あと6日で王太子を振り向かせたい王女は護衛にドキドキしている場合ではない！

11 困る二人

「…あ…」
「あなたが冷えてしまう」

掠れた護衛の声。

ピウスが男爵令嬢に貸そうと手に持っていたケープを取ったのは護衛…

後ろから抱きしめられる様にケープを掛けられてそう気付いたピウス。

顔だけ振り返れば…

（ま、また怒ってる！？）

慌てて前を向きケープのボタンを締め始めるピウス。

震えてしまうその手を後ろから包むように掴まれて…

「‥あ、あの？」
「やりすぎです…世界中の男を誘惑するつもりですか？」
「え…そんなはず…意味が分からないわ」
「胸元が大胆すぎる」
「‥！」

（忘れていたわ）

「ケープは温かいので…フィシューを着けると蒸れてしまうので着けていないのです。本来ならケープを脱ぐことは無いので…忘れてました」
「――フゥ…」

（…何の溜息？）と恐る恐る振り返るともう護衛は怖い目をしていない。

が、疲れた顔をしている。

「…でも、それほどの事かしら…夜会服などは皆こんな感じの胸元‥」
「あなたは気を付けた方がいい！」

遮るように言われ慌てて前を向くピウス。

護衛の目が恐すぎる…

「あなたを護衛する自信が無くなりました」

背後頭上から低く響いて来る声にピウスは申し訳なく思う。

「…あ、そうよね、商会の方、随分忙しいのでしょう？他の誰かに代わ‥」
「そうじゃありません！」
「‥ッ‥」
「失礼‥ッ…困ったな…」

（困っているのは私もだわ…
あなたが何故怒っているのかまるで分らない…）

眉尻を下げるピウス。

その時。

ガサガサ、ガサガサ！

風も無いのにどこかの草むらが揺れた様である。

「‥ッ‥失礼、しました」

ピウスの手を掴んだままだった護衛が手を離す。

（…あ…）

後ろから抱きしめる様にしていた護衛が数歩離れたので。

ピウスは護衛を振り返る。

護衛はピウスを見ている。

ピウスは護衛を見つめる。

護衛は視線を外さない――


…ふわり…


見つめ合う二人を包む風が妙に柔らかくて――