13年ぶりに再会したら、元幼馴染に抱かれ、異国の王子に狙われています

雑草

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第4章 恋と権力の果てに

狂気の王子——その奥にある本質

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ルイは床に横たわったまま、冷たい天井を見上げていた。
拳で殴られた頬が熱を持ち、鈍い痛みがじわじわと広がる。

(負けた……?)

この手にあるはずだったもの。
確かに自分のものにしたはずのカトリーナ。

それなのに、今彼女はヴィクトルの腕の中にいる。

「っ……ふ、は……」

乾いた笑いが漏れた。
認められない、認めたくない。

それでも——

ヴィクトルの前に立つリリスの瞳が、
今まで見たこともないほど安堵に満ちたものだったことで、
"決着はついた" と悟らざるを得なかった。

カトリーナはその様子を見てそっとルイのそばに腰かけた。


しかし——  

カトリーナは知っていた。  

(この男の根っこは、昔から変わっていない。)  

彼は、元々気弱で甘えん坊だった。  
幼い頃から周囲に期待されながらも、  
常に「王子」としての重圧に苦しんできた。  

本当は、誰かに認めてほしくて、  
誰かにすがりたくて仕方がない。  

だから、彼は支配することでしか人を繋ぎ止められないのだ。 

「……カトリーナ」  

ルイは、カトリーナの髪を撫でながら、  
かすれるような声で呟いた。  

「僕を捨てるな」  

その声には、いつもの傲慢な色はなかった。  
ただ、純粋な寂しさだけが滲んでいる。  

カトリーナは、ゆっくりと目を細めた。  

(やっぱり、根っこは変わらないのね)  

ルイの執着は、愛ではない。  
ただの支配欲でもない。  

それは——「依存」だった。  

「……あなたは、私を閉じ込めて何がしたいの?」  

カトリーナがそう問いかけると、  
ルイは、腕を強く回し、カトリーナを抱きしめた。  

「……君は、僕のそばにいるべきなんだ」  

「どうして?」  

「……君は、俺を否定しないから」  

カトリーナは、静かに息を吐く。  

「私はあなたを否定しているわよ?  
 あなたの狂気も、支配も、全部拒絶してる」  

「……っ」  

ルイの指が、震えた。  

「でも……」  

彼は、カトリーナの首筋に顔を埋めながら、  
弱々しく囁いた。  

「君だけは……僕を見捨てないだろ?」  

——彼は、捨てられるのが怖いのだ。  

だから、狂気に身を委ねることで、  
カトリーナを"自分のもの"にしようとする。  

カトリーナは、静かに目を伏せた。  

「……あなたは、間違っているわ」  

「……」  

「あなたが"僕を捨てるな"と言って縋る相手は、  
 私じゃなくて、あなた自身よ」  

ルイの腕が、強くなる。  

「……嫌だ」  

「あなたは、私を欲しがっているんじゃない」  

カトリーナは、ルイの背にそっと手を添える。  

「あなたが本当に求めているのは、  
 "誰かに必要とされる王子"という証明よ」  

「……」  

「それを、私に求めるのは間違っている」  

ルイは、カトリーナの言葉に、微かに身を震わせた。  

——彼は、本当は誰よりも弱い。 

だからこそ、狂気に逃げた。  
カトリーナを"支配"することでしか、  
彼は自分の存在を肯定できなかったのだ。  

「……君は、僕を見捨てるのか?」  

「違うわ」  

カトリーナは、ゆっくりと彼の髪を撫でた。  

「私は、あなたを"正しく"導くことはできる。  
 ……でも、"あなたの依存先"にはならない」  

ルイの指が、カトリーナの背を彷徨う。  

まるで、子供が母の温もりを求めるように。  

カトリーナは、そんなルイの狂気の奥にある"甘え"を、  
静かに受け止めながらも、はっきりと言い放った。  

「私は、あなたの母親じゃない。  
 あなたがすがるべきは、私じゃない」  

ルイの表情が、苦しげに歪む。  

「じゃあ……僕は、どうすればいい?」  

「それを考えるのは、あなた自身よ」  

カトリーナは、ルイの腕をほどき、  
そっと立ち上がった。  

「私はもう、あなたのものにはならない」  

ルイは、沈黙する。  

そして——  

「……俺は、"必要とされる王"になれるのか?」  

そう、弱々しく問いかけた。  

カトリーナは、一度だけ振り返り、  
静かに微笑んだ。  

「あなた次第ね。」  

それが、カトリーナからルイへの最後の"助言"だった。
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