【R18】体に刻む恋のspell

神楽冬呼

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supplementary tuition番外編

初恋ほど無意識なものはない 07

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「ごめんね、帰る前に春香さんと二人だけで話をさせて欲しいんだ。それとなく二人だけになれるチャンス窺ってたんだけど、佐竹くんべったりだったし」
「春香と二人だけで?」

有都が怪訝に眉を寄せた。

「大丈夫だぞ?あいつはもう」
「うん、それは聞いてるんだけど、女同士で話したいことがね」
「ふーん、…………分かった。じゃあ、ここでシてもいい?」
「だ、だめっ!無理っっっ」

さらっととんでもない了解をとろうとする有都に夢月は声を張り上げていた。
音響に重なるようにして響く自分の声に、夢月は恥ずかしくなる。

「散々可愛く煽ってひでーな、夢月」

顔を赤らめて伏せる夢月を満足気に眺め、有都は悪戯な笑みを浮かべる。
その顔を上目遣いに見やり、夢月は有都が60%くらいは冗談で言っていることに気付いた。

「…………煽ってないもん」
「可愛い時点で説得力なし」
「そ、それは真崎くんが勝手に思ってるだけだもん」
「え?ここでそれに戻んの?」
「あ、有都…………くんの思い込みだもん」

面と向かってしまうと流石に呼び捨てができず、夢月は耳を熱くしながら口籠る。

「映画館のペアシートで初めての名前呼びとか、煽る以外のなに?恋をしたのは必然とか可愛いこと言うし、オレをどーしたいの?」

頬を有都の手の平に捕まれ、唇を塞がれる。
絡められる舌が、漏れる吐息が、欲情的な熱を持ち、焦されていく。
まるで繋がったまま落とされる口付けみたいに、口の中から全身が溶けて行きそうに熱く、甘い。
そのくせ、手の平は頬から動く事がなく、キスの先はないのだと教えているようだ。
それなら、止める理由は何もない。
有都の舌先の動きに翻弄されながら、夢月は身体から力が抜けていくのを感じた。
直後、腹部に今までにない感覚が生じ、唇を離す。

 ────── んっ?!

くにゃりと、内臓を撫でられたような、小さな違和感。

「真崎くん!!」
「また真崎に戻ってんじゃん」
「あ、…………ごめん、今ちょっとびっくりしたから」
「どうした?」

突然叫んだ夢月の顔を真崎が心配そうに覗き込む。
どう表現していいのか、もしかしたら気のせいかもしれない。
ほんの一瞬、僅か過ぎる変化に確信が持てない。
夢月は首を傾げながらお腹に両手を当てる。

「動いた?かも…………」
「…………ん? ────── っ!」

有都もハッとして手の平を夢月のお腹に置いた。二人でそこへと意識を集中させる。
スクリーンでは何やら雰囲気を色付かせる挿入曲が流れ、アクションから一転ラブシーンへと突入している。
数十秒間身動ぎせずに膨らみへと注いでいた視線を夢月は有都に向ける。

「あれ?気のせい、かな…………──── っあ!」

ぐにゃりと内部をくすぐる体感に、夢月は慌てて有都の手を移動させる。

「こ、ここ!あっ、ほら、うにゃって動いた」
「うにゃ?……………………」

二人で顔を見合わせて息を飲むが、お腹の中は静まり返ってしまった。

「……………………分かんねーな」
「うん、でも、動いたってことは胎動だよね?」
「そうだな」

優しく微笑む有都に夢月は深い安堵の息を吐く。
エコーでしか目にしてこなかった我が子が、お腹に確かに宿っている事を体感し安心した。
こんな自分が母親になれるのか、戸惑いはなくならない。
だけれどそんな自覚を待つ間もなく、芽生えた命は育っていく。頼もしくも愛らしい。

 …………しっかりしなきゃ。

そして夢月は自分の中に新しい命が息衝く力強さを実感し、気持ちを引き締めた。
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