眼ノ球

*花*

文字の大きさ
6 / 43
一章 夢は現実に

六.兄

しおりを挟む
「オッ、来タカ!サッソク案内シテクレ!」
「はいはい、分かった 」

すると目玉はふよふよと俺の後をついてきた。「キィ、キィ」と鳴く声が耳に入ってきた。この声、周りにはどう聞こえているのだろうか。俺の場合は、何かを話す時は脳に響いて聞こえてくる。そして、「キィ」と言う鳴き声は全身で聞こえてくる。

俺は部屋の中に入った。それに続き目玉も入ってきた。俺はすとんとベッドの上に座った。目玉は俺の顔の真ん前で浮かんでいた。

「……なあ、お前名前ないの?」
「アァ、ナイナ。呼ビヤスイヨウニ勝手二ツケテクレ」
「うーん……俺、こういうの苦手なんだよなー……あー、じゃあ、『アイ』にする。ほら、目は英語でアイって言うからさ」
「ホウ……アイ、カ……ウン、気二入ッタ。イイ名前ダナ」

とアイは少し嬉しそうに目を細めていた。
よかった、と俺も思い、微笑んだ。

「……あ、そう言えば兄の話は……」
「アァ、ソウダナ。今、話スヨ。トハ言ッテモ、オレ二ハ兄ノ魂ガアルダケデ、生身ノ人間デハナイカラ、完全デハナイカモシレン。ソレデモイイカ?」
「ああ」
「ジャア話スナ。兄ニツイテヲ――」




兄の本名は、柏木かしわぎ斗和とわ。晋太が家を出て行ってからは、俺と父、二人で暮らしていた。とは言え、父は仕事が忙しいから、ほとんどは家で一人だ。何か寂しいなあ。

そして俺には、まだ誰にも言っていないことがあった。周りにも、家族にも、そしてな晋太にも言っていない。

それは、俺が目の病気を持っていると言うことだ。病気の名前は『網膜剥離』。右目が景色が幕がかって見えている。だから、視野が狭く、欠けて見えていた。人の顔が見えなければ、何をしているのかも分かりずらい。生活が苦しかった。そして、怖い。自分がどうなってしまうのか。早くこの病気から抜け出したいと思っていた。でも、自分のことより、周りのことを考えていた。迷惑をかけたくない。父も仕事で疲れてるんだ。状況を伝えてしまうと父に負担がかかってしまうだろう。

「晋太……戻ってきてはくれないか……一人で寂しいよ……」

口からこぼれ出た言葉。

誰もいない静かな家の中、俺は孤独に過ごしていた。


こんな状況の中、俺は何日も、何日も過ごしていた。その中で、急激に視力が落ちたことも感じていた。このことに恐怖心が花開き、この先、この先のことを考えては、どうしよう、どうしようと不安を抱え、悩んでいた。そして人生を暗く考えていた。


こんな生活をしばらくしていた。そんなある日、こんなことをぼんやりと考えていた。

「晋太……お前がいてくれたら……俺は変わっていたのかなぁ……」

いっそのこと目を無くしてしまった方がいいのではないか。
そうすれば、もう何も見なくていい。見たくないものも見なくていい。何も考えなくてもいい。不安なんてなくなる。恐怖心なんてなくなるんだ。

こんな情けない兄でごめんな――


「……ンデ、オレガ生マレタ時二見タ光景……」

兄がベッドにもたれかかって死んでいた。

右目から赤黒い血がだらだらと流れている。この時息をしていたのかは分からない。だが、俺が見る限りは呼吸をしてないような感じがした。兄のそばには、沢山の血の跡がついた悲惨な姿の果物ナイフ。周りには机やベッドなど簡素な部屋だった。そして何枚かの晋太と斗和のツーショット写真と一枚の家族集合写真が目立っていた。窓からは暖かい日差しが差し込んできていて兄を照らしていた。兄の顔は泣いているような、少し微笑んでいるような妙に気持ち悪い顔をしていた。

「ッ……」

俺はその顔を見たくなくて、目を下に向けた。そこには血の水たまりがじわじわと広がっていた。血が、ぽた、ぽたと滴っていた。

「キッ……」

凄くゾワゾワする。でもそんなことより、なぜ俺が出来たのかが不思議で、不思議でゾワゾワしている。自分のことも気持ち悪い。

そう思っている時、兄の口が微かに動いたように見えた。

「キ……」

そんなことないと思い、俺はまじまじと兄のことを見つめながら、近づいて行った。

……動いてないよな…………

そう思うと同時に、俺はベッドの上にある紙切れを見つけた。そして、紙切れの内容を見た。

兄が黒色のペンで書いていた内容。

それは、弟・晋太を守ってくれ、そして、晋太のそばにいてやってくれということだった。

これ……俺に書いたやつか……?

その紙切れの右端には、赤色のペンで目玉の絵がちょこんと描かれていた。やっぱり俺宛なのだろうか。

おい……晋太って、どこにいるんだよ……
教えてくれよ……

俺は兄のことをじっと見つめた。だが、何も答えない。力なく、ぐったりともたれかかっているだけだった。

…………分かったよ。お前が書いたこと、俺が果たしてみせる。
俺、弟の晋太ってやつ探してくるよ、兄。

多分俺は晋太ってやつの人生をそばにいて守るために、生まれたのだろう。兄の右目と魂の宿った血液をもらって。自分じゃ何も出来ないから、俺に託したんだろうか。それとも……いや、こんなこと考えている場合ではない。

一刻も早く行こうじゃないか、晋太のもとへ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

処理中です...