あと6日で王太子を振り向かせたい王女は護衛にドキドキしている場合ではない!

ハートリオ

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58 ラーミナの嘆き

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「ぎゃあぁぁぁ~~~ッ
痛い、痛いぃぃぃーーッ」

アッロガーンス王妃が床の上に右を下にして横向きに倒れ左足を押えている。

左太ももには剣が突き刺さっており、真っ赤な血がドレスを染めている。

夫の命令で騎士達に連行されている途中で突然左太ももに激痛を感じ、何事と見ればどこから現れたのか細く長い剣に左太ももを貫かれている。

会場の出口付近が騒然となる。

「まぁ…ラーミナ…」
「どうした?あれも剣の妖精が?」

ピウスの肩に置かれたウィースの手が労わる様に優しく肩をなでる。
ピウスはウィースを振り返り困惑気味に説明する。

「ええ…3年前の話ですが…アッロガーンス王妃に盛られた媚薬に耐える為、私は修道院に用意された自室に籠り…私は王女として幼い頃から毒に慣らされて来たせいか媚薬の症状はいわゆる性衝動ではなかったのです…が、心臓が破れそうなほどの激しい動悸と頭の中で色々な映像や色の点滅が駆け巡る状態に正気を失いそうになって――私は自分の太ももを剣…ラーミナで刺し貫いて正気を保ったのです…丁度、アッロガーンス王妃に突き刺さっている剣と同じ場所です」
「なッ…!媚薬を盛られただと!?あの女に…
ッ、君は自分自身を傷つけて薬の影響を耐え切ったのか…!?」

遅れて会場入りしたウィースには媚薬の話は初耳である。

「私が正気を失えばラーミナが何をするか分かりません。アッロガーンスを滅ぼしていたかもしれないのです」
「当然の報いだろう!」
「アッロガーンスの民には罪はありません。王妃の愚行の罰を民が受ける事はありません」
「…ッ…ああ、確かにそれは…」

ウィースはカッとなった自分を恥じ入る。

「…君はどこまで…そんな辛い状態で他国の民を慮るとは…」
「王女でした。当然のことです。
――ただ、その時のラーミナが…私を刺すことで私以上に悲しみ苦しんだのです。太ももの痛みよりラーミナの嘆きが私に正気を保たせたのです」

ピウスは3年前のことをリアルに思い出す。

激しい鼓動、破裂してしまうのではないかと感じた頭、太ももの激痛、ラーミナの嘆き――永遠に続くのかと思われた地獄の様な時間…

「抜けないって何でよぉ!?あぁッ痛ぁ~~もう、死んだ方がマシよ!毒杯を頂戴!今すぐ死なせてぇッ‥」

太ももを貫く剣の痛みは凄まじい。
まるで肉を抉り続け骨を砕き続けるかの様…

アッロガーンス王妃の必死の願いを叶えようと動く者は無く、絶望の中王妃は思い出す。

扇子の裏側に毒を仕込んであることを。
邪魔な奴、気に入らない奴をいつでも殺せるように粉状の毒を紙に包み扇子の裏側に貼り付けてあるのだ。

王妃は震える手で必死に扇子の裏側に貼り付けた毒の包みをはがす。
零さない様に気を付けながら包みを何とか開き口へ――

ブワァッ!

「‥ハッ!?あぁッ、毒が!あぁぁ~~~ッ」

突風が王妃の手から毒を攫い会場の外へと運び去る。

あっという間の出来事に誰もが目を丸くする。

「――これは驚いた。風の妖精が剣の妖精をサポートするとは…妖精王も舌を巻いている…どうやら君は風の妖精の愛も手に入れた様だ」

皇帝が苦笑しながらそんな事を言う。

「母の娘だからでしょう…母の為にです。母が儚くなって4年――風の妖精の変わらぬ愛に心が震えます」
「だが妖精王によれば妖精同士が連携するなど前代未聞らしい…君を気に入ってのことで間違いない」
「え?よく色々な妖精に助けてもらってますよ?」

妖精達はいつも親切で『大丈夫?何か手伝おうか?何でも言ってね』と声を掛けてくれるし、頼めば本当に手伝ってくれるので、皇帝…と言うか妖精王の話を不思議に思うピウス。

「‥なッ‥驚いた…妖精王も驚いている…君は凄過ぎるな…」
「私ではなくラーミナが、ですわ。ラーミナは妖精界のアイドルですから」
「ああ、剣の妖精は確かに…だがやはり君が‥」
「あーー、ゴホン!」

ウィースがピウスを自分の方に引き寄せ剣呑な眼を皇帝に向ける。

「近すぎるぜ、じーさん」

――!!――

背の高い茶髪男性の不敬の極致の言い草に周囲はアッロガーンス王妃の騒ぎも忘れ皇帝に注目する。

こんな不敬を皇帝陛下はどう罰するのだろうか――

との興味、怖いもの見たさである。

ピウスもサッと顔色を変え緊張する。

ウィースさんを守らなければ――!
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