【R18】体に刻む恋のspell

神楽冬呼

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supplementary tuition番外編

追憶の彼女 07

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ただの擦り込み。
恋に恋してるだけ。

清水蓮には散々そう言われた。
言われる度にそうなのだろうかと若干、考えもした。
その頃は、そうであったほうが自分は楽になれそうな気がしたのだ。
だけれど、それは儚くも歴然と思い知らされた。
適当に誰かと肌を合わせても、虚しいだけ。
結局、その肌の向こう側に彼女がいるのだ。

彼女の肌の感触はこんな感じか、
彼女ならどんな声をあげるのか、
どうしたら悦んで、どうやって身を任せるのか、
どうしたら、自分を視てくれるのか…………

女々しく、妄想の中に彼女を想っていた。
何をしても、誰と居ても消せない。捨て切れない。募るだけの鮮やかな恋情。

その妄想がついに現実になると、ただただ驚くくらいに想いの丈は膨らみ、タガが外れていった。
今もまだ外れっぱなしかもしれない。
奪い尽くしたい激しさが首をもたげる。
そして彼女の全てを手に入れたつもりでいる。知った気でいる。
心など、見えやしないのに。


有都は釈然としない面持ちで、目の前にいる夢月を眺めていた。
4人でとりあえずランチをと、店に入ってみると、夢月と春香が殊の外意気投合している。
4人がけのテーブルに夢月と春香が隣に並び、有都は佐竹と並んで座る流れになっていた。
春香は夢月とばかり話をして、有都には目もくれない。
佐竹は佐竹で、今更恥ずかしそうに声をかけるのを躊躇い、女子の会話に頷くだけだ。

 早く帰りてー…………

佐竹には悪いが、合いの手を出すどころか、もう全くこの場に意義を見出せなくなっている。

「じゃー、コレとコレ頼んでシェアしよ」
「そうだね。春香ちゃんナイス」
「夢月さん、ナイスって古っ」
「え?死語なの?good jobとか言うべき?」
「無駄に発音いいし」
「これでも英語の教師なんだよ」
「見えなーい、どっちかと言うと音楽とか、古文系?」
「初めて言われた、音楽はないよ、音痴だもん」
「えー、じゃー、この後カラオケね」
「ヤメテ、ほんとヤメテ」
「あはは、あっ、もしかして有くんが英語好きなのって」

春香がニヤリと口端を上げ、有都を横目に見てきた。
有都は突然振られて眉を寄せる。

「…………悪りぃかよ」
「有くん、単純!!健気で似合わなーい」

きゃらきゃらと春香が笑うと、一層腹の底が苛立ちで騒つく。思わず眉根を寄せ睨み返してしまった。
それを慣れたものだと受け止めると、春香がテーブルに肘をついて向き直ってきた。

「有くんさ、なんか機嫌悪くない?」

春香の問いかけに夢月がハッとして見詰めてくる。
その戸惑いながら探ろうとする夢月の瞳から有都は目を背けていた。

「あー、真崎、春香ちゃんが夢月ちゃん・・・と仲良いからヤキモチじゃね?」

目を背けた先で佐竹と視線がぶつかると、ここぞとばかりに佐竹が会話に入ってくる。
歩きがてら夢月せんせーと呼び続ける佐竹に先生は止めろとは言いはしたが、よりにもよって「ちゃん」付はないだろうに。

「ちげーよ、お前の夢月の呼び方が気に入らねーの」
「夢月ちゃんって可愛いじゃん」
「そー言う問題じゃねぇ」

どこぞの誰かと同じ呼び方が、どうにも勘に障る。
あのキスの一件は、そもそもあの馬鹿親父が余計な問題に夢月を巻き込んだせいだ。
蓮を救いたい気持ちも、夢月に頼りたい想いも、分からなくはないが、遣り方が姑息で気に入らない。
しかもあれ以来、連絡をしてこない。
用が済んだらそれ切り、そんな遣り方は昔から変わらない。

本来なら夢月からキスをされたのだから喜ぶ以外に何もないはずなのに、妙な焦りと苛立ちが付き纏う。
加えて、さっきの夢月の返し方が気になって仕方ない。
今、目の前に彼女がいるのに、まるで追憶の中にいる彼女ばかりが胸を占めていく。
この不安や苛立ちがどこからくるのか、曲がり角ばかりの道の途中にいるようで出口が全く見えてこないのだ。

「適当に注文しといて」

春香に言われた通り、有都は自分の不機嫌さを自覚し、席を立った。
取り繕う余裕さえない。
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