【R18】体に刻む恋のspell

神楽冬呼

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supplementary tuition番外編

体育祭に潜入せよ 1

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Disaster strikes when you least expect it天災は忘れた頃にやってくる
ならぬ、ファンクラブは忘れた頃に復活する。

…………由々しき問題、ではあるけれどっ

ツバの広いストローハットに、ハイウエストに切り替えがあるワンピース、そして今まで施した事のないメイク。
同伴者は本日メイク担当の美咲だ。
夢月はそわそわと辺りを見回した。


「み、美咲、やっぱり止めようよっ」

体育館を前に美咲の腕を掴んで、夢月は引き止める。

「ここまで来て何言ってんの?旦那の雄姿、見たいんでしょう?」
「そんな大きな声で旦那とか言わないでっ」

近くの木陰に美咲を引っ張り込み、夢月は声を潜める。

「大丈夫だって、パッと見は夢月じゃないから」
「それって、良く見たら私じゃん!」
「ほらほらその為のこの帽子と、普段の夢月は着ないようなラブリーなワンピ、それにスペシャルメイクにエクステ!なんて可愛らしい♡」
「普段しないだけに、バレた時に二倍恥ずかしいしっ」

拳を握り力説する夢月の肩に美咲が手を置いた。
それまでの緩い表情を引き締め、真摯な瞳を向けてくる。

「あのクソガキの好プレーでファンクラブが復活するのを黙って見ているつもりなの?」
「 ────── っ?!」
「キーキーきゃーきゃー黄色い声援で調子付かせてイイワケ??」

…………それはちょっとイヤだ。
それをわざわざ見るのも嫌だけどっ

「言いたかないけどね、夢月。あんた今、妊婦なのよ。旦那が一番浮気に走る時よっ」
「だ、だから、真崎くんは浮気なんかしないし」
「甘いわ、夢月!するかしないかじゃないのっ、機会エサを与えちゃダメなのよ!」

美咲の気迫に、夢月はそれ以上何も言えなくなる。
美咲はただ単に冷やかしに行きたいだけにも見えるし、事態を愉しんでいる。

学院祭の次に人気を博す体育祭。
この高校は、体育祭も一般公開している。
進学校でありながら、スポーツにおいても注目を浴びる事が多いことから宣伝効果があるとか無いとか…………
真崎有都のファンクラブが他校で出来たのも、2年前の体育祭が要因だったらしい。
そして、再びそのファンクラブが他校で復活するとかしないとか、佐竹が合コンで仕入れた情報をLINEで教えてくれたのだ。

それをうっかり美咲に愚痴り、この事態。

夢月は現在病気療養の為、休職扱いになっている。
悠都の計らいで異例の2年間休職、それには清水蓮逮捕の事実もあり婚約者と偽っていた夢月の立場を踏まえて学校側も都合が良かったようだ。
それ故に、校内をフラフラ歩いているのは不味い気がしてならない。
体育館の中は既に熱気に包まれ、声援が飛ぶ。
試合は各クラス2チーム3学年織り混ぜてのトーナメント形式で1位を選抜するクラス対抗戦と、有志を募り、フリースロー対決をする個人戦がある。
有都は1年の頃、個人戦で優勝した、らしい。

夢月はツバを引っ張り帽子を深く被りながら、観覧席への階段を上がる。
有都が始業式を迎え無事に高校生活に戻れた事は嬉しいが、始業式からの特別考査試験、それを終えて早々の体育館で、有都だけ・・が慌ただしい日々だった。
突然訪れた無職、無趣味、待つだけの時間。
校内ですれ違うことも、教壇から眺めることも、こっそり持つ秘密の時間もなくなった。
学校でただの教師と生徒を装っていた頃が酷く恋しくもなる。

美咲の強引さに戸惑いながら、ここに来たいと思う気持ちが確かにあった。

見下ろしたバスケットコートでは丁度試合が終わったところだった。
2面あるコートでチームが入れ替わるようだ。

「あ、いたっ、いたよ、真崎くん」

夢月は思わず、声を抑えつつも美咲の腕をタップしてステージを指差す。
今日に限りステージは暗幕を2/3下ろし出場する生徒の控え場所となっている。
そのステージの上でバッシュの紐を調整している姿が見えた。

「夢月さ、籍入れて結構経つよね」
「1ヶ月とちょっとだよ?」
「旦那を名字呼びってどうよ」

美咲に指摘され夢月の浮かれた気分が引っ込んだ。
夢月は何度か有都からもその指摘を受けている。
だけれど、いざ呼ぼうとしても声にならないのだ。

しかも、真崎 夢月の違和感たるや!

「ヤッてるときも名字で呼んでんの?」

ニヤニヤと美咲が揶揄うような笑みを浮かべた。
ちょっとだけ思い浮かべてから夢月は真っ赤になって頭を振る。
真っ昼間に青少年が集う学舎で思い浮かべるには、濃厚過ぎる描写が過ぎってしまった。

「変なコト言わないでよっ」
「今更何恥じらってんのよ、作るもん作っておいてー」
「場所が場所なの!」
「今時の高校生なんて、皆んなヤることヤッてんじゃん。だいたい、夢月の旦那だって現役高 ────」
「 ────しぃっ!」

夢月は慌てて美咲の口を手の平で塞ぐ。
その手を剥がすように掴んで美咲は、ふふふと笑った。
美咲が目線でステージを示す。
そろそろと夢月はそこへと視線を下ろす。

こっち見てる!!

目を疑うように眉を潜め、有都が夢月を見上げていた。
リアクションをどうとろうかと頭の中が忙しなく色々と考える。

手を振るべき?
ダメだろっ、そんな事して真崎くん以外も見上げてきたら不味い!
アイコンタクトで留める?
アイコンタクトってどうするの?
まさかのウィンク?!
いやいやしたことないし…………
もしかして遠目で気づいてない、とか?
それとなく目を逸らしてセーフ的な?

フリーズしたままの夢月の頭上でスピーカーが音を立て、3-Aと2-Bの対戦を告げる。
とたんに観覧席、夢月の真横で黄色い歓声が上がった。

「…………うっわ」

隣で美咲が嘆くように声を漏らす。
色めき立っている制服姿の女子たちが、きらびやかな団扇を振っている。
団扇に「あると」と言う字が見てとれる。
どうやらアレが復活したファンクラブらしい。

「旦那、人気だねー」

美咲の呟きに夢月はモヤモヤと胸中に立ち込める不快感から目を逸らした。
有都はすでにコートの中にいる。

私が分かった?
気付いていたのだろうか?
気付いていたとしたら、どう思ったのだろう。

瑞々しく伸びやかな四肢が眩しい。
高校生の、年相応の、友達の中にいるその姿が酷く遠い。
3-Aチームメンバーはほぼ元バスケ部、対して2-Bは現役バスケ部が数名いるらしい。
元も現役もバスケ部のユニホームを着ている。
試合開始の笛が鳴り、赤と青のビブスが入り混じる。
実質、有都が部活動に勤しんだのは1年の時だけだが、ブランクがあるとは言え、かなり動きが良い。
熱狂されるのも、分かる。
ファンクラブの女子は、短いスカートをひらつかせ、力の限りに叫んでいる。
恋を知るまでは、それを微笑ましいと眺めていた。
どんな気持ちで叫ぶのか、熱く心を焦がすのか、何がそんなに突き動かすのか、想像の中にしかいなかったからだ。

だけど、今は羨ましい。

姿を見るだけで、高鳴る胸や熱く焦がれる気持ち、溢れる想いを叫びたい衝動。
好きなものを好きと、声に出し主張できること。
競い合うように声を上げて、応援できる立場。

私にはできないもんな…………

ときめきが切なく胸を占める。
見ているだけの自分が酷く遣るせない。
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