように一人で特別棟の屋上で昼食を摂った後、何気なく屋上の先に寄りかかり緑の多いグラウンドの景色を眺めていた。
ビューーー
涼しい風が吹き、久々に静かな屋上が心地よかった。
「...独りってのも悪くないだろ、海道。」
人は社会性の生き物といわれるが、今の世界には適応しているようには思えない。
実際、前の世界でも、友人関係になれそうな機会は多少はあったが、本当に気の合う人などいなかったため、自分の時間を割く意味がなかった。まぁ、相手も同じだったろうが...
とかく、海道自身も、わかってるはずだ。人付き合いの得意でない彼にとっては独りの方が気楽だし、今の世界は彼のような独りの人間にとって豊か過ぎるって事を。
確か、史実での海堂 清澄はどっぷり浸かったオタクで、ゲーム、アニメ、漫画、小説、スポーツ観戦など一見してかなり充実した日常を行なっていたみたいな描写があった。
いや、それ俺じゃん。
まぁ、ともかく、遺伝子的には、今の俺になれるくらいの素質はあったが、たとえ才能があっても芽吹くのは結局環境、含め運次第だしな、今の俺になれたのも、俺っている不確定分子が奇跡的に上手くかみ合わさったってだけで、最大要因は運に収束する。
だから、海道が進みそうだった道として、適当に働いて後は趣味を謳歌するっていう人生も満更幸せだったろう。
あれ、実は海道くんって主人公が攻略した後も、結構いい人生送ってたんじゃね....
段々、海道くんに義理を果たすどうこうへの疑問を持ち始めたところ、中庭の方から話し声が聞こえた。
「ーー・・ははははっ...それほんとなの?」
「うん。ほんとだよー」
「ふふっ。」
肉体的と言うより生物的に強くなったのか、なぜか無駄に良くなった視力で捉えたのは、桜楼と芝春でついでにもう一人、芝春と同じ身長くらいの見覚えのある黒髪の女性がいた。
「..あっ、久留米だ。あいつら仲良いのか」
そこそこ関わっている人でも、その人の交友関係までは把握していなかったというか興味がなかった故そのことは知らなかった。
「でもさー」
「うーちゃんが一番可愛いよっ!」
「へへっ...しーくんだーいすきっ!」
「.....。」
家を買うに至った事案と今現在の様子からして、芝春たちの関係は結構上手く行っているように見えた。
やはり弟は俺とは全く正反対に人間性が素晴らしいのだろう
小中高と彼は周囲からの人望も厚く、それでいて謙虚さと周囲への気配りを兼ね備えており、気味が悪いくらい隙がなかった。
そのため、やはり桜楼が芝春を好きになったのは当然の事と理解していた。
桜楼も、キモいオタクよりも今風の可愛い系イケメン芝春くんに行くのは妥当だったが、しかし、桜楼は少々クセがある。
「ーー・・あーこれ、ナタデココじゃない...私タピオカがいいのにぃ...」
「えぇ?ごめんよ、すぐ買い直してくる!」
「もぅ、ほんとちゃんとしてよねっ!」
「.....」
見ての通り、かなり我儘だし、めちゃくちゃモラハラしてきて、それでいて外面はいいから周りからのフォローは当てにならない、正直、芝春に押し付け....お似合いな感じになって助かった....本当、弟よ、南無。
とかく、名目上での許嫁寝取られ事件のおかげで、チートが発現して結果、時間と金を自由に使える今に繋がった。
一応、形式的に復讐とかも考えたが、そういうの暗いし、仮にやって一瞬だけ気持ち良くても、結局、殺しきらない限り復讐された仕返しってのは一生付き纏いそうだから、芝春達とはこのまま一方的な勘当状態で距離を取りたい。
それをより確実にするなら、学校やめて今の家を出払って、もうなんか南の島とかで巨乳の美女たちと、乳繰り合いながらゆっくり過ごそうかな。
....結構ありだな。
疫病神から確実に逃げきれそうな算段を思案しているうちに、段々本気で考え始めたところ、何やらまた中庭が賑わい出した。
「ーー・・清澄?あいつは最低な男よ。」
「桜楼さん。それってどういう事?」
どうやら前の教室での一件から、俺と関係性があった彼女に色々聞いているようだった。
「え?そのまんまの意味よ。」
「だって、それは本当に海道くんの事を言ってる?」
彼女の彼に対する印象はどうも信憑性に欠けていた。
「当たり前じゃない。親同士が仲良いせいで、勝手に幼馴染になったせいで私のこと変な目で見てきて本っ当気持ち悪かったわ~。あいつがちょっと痩せたところで、今だって変態オタクなのは変わってないから、離れた方がいいわよ。」
「いいえ、海道くんはそんな人じゃないよ。」
「え、何?急に...」
彼女の声音は余裕さと冷たさを帯びており、周囲の空気を緊張させた。
そして、彼女は少し自制しながら今までの彼との関わりを振り返っていた。
「...むしろ、本当にそう言うのに興味あるかどうかすら...」
実際、計二回ほど彼の家に伺っても、軽いスキンシップ程度はあったものの、彼はいつものようにキリッとした涼しい顔で何か起きることもなかった。
また、久留米は自分でも、彼へ積極的にアタックしているつもりであったが、それが彼に効果があったのかは表面的な彼の反応からでは判断できず、更にはあまりペラペラと話すような人でもなかったため、未だ彼はつかみどころのない人だった。
「ーー・・なんで私が嘘つく必要があるのよ。」
そして、久留米ののぼやきを聞いた彼女は反論した。
「直接的に何かされた事は?」
やはり、一向に靡く気配のない彼が変態で最低な男であるとは甚だ信じ難かった。
「それは...」
桜楼は彼との過去を振り返ったが、小さい頃ならともかく彼は一貫して自分からは近づこうとして来ず、大人が子供をあやすような扱いをしていた。
そうまるで自分は関係ないかのような、絶対越えられないような所から見下ろされてるかのような、とにかく桜楼はそれが気に入らなかった。
「...とにかく、あいつは最低男よ!」
「うーん。少し無理があるかな」
「はぁ?!」
要領を得ないフワッとした言い様に、久留米は呆れていた。そして、大した情報が得られないと踏んだ彼女は既に桜楼 羽美に対して興味を失っていた。
「...どんな事情にせよ、いい加減な事は言わない方が吉だよー。」
「なっ!良い加減だなんてっ」
「それに元許嫁でしたら、もう少し節操を持った方が良いですね。」
「はっ?!何で知ってるの?」
その事を知るのはこの学校で芝春と清澄、桜楼だけのはずだった。
「えぇ、まぁ小耳に挟みましてね。」
時を遡ると、教室での一件の後つけていた久留米さんはソフィアと彼が屋上で話していた時に、扉越しに聞いていたのであった。
「ほんとっ..あいつ信じらんないっ!」
「...あれっ、どうしたの?うーちゃん。」
桜楼の沸点は既に越えており、芝春にあやされながら捨て台詞のようにそう言い残してどこかへ行ってしまった。
「ーー・・また拗れそうだな。」
無駄に耳もいい海道はその様子をバッチリ見聞きしており、先までぼんやりと考えていた完璧な逃亡計画の実行に、嫌に現実味が帯びるのを感じた。
後書き
青鷺さん 怪訝そうに見てる
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