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第一章

12 エマージェンシー

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「‥‥もしかして、ご自分で命令した事、お忘れになっていたのですね?」



感情の無い声が私を沈める。

いや、だが‥‥!?



「6年前、私に仰いましたね。
『人の記憶など当てにならない。
だから私は、日々細かく日記をつけている。
君もそうするといい。
驚くよ?
自分の記憶が如何にいい加減か。
如何に自分に都合のいいように作り変えられてしまうのか‥‥』」



‥‥それは言っただろうと思う。

私は皆にそう勧めている。



「6年前の御自分の日記を読まれる事をお勧め致します。
私は急ぎますので‥‥
‥‥あ。
公爵邸の森に、小さな白クマが住んでいるのですが、連れて行ってよろしいでしょうか?」

「‥‥白クマ?
あぁ、勝手に棲みついているのだろう。
好きにしていい。
‥‥だが、日記?‥」



ありがとうございますと言ってステラが出て行ったドアからフッとクレアに視線を移して‥‥

あ‥‥れ?



「まぁ、でも、これで一安心ですね、リン様!
‥‥リン様ぁ?
えと‥‥どうかなさいましたぁ?」



どうもこうも‥‥

クレアが‥‥

すっっっごくつまらない女に見える!?

魅力の一かけらも無い
下品で
図々しくて
ムカツク、
醜悪で、
反吐が出る‥‥



「どうしたんですかぁ?」



‥‥寒気がする。
何だその語尾は?

まさかと思うが、
可愛いつもりか!?

‥‥ハハ、まさかな。

もしそうなら、狂っていると判断して、病院送りにするしかないだろう‥‥ウッ!



「リン様ぁ!?
どうなさったのぉ!?
待ってぇ‥‥ハッ!」



私は急ぎ自室へ駆け込み、吐いた。

体中に鳥肌が立って、耐えられなかった。


クレアが気持ち悪い!

何故だ!?

何故急にこんな事になってしまったんだ!?


鏡に映った自分の顔は死人の様だ‥‥



一ヶ月後はステラの卒業式だが、実はクレアも卒業となる。

クレアは19才だが、実はまだ王立高等学校を卒業出来ていない。

勉強が苦手で、延々留年し続けていたのだ。

私はそんなクレアを不憫に思い、『特別卒業』をプレゼントする事にした。

莫大な寄付金を支払ったが、スタード公爵家は領地経営に商売に、全てが上手くいっており、特に外国との商売はここ5~6年は莫大な利益を上げ続けている。

私の愛する妻となる女性の為なら安いものだと借金して支払ったのだ。

大きな借金だが順調にいけば2~3年で完済出来るだろうと計算して。


そして、その卒業式のパーティーで婚約発表をする手筈になっている。


婚約‥‥だと!?

あのオゾマシイ女と?

無理だ!



コンコンコン‥‥


私はノックを無視した。

今、クレアを見たら殺してしまうかもしれない‥‥


だが、カチャリと音がして、勝手にドアを開けるクレア。

私は、殺意をもって、ドアを振り返った‥‥
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