あと6日で王太子を振り向かせたい王女は護衛にドキドキしている場合ではない！

14 波乱チタイム？

「美味い…」
「！‥良かった‥チキンサンド、お好きよね？」
「！…それは…では…」
「ふふっ、ええ、殿下に断られるのは分かっていたもの」

そう言って苦笑するピウスに眩しそうに目を細める護衛はもう怒っていない。

（良かったわ…ご機嫌が直って。私よりずっと大人だと感じていたけど意外と怒りん坊さんとか子供っぽいところもあるのね…それはそうよね、私より1才年上なだけだもの。…ただ、怒るポイントが分からないのは困るわ。…困ると言ったらこれも）

ピウスはもうお腹一杯なのにバスケットにはチキンサンド、卵サンド、青野菜と赤野菜と海老のサンドがまだまだ残っている。

「…でも張り切って作り過ぎてしまったわ…おかしな事よね…今日護衛を務めて下さるのが誰かなんて分からなかったのに…お弁当を作る時は何故かあなたとアクーメンさんと3人で食べる勘定で作ってしまって」
ガサガサッ

どこかの草むらが揺れたようである。

一瞬『あら？』と思ったピウスだが‥

（えっ！？怒‥何で！？）

ついさっきまで美味しそうにサンドイッチを頬張っていた護衛が目を三角形にしている…

「‥だから青野菜と赤野菜と海老のサンドなのか…アクーメンの好物だから‥」
「え、ええ。卵サンドは二人ともお好きよね？‥あの、私何か間違えたのかしら」
「間違えたというより‥」

低い声で唸るように言う途中で護衛はハッと校舎への出入り口の方を見る。

中庭で食事する他の生徒達も大きく騒めき出したのでピウスも何事と顔を巡らすと――

「‥え‥テナークス殿下！？」

テナークスが何やら必死の顔でピウス目掛けて走ってくる。

（まぁ、走ってる…そう言えば走ってる姿を初めて見たわね…）

「ピ、ピウス姫！」
「テナークス殿下」

ピウスは中庭に幾つか置かれているテーブルセットの一つで護衛と共に食事していたのだが王太子が来ては立ち上がって挨拶しなければならない。

ちなみにここ、アッロガーンス王国では女性特有の『カーテシー』が禁止になっている。

妊婦がカーテシーをしようとして転んで亡くなった事件をきっかけに女性の体に負担を強いる諸々が廃止されたのだ。

と言っても、スタイルを魅力的に見せるコルセットなどを女性が自主的に装着するのまでは禁止出来ず、結局カーテシーだけが禁止となった。

とは言えやはり敬意を示さないわけにはいかず、今ではちょこっと体を低くするだけの簡易的なカーテシーが行われている。

いずれにせよ王女であるピウスは簡易的にもカーテシーをする必要がない。

軽く目礼するピウス。

その優雅さにハッとしたテナークスは慌てて目礼を返して。

「食事中済まない。今朝も…心ならずもランチの誘いを断ってしまって…それでその…今更なのだがせっかく私の為に用意してくれた弁当‥ああ、まだ残ってい‥」
バババババッ！

一瞬、何が起こったのか誰にも分からなかったが――

何とテナークスの目的を察知した護衛が物凄い勢いでチキンサンドを口に詰め込んだのである！