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一章 夢は現実に
六.兄
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「オッ、来タカ!サッソク案内シテクレ!」
「はいはい、分かった 」
すると目玉はふよふよと俺の後をついてきた。「キィ、キィ」と鳴く声が耳に入ってきた。この声、周りにはどう聞こえているのだろうか。俺の場合は、何かを話す時は脳に響いて聞こえてくる。そして、「キィ」と言う鳴き声は全身で聞こえてくる。
俺は部屋の中に入った。それに続き目玉も入ってきた。俺はすとんとベッドの上に座った。目玉は俺の顔の真ん前で浮かんでいた。
「……なあ、お前名前ないの?」
「アァ、ナイナ。呼ビヤスイヨウニ勝手二ツケテクレ」
「うーん……俺、こういうの苦手なんだよなー……あー、じゃあ、『アイ』にする。ほら、目は英語でアイって言うからさ」
「ホウ……アイ、カ……ウン、気二入ッタ。イイ名前ダナ」
とアイは少し嬉しそうに目を細めていた。
よかった、と俺も思い、微笑んだ。
「……あ、そう言えば兄の話は……」
「アァ、ソウダナ。今、話スヨ。トハ言ッテモ、オレ二ハ兄ノ魂ガアルダケデ、生身ノ人間デハナイカラ、完全デハナイカモシレン。ソレデモイイカ?」
「ああ」
「ジャア話スナ。兄ニツイテヲ――」
兄の本名は、柏木斗和。晋太が家を出て行ってからは、俺と父、二人で暮らしていた。とは言え、父は仕事が忙しいから、ほとんどは家で一人だ。何か寂しいなあ。
そして俺には、まだ誰にも言っていないことがあった。周りにも、家族にも、そして一番大切な晋太にも言っていない。
それは、俺が目の病気を持っていると言うことだ。病気の名前は『網膜剥離』。右目が景色が幕がかって見えている。だから、視野が狭く、欠けて見えていた。人の顔が見えなければ、何をしているのかも分かりずらい。生活が苦しかった。そして、怖い。自分がどうなってしまうのか。早くこの病気から抜け出したいと思っていた。でも、自分のことより、周りのことを考えていた。迷惑をかけたくない。父も仕事で疲れてるんだ。状況を伝えてしまうと父に負担がかかってしまうだろう。
「晋太……戻ってきてはくれないか……一人で寂しいよ……」
口からこぼれ出た言葉。
誰もいない静かな家の中、俺は孤独に過ごしていた。
こんな状況の中、俺は何日も、何日も過ごしていた。その中で、急激に視力が落ちたことも感じていた。このことに恐怖心が花開き、この先、この先のことを考えては、どうしよう、どうしようと不安を抱え、悩んでいた。そして人生を暗く考えていた。
こんな生活をしばらくしていた。そんなある日、こんなことをぼんやりと考えていた。
「晋太……お前がいてくれたら……俺は変わっていたのかなぁ……」
いっそのこと目を無くしてしまった方がいいのではないか。
そうすれば、もう何も見なくていい。見たくないものも見なくていい。何も考えなくてもいい。不安なんてなくなる。恐怖心なんてなくなるんだ。
こんな情けない兄でごめんな――
「……ンデ、オレガ生マレタ時二見タ光景……」
兄がベッドにもたれかかって死んでいた。
右目から赤黒い血がだらだらと流れている。この時息をしていたのかは分からない。だが、俺が見る限りは呼吸をしてないような感じがした。兄のそばには、沢山の血の跡がついた悲惨な姿の果物ナイフ。周りには机やベッドなど簡素な部屋だった。そして何枚かの晋太と斗和のツーショット写真と一枚の家族集合写真が目立っていた。窓からは暖かい日差しが差し込んできていて兄を照らしていた。兄の顔は泣いているような、少し微笑んでいるような妙に気持ち悪い顔をしていた。
「ッ……」
俺はその顔を見たくなくて、目を下に向けた。そこには血の水たまりがじわじわと広がっていた。血が、ぽた、ぽたと滴っていた。
「キッ……」
凄くゾワゾワする。でもそんなことより、なぜ俺が出来たのかが不思議で、不思議でゾワゾワしている。自分のことも気持ち悪い。
そう思っている時、兄の口が微かに動いたように見えた。
「キ……」
そんなことないと思い、俺はまじまじと兄のことを見つめながら、近づいて行った。
……動いてないよな…………
そう思うと同時に、俺はベッドの上にある紙切れを見つけた。そして、紙切れの内容を見た。
兄が黒色のペンで書いていた内容。
それは、弟・晋太を守ってくれ、そして、晋太のそばにいてやってくれということだった。
これ……俺に書いたやつか……?
その紙切れの右端には、赤色のペンで目玉の絵がちょこんと描かれていた。やっぱり俺宛なのだろうか。
おい……晋太って、どこにいるんだよ……
教えてくれよ……
俺は兄のことをじっと見つめた。だが、何も答えない。力なく、ぐったりともたれかかっているだけだった。
…………分かったよ。お前が書いたこと、俺が果たしてみせる。
俺、弟の晋太ってやつ探してくるよ、兄。
多分俺は晋太ってやつの人生をそばにいて守るために、生まれたのだろう。兄の右目と魂の宿った血液をもらって。自分じゃ何も出来ないから、俺に託したんだろうか。それとも……いや、こんなこと考えている場合ではない。
一刻も早く行こうじゃないか、晋太のもとへ。
「はいはい、分かった 」
すると目玉はふよふよと俺の後をついてきた。「キィ、キィ」と鳴く声が耳に入ってきた。この声、周りにはどう聞こえているのだろうか。俺の場合は、何かを話す時は脳に響いて聞こえてくる。そして、「キィ」と言う鳴き声は全身で聞こえてくる。
俺は部屋の中に入った。それに続き目玉も入ってきた。俺はすとんとベッドの上に座った。目玉は俺の顔の真ん前で浮かんでいた。
「……なあ、お前名前ないの?」
「アァ、ナイナ。呼ビヤスイヨウニ勝手二ツケテクレ」
「うーん……俺、こういうの苦手なんだよなー……あー、じゃあ、『アイ』にする。ほら、目は英語でアイって言うからさ」
「ホウ……アイ、カ……ウン、気二入ッタ。イイ名前ダナ」
とアイは少し嬉しそうに目を細めていた。
よかった、と俺も思い、微笑んだ。
「……あ、そう言えば兄の話は……」
「アァ、ソウダナ。今、話スヨ。トハ言ッテモ、オレ二ハ兄ノ魂ガアルダケデ、生身ノ人間デハナイカラ、完全デハナイカモシレン。ソレデモイイカ?」
「ああ」
「ジャア話スナ。兄ニツイテヲ――」
兄の本名は、柏木斗和。晋太が家を出て行ってからは、俺と父、二人で暮らしていた。とは言え、父は仕事が忙しいから、ほとんどは家で一人だ。何か寂しいなあ。
そして俺には、まだ誰にも言っていないことがあった。周りにも、家族にも、そして一番大切な晋太にも言っていない。
それは、俺が目の病気を持っていると言うことだ。病気の名前は『網膜剥離』。右目が景色が幕がかって見えている。だから、視野が狭く、欠けて見えていた。人の顔が見えなければ、何をしているのかも分かりずらい。生活が苦しかった。そして、怖い。自分がどうなってしまうのか。早くこの病気から抜け出したいと思っていた。でも、自分のことより、周りのことを考えていた。迷惑をかけたくない。父も仕事で疲れてるんだ。状況を伝えてしまうと父に負担がかかってしまうだろう。
「晋太……戻ってきてはくれないか……一人で寂しいよ……」
口からこぼれ出た言葉。
誰もいない静かな家の中、俺は孤独に過ごしていた。
こんな状況の中、俺は何日も、何日も過ごしていた。その中で、急激に視力が落ちたことも感じていた。このことに恐怖心が花開き、この先、この先のことを考えては、どうしよう、どうしようと不安を抱え、悩んでいた。そして人生を暗く考えていた。
こんな生活をしばらくしていた。そんなある日、こんなことをぼんやりと考えていた。
「晋太……お前がいてくれたら……俺は変わっていたのかなぁ……」
いっそのこと目を無くしてしまった方がいいのではないか。
そうすれば、もう何も見なくていい。見たくないものも見なくていい。何も考えなくてもいい。不安なんてなくなる。恐怖心なんてなくなるんだ。
こんな情けない兄でごめんな――
「……ンデ、オレガ生マレタ時二見タ光景……」
兄がベッドにもたれかかって死んでいた。
右目から赤黒い血がだらだらと流れている。この時息をしていたのかは分からない。だが、俺が見る限りは呼吸をしてないような感じがした。兄のそばには、沢山の血の跡がついた悲惨な姿の果物ナイフ。周りには机やベッドなど簡素な部屋だった。そして何枚かの晋太と斗和のツーショット写真と一枚の家族集合写真が目立っていた。窓からは暖かい日差しが差し込んできていて兄を照らしていた。兄の顔は泣いているような、少し微笑んでいるような妙に気持ち悪い顔をしていた。
「ッ……」
俺はその顔を見たくなくて、目を下に向けた。そこには血の水たまりがじわじわと広がっていた。血が、ぽた、ぽたと滴っていた。
「キッ……」
凄くゾワゾワする。でもそんなことより、なぜ俺が出来たのかが不思議で、不思議でゾワゾワしている。自分のことも気持ち悪い。
そう思っている時、兄の口が微かに動いたように見えた。
「キ……」
そんなことないと思い、俺はまじまじと兄のことを見つめながら、近づいて行った。
……動いてないよな…………
そう思うと同時に、俺はベッドの上にある紙切れを見つけた。そして、紙切れの内容を見た。
兄が黒色のペンで書いていた内容。
それは、弟・晋太を守ってくれ、そして、晋太のそばにいてやってくれということだった。
これ……俺に書いたやつか……?
その紙切れの右端には、赤色のペンで目玉の絵がちょこんと描かれていた。やっぱり俺宛なのだろうか。
おい……晋太って、どこにいるんだよ……
教えてくれよ……
俺は兄のことをじっと見つめた。だが、何も答えない。力なく、ぐったりともたれかかっているだけだった。
…………分かったよ。お前が書いたこと、俺が果たしてみせる。
俺、弟の晋太ってやつ探してくるよ、兄。
多分俺は晋太ってやつの人生をそばにいて守るために、生まれたのだろう。兄の右目と魂の宿った血液をもらって。自分じゃ何も出来ないから、俺に託したんだろうか。それとも……いや、こんなこと考えている場合ではない。
一刻も早く行こうじゃないか、晋太のもとへ。
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