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43 買い物に行こう
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食後のコーヒーはフィカスが淹れた。
日本茶を淹れるのは下手だったが、コーヒーは絶品だ。
「‥美味しい!
まるでコーヒー専門店のコーヒーだよ!
メチャメチャ美味しい!!」
今度はユウトが感心する番だ。
コーヒーを淹れる姿も様になっててカッコイイ!
コーヒーを飲むナイトも上品でカッコ良過ぎ!
目の前の眼福を眺めながら(僕、この光景タダで見ちゃっていいのかな?)などとユウトが思っていると。
「それにしてもユウト様の荷物は本当に少ないですね。
ただでさえ少ないと思っていたのに、その殆どが炊飯器やらカレーの準備やらだったのですから」
「うん。
荷物とかたくさん持たない様に習慣づいてるって言うか‥‥
僕、日本に来る前は、両親と一緒にあちこち旅して回ってて。
荷物は最小限で現地調達が基本だったから、そのクセが抜けないって言うか」
一瞬、ナイトとフィカスが視線を合わせる。
ユウトはそれには気付かず、ポツリポツリと話し始める。
「…僕が危険に対してのんびりしてるのって、その頃の経験のせいなんだよね。
両親は二人とも20才前後と若くてさらに小柄で。
そんな両親と小さな僕の3人連れは危ない目に遇う事が多かったんだ」
「それはそうでしょうね――え?
3人だけで旅していたんですか?
ボディーガードを雇ったりは…」
「3人だけだった。
行く先々にママの知り合いがいて、滞在なんかは問題無かったんだけど、移動中がよく狙われた。
バスの乗り継ぎが上手くいかなかったり、ヒッチハイクで乗せてくれた人が急に機嫌を悪くしたりして田舎の山の中に置き去りにされたり――そんなで、野宿する事も多かったよ。
そんな誰も居なさそうな山の中に悪い人達が居たりして――あれ?
今思うとヒッチハイクで乗せてくれたと思ってた人って、運び屋だったのかな?」
「間違いないだろう。
人身売買組織か何か」
「それで、よく無事でいられましたね」
「うん、そこなんだ。
僕がちゃんとお願いすると、みんな逃がしてくれたんだ」
「「‥え?」」
思わず声を揃えて聞き返す二人。
人身売買等犯罪に関わる悪党共が、小さな子供のお願いを聞き入れるはずが無い。
たとえそれが天使の様に愛らしい子でも、『これは高く売れる』という金勘定しかしないはずだ。
だが、ユウトの顔は真剣で。
お伽話の様な話を続ける。
「行く先々でその国の悪い人達に何度も捕まったけど、ちゃんと逃がしてってお願いすると、逃がしてくれた。
近くの街や目的地まで送ってくれたり。
だから、ちゃんと頼めば大丈夫って思っちゃってて。
でも、昨日みたいに気絶させられちゃったら、ちゃんと頼めないもんね。
僕が小さい頃は、僕は何もされなかった。
父さんやママが薬を嗅がされたり、気絶させられたりして、それで僕は必死になって、ゆっくり、ちゃんとお願いして――助かった。
今は僕が気絶させられる側になったんだね。
のんびりしてたらダメだって、よく分かった。
もう、昨日みたいな事は無い様に気を付けるよ。
ナイト、本当にありがとう。
フィカスさんも」
「あ、いえ、私は…」
「直ぐに出て行く積もりか?」
ナイトが真っ直ぐにユウトを見ながら静かに訊く。
『これからは気を付けるから、守ってもらわなくていい』
そう言う積もりなのかと。
ジリジリと体内を炙られているような焦りから、声は逆に単調で静かだ。
「え――」
「少ない荷物の理由。
長逗留する気が無い?
直ぐ出て行くから?」
ユウトは僅かに目を見開いた後、一瞬、寂しそうに笑って。
「僕が長逗留するかどうか‥‥
決めるのはナイトだ」
「――ッ!
そう――か。
じゃあ」
スッとナイトが立ち上がる。
フィカスがサッとコーヒーカップを片付け始める。
「買い物に行こう」
「いいですね。
ユウト様、高1男子はもっと物を持たねばなりません。
あのウォークインクローゼットがパンパンになるくらい買いましょうか」
「えッ!?
いや待って!
僕は物を持たない主義だって話した積もりだけど?」
「ユウト…
その中学のジャージを私服として着続けるつもりか?」
「ユウト様が着ると中学のジャージとは思えないくらいオシャレですが。
何を着ても似合うのですから、もっと色々楽しみましょう」
「へ?いやそんな事…
僕はセンス無いし、オシャレとか分かんないし。
私服はジャージで充分…」
「行くぞ!」
服なんて、着ている物が着られなくなるまで次は買わない――高校3年間ぐらいは、中学のジャージ3セットを着まわせば済む予定だったユウト。
フィカスが車を出し、あちこちの店を訪れ、ナイトの家の、『ユウトの部屋』の広すぎるウォークインクローゼットが本当にいっぱいにされてしまった。
服をセレブ買いするお金なんて無いと言っても
『気にするな。払っとく』
『ナイト様は御立場上ジャンジャンお金が使えますので気にしないで大丈夫です』
と言われ――いやいやいや、
パンパンのウォークインクローゼットを眺めながらボーゼンとするユウト。
な、
何でこうなった!?
日本茶を淹れるのは下手だったが、コーヒーは絶品だ。
「‥美味しい!
まるでコーヒー専門店のコーヒーだよ!
メチャメチャ美味しい!!」
今度はユウトが感心する番だ。
コーヒーを淹れる姿も様になっててカッコイイ!
コーヒーを飲むナイトも上品でカッコ良過ぎ!
目の前の眼福を眺めながら(僕、この光景タダで見ちゃっていいのかな?)などとユウトが思っていると。
「それにしてもユウト様の荷物は本当に少ないですね。
ただでさえ少ないと思っていたのに、その殆どが炊飯器やらカレーの準備やらだったのですから」
「うん。
荷物とかたくさん持たない様に習慣づいてるって言うか‥‥
僕、日本に来る前は、両親と一緒にあちこち旅して回ってて。
荷物は最小限で現地調達が基本だったから、そのクセが抜けないって言うか」
一瞬、ナイトとフィカスが視線を合わせる。
ユウトはそれには気付かず、ポツリポツリと話し始める。
「…僕が危険に対してのんびりしてるのって、その頃の経験のせいなんだよね。
両親は二人とも20才前後と若くてさらに小柄で。
そんな両親と小さな僕の3人連れは危ない目に遇う事が多かったんだ」
「それはそうでしょうね――え?
3人だけで旅していたんですか?
ボディーガードを雇ったりは…」
「3人だけだった。
行く先々にママの知り合いがいて、滞在なんかは問題無かったんだけど、移動中がよく狙われた。
バスの乗り継ぎが上手くいかなかったり、ヒッチハイクで乗せてくれた人が急に機嫌を悪くしたりして田舎の山の中に置き去りにされたり――そんなで、野宿する事も多かったよ。
そんな誰も居なさそうな山の中に悪い人達が居たりして――あれ?
今思うとヒッチハイクで乗せてくれたと思ってた人って、運び屋だったのかな?」
「間違いないだろう。
人身売買組織か何か」
「それで、よく無事でいられましたね」
「うん、そこなんだ。
僕がちゃんとお願いすると、みんな逃がしてくれたんだ」
「「‥え?」」
思わず声を揃えて聞き返す二人。
人身売買等犯罪に関わる悪党共が、小さな子供のお願いを聞き入れるはずが無い。
たとえそれが天使の様に愛らしい子でも、『これは高く売れる』という金勘定しかしないはずだ。
だが、ユウトの顔は真剣で。
お伽話の様な話を続ける。
「行く先々でその国の悪い人達に何度も捕まったけど、ちゃんと逃がしてってお願いすると、逃がしてくれた。
近くの街や目的地まで送ってくれたり。
だから、ちゃんと頼めば大丈夫って思っちゃってて。
でも、昨日みたいに気絶させられちゃったら、ちゃんと頼めないもんね。
僕が小さい頃は、僕は何もされなかった。
父さんやママが薬を嗅がされたり、気絶させられたりして、それで僕は必死になって、ゆっくり、ちゃんとお願いして――助かった。
今は僕が気絶させられる側になったんだね。
のんびりしてたらダメだって、よく分かった。
もう、昨日みたいな事は無い様に気を付けるよ。
ナイト、本当にありがとう。
フィカスさんも」
「あ、いえ、私は…」
「直ぐに出て行く積もりか?」
ナイトが真っ直ぐにユウトを見ながら静かに訊く。
『これからは気を付けるから、守ってもらわなくていい』
そう言う積もりなのかと。
ジリジリと体内を炙られているような焦りから、声は逆に単調で静かだ。
「え――」
「少ない荷物の理由。
長逗留する気が無い?
直ぐ出て行くから?」
ユウトは僅かに目を見開いた後、一瞬、寂しそうに笑って。
「僕が長逗留するかどうか‥‥
決めるのはナイトだ」
「――ッ!
そう――か。
じゃあ」
スッとナイトが立ち上がる。
フィカスがサッとコーヒーカップを片付け始める。
「買い物に行こう」
「いいですね。
ユウト様、高1男子はもっと物を持たねばなりません。
あのウォークインクローゼットがパンパンになるくらい買いましょうか」
「えッ!?
いや待って!
僕は物を持たない主義だって話した積もりだけど?」
「ユウト…
その中学のジャージを私服として着続けるつもりか?」
「ユウト様が着ると中学のジャージとは思えないくらいオシャレですが。
何を着ても似合うのですから、もっと色々楽しみましょう」
「へ?いやそんな事…
僕はセンス無いし、オシャレとか分かんないし。
私服はジャージで充分…」
「行くぞ!」
服なんて、着ている物が着られなくなるまで次は買わない――高校3年間ぐらいは、中学のジャージ3セットを着まわせば済む予定だったユウト。
フィカスが車を出し、あちこちの店を訪れ、ナイトの家の、『ユウトの部屋』の広すぎるウォークインクローゼットが本当にいっぱいにされてしまった。
服をセレブ買いするお金なんて無いと言っても
『気にするな。払っとく』
『ナイト様は御立場上ジャンジャンお金が使えますので気にしないで大丈夫です』
と言われ――いやいやいや、
パンパンのウォークインクローゼットを眺めながらボーゼンとするユウト。
な、
何でこうなった!?
応援ありがとうございます!
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