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supplementary tuition番外編
追憶の彼女 06
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今と同じくらいの季節だったか、一度だけ制服以外の彼女がいつもの公園に来てくれた。
その時に足首まで裾がある水色のワンピースを着ていて、ノースリーブから覗く剥き出しの肩に気恥ずかしさを覚えた。
恋などまだ分からず、だけれど胸の奥で疼くものを感じる、9才の夏。
思えば、あの頃すでに恋をしていたのかもしれない。
佐竹や春香と落ち合う場所で、有都は風に吹かれ帽子を押さえる夢月を眺める。
あの時と似た水色のワンピースが風に揺れる。
「なんか緊張するね」
そわそわと落ち着かない夢月の横顔は不安げだ。
春香が佐竹の申し出をあっさり受けた理由が、新しい恋への前向きな気持ちからなのか、疑問しかないからだ。
春香の態度が露骨に佐竹を傷つけてしまわないかと、夢月は心配なのだろう。
「佐竹、必死だかんな…………ジンクス信じ込んでるし」
「その炎一人で見るになかにけり、かぁ…………」
理解不能な難問を前にしたかのように、うーんと夢月は唸る。
恐らく夢月はジンクスの類を信じていない。
諺や名言は好んで調べたりするが、占いの類いを気にしている素振りは見た事がないのだ。
「あんなもん、誰かが面白半分に作った悪戯だろ」
「そうかもね、だけど私には誰かの願いにも思えるんだ」
「…………願い?」
ふわりと微笑み夢月が有都に向き直った。
彼女の言葉は、するりと不思議なくらい造作も無く胸に落ちて行く。
ジンクスに抱いていた疑問と、何故か気にかかる理由がそこにあるような、痒い場所に手が届いたような感覚。
有都はその腰に手を回し、理由を手繰り寄せるように夢月の身体を引き寄せた。
「あのジンクス、続きがあるよね。裏ジンクス」
「炎の前で誓いを交わすと永遠の愛となる、ってやつ?」
「うん。男子校だからか、一生独りになっちゃうって言う方が重要視されてるけどね。私は永遠の愛が願いだったように感じる」
夢月が有都の腕にそっと手を置いた。
今では小さく感じるその手は、羽毛が触れるみたいに柔らかく肌に触れる。
「ずっと前にあの学校にいた誰かの願い。炎の前で誓いを交わし永遠の愛にしたいって、痛切に願った誰かの…………」
熱を込め潤んだ瞳に見上げられ、有都は理解する。
ジンクスが気にかかっていた理由、なぜなのか…………
自分が同じ願いを抱いていたからだ。
一生独りが怖かった訳ではない。
夢月を諦められない自分が怖かった。
炎を一人で見てはいけないとその警鐘の裏側に、必死に願う想いを見ていたのかもしれない。
「そうかもな」
炎越しに彼女を垣間見ていた自分を懐かしみながら、有都は手に入れた今に幸せを噛み締め微笑んだ。
呼応するように夢月が唇を綻ばせる。
「永遠の愛、素敵な響きだよね」
「オレたちはもう誓ったろ?永遠の愛」
「…………そうだった?」
………………………………え??
あまりにも想定外の夢月の返答に、有都は声も出なかった。
結婚とは永遠の愛を誓うものではないのか?
もしかして夢月の結婚に対する概念がそもそも違うのか。
そう言えば、夢月の結婚観を聞いたことがない。
結婚に積極性がないのは、教師と生徒と言う社会的な立場や歳の差からくるものだと思っていた。
「夢月、それはどう言う」
頭の中で考えがまとまらないまま口を吐いて出たのは、単純な疑問だった。
「真崎、このヤロ!この、この、この腹はなんだっ!」
最後まで言い終わる前に佐竹の声が飛び込んできた。
佐竹の剣幕に夢月の手が慌てて離れて行く。
妊娠5ヶ月、急に目立ち始めた夢月の下腹部に気付かれるだろうとは思っていた。
無事に安定期を迎えようとしているし、これを機に佐竹には伝えるしかないと考えてはいたが、今このタイミングで騒がれる事に有都は苛立った。
今、佐竹に構っている場合ではない。
さっきの、どう言う意味なんだよっ…………
この結婚は夢月にとってなんなのだろうか。
その時に足首まで裾がある水色のワンピースを着ていて、ノースリーブから覗く剥き出しの肩に気恥ずかしさを覚えた。
恋などまだ分からず、だけれど胸の奥で疼くものを感じる、9才の夏。
思えば、あの頃すでに恋をしていたのかもしれない。
佐竹や春香と落ち合う場所で、有都は風に吹かれ帽子を押さえる夢月を眺める。
あの時と似た水色のワンピースが風に揺れる。
「なんか緊張するね」
そわそわと落ち着かない夢月の横顔は不安げだ。
春香が佐竹の申し出をあっさり受けた理由が、新しい恋への前向きな気持ちからなのか、疑問しかないからだ。
春香の態度が露骨に佐竹を傷つけてしまわないかと、夢月は心配なのだろう。
「佐竹、必死だかんな…………ジンクス信じ込んでるし」
「その炎一人で見るになかにけり、かぁ…………」
理解不能な難問を前にしたかのように、うーんと夢月は唸る。
恐らく夢月はジンクスの類を信じていない。
諺や名言は好んで調べたりするが、占いの類いを気にしている素振りは見た事がないのだ。
「あんなもん、誰かが面白半分に作った悪戯だろ」
「そうかもね、だけど私には誰かの願いにも思えるんだ」
「…………願い?」
ふわりと微笑み夢月が有都に向き直った。
彼女の言葉は、するりと不思議なくらい造作も無く胸に落ちて行く。
ジンクスに抱いていた疑問と、何故か気にかかる理由がそこにあるような、痒い場所に手が届いたような感覚。
有都はその腰に手を回し、理由を手繰り寄せるように夢月の身体を引き寄せた。
「あのジンクス、続きがあるよね。裏ジンクス」
「炎の前で誓いを交わすと永遠の愛となる、ってやつ?」
「うん。男子校だからか、一生独りになっちゃうって言う方が重要視されてるけどね。私は永遠の愛が願いだったように感じる」
夢月が有都の腕にそっと手を置いた。
今では小さく感じるその手は、羽毛が触れるみたいに柔らかく肌に触れる。
「ずっと前にあの学校にいた誰かの願い。炎の前で誓いを交わし永遠の愛にしたいって、痛切に願った誰かの…………」
熱を込め潤んだ瞳に見上げられ、有都は理解する。
ジンクスが気にかかっていた理由、なぜなのか…………
自分が同じ願いを抱いていたからだ。
一生独りが怖かった訳ではない。
夢月を諦められない自分が怖かった。
炎を一人で見てはいけないとその警鐘の裏側に、必死に願う想いを見ていたのかもしれない。
「そうかもな」
炎越しに彼女を垣間見ていた自分を懐かしみながら、有都は手に入れた今に幸せを噛み締め微笑んだ。
呼応するように夢月が唇を綻ばせる。
「永遠の愛、素敵な響きだよね」
「オレたちはもう誓ったろ?永遠の愛」
「…………そうだった?」
………………………………え??
あまりにも想定外の夢月の返答に、有都は声も出なかった。
結婚とは永遠の愛を誓うものではないのか?
もしかして夢月の結婚に対する概念がそもそも違うのか。
そう言えば、夢月の結婚観を聞いたことがない。
結婚に積極性がないのは、教師と生徒と言う社会的な立場や歳の差からくるものだと思っていた。
「夢月、それはどう言う」
頭の中で考えがまとまらないまま口を吐いて出たのは、単純な疑問だった。
「真崎、このヤロ!この、この、この腹はなんだっ!」
最後まで言い終わる前に佐竹の声が飛び込んできた。
佐竹の剣幕に夢月の手が慌てて離れて行く。
妊娠5ヶ月、急に目立ち始めた夢月の下腹部に気付かれるだろうとは思っていた。
無事に安定期を迎えようとしているし、これを機に佐竹には伝えるしかないと考えてはいたが、今このタイミングで騒がれる事に有都は苛立った。
今、佐竹に構っている場合ではない。
さっきの、どう言う意味なんだよっ…………
この結婚は夢月にとってなんなのだろうか。
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