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第二章

02 女神は無自覚1

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口を手で覆い、真っ赤な顔で女神を見つめるカロン。


女神の美しいシグナルレッドの髪は柔らかく波を打ち、

風にそよげばフワリと甘く香り鼻孔をくすぐる。

神秘的なゴールドの瞳は癒しの光を湛え、

今すぐ跪いて生涯の忠誠を誓いたくなる。

ふっくらとして形のいい唇は髪と同じシグナルレッドで甘く艶めき――



「え?
だ、大丈夫ですか!?
カロン様!?」



木に体を預けて、何とか失神するのを耐えたカロンは弱々しい低音美声で呟く。



「それは反則ですよ、
ステラ様‥‥」

「え?
何が‥‥」

「いえ、大変にお美しい方だったのですね。
髪はダークグレーだと思っていましたし、巨大な身体は本物だと思っていました。
いつも下を見ておられたので顔を見た事は一度もありませんし‥‥
金色の瞳はこの国だけでなく、世界的に聖女の象徴です。
権力者に囲われない様、気を付ける必要はあるでしょうが‥‥
それを除けば、ステラ様の今後は心配要らない様で安心致しました」

「あぁ、今後ですか?
私は何か商売をやっていこうと思っています!
これまでの6年間で、色々やらせてもらって商売の楽しさを知ったし‥‥
勿論、上手くいっていたのは公爵家の名前があったからだろうから、個人での活動は厳しいだろうけど‥‥不安よりもワクワクの方が大きいの!
だから私は大丈夫!
心配して下さったのね
有難うございます、
カロン様!」

「あ~~やめて下さい
反則です、蕩けます!
ところで、何でメイド服を着ているんですか?」

「着るものが無くて。
肉襦袢付きドレスはもう一生着たくないし。
普通のドレスは1着も無いから。
困っていたら、メイドがくれました。
結婚の為辞めたメイドが置いて行ったものだそうで。
助かった!――と思っていたのですが‥‥
‥‥変、ですか?
(やだ、白クマさんに見せちゃった!)」

「いえ!
大変に魅力的です!
‥‥攫ってしまいたくなる程に‥‥」

「くふふふ、
カロン様はクールなのに、実はお優しいのですよね。
奥様もお子様もお幸せですね」

「‥‥‥‥‥‥‥
有難う、ございます」



妻と子‥‥

表向きはそうなっているが、実は私とは無関係。

だが、それを口に出す事は許されない。

使用人としてこのスタード公爵邸内にいる間は‥‥


そう思い、口をグッと引き締めるカロン。

真面目過ぎるほど真面目な男なのである。

その、引き締めた口元が僅かに震えるバカ真面目な男の胸中は――


――ステラ様とは、5年半ほど公爵家の領地経営や商売の事で協力し合って来た。

明るく聡明で思いやりのあるステラ様。

確かに見た目は厳しいものがあったが、充分魅力的な女性だと思って来た。

ディング様に『あの化物を抱けるのか!?』と聞かれて『愛せます』と答えたのは本心だった。

ステラ様の内面に好意を抱いていた。

本気で―――

不遇のステラ様が婚約解消されて、ただでさえ心がザワついていたのに‥‥

実際のステラ様は化物どころか女神で‥‥



――ヤバいどころじゃないッ――



甘い何かが胸中で大騒ぎしていて更に心をザワつかせるカロンは顔を伏せる。

ステラが眩し過ぎて直視出来ないらしい。


‥‥サラリッ‥‥


俯いた拍子に後ろに流していた長めの前髪が額に掛かり、熱くなった頬に影を落とせば――


ブワァッ!
(*大人の男の色気が溢れ出した音)


女なら誰でも鼻血を噴くほどの色気がダダ漏れしているが、ステラはモフモフに夢中なので一切感知しない。

カロン自身も意識してセクシーオーラを出しているわけではなく、全くの無自覚なので、セクシーがスルーされていても気付かない。



色々と残念な美男美女である。
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