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第二章

03 女神は無自覚2

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「それにしても‥‥
見慣れたメイド服も、あなたが着るとまるで別物に見えます。
清楚なのに華麗で、可愛らしいのに働く女性のプライドや強さを感じます」



魅力的な容姿にも拘らず真面目一徹、仕事一筋のカロン。

女性の装いを褒めた事など一度も無く、今の自分の感動を伝えるのには全然足りない言葉たちに失望しながら感想を口にする。

やはりステラにはあまり上手く伝わっていない様で、メイド服を着るステラを褒め称えたかったカロンだが、メイド服そのものを褒められたと受け取ったステラは喜色満面、キラキラと笑顔を輝かせる(結果オーライ?)。



「まさにソレです!
一年前にメイド服を新しく変える時に、皆、たくさん要望を出してくれました。
その要望がまさに今カロン様が仰った事でした!
デザインもみんなで決めて‥‥しかも機能的なんですよ!
サッと袖を上げたり戻せたり、スカートをすぼめられたり‥‥」

「一年前――ああ、そうだった。
ステラ様の発案で何年かに一度、使用人の作業服やメイド服を見直そうとなって。
一年前の見直しの時はメイド達がお祭り騒ぎだったな‥‥
ステラ様を囲んで、みな楽しそうだった」

「ええ、その前の見直しの時は皆遠慮があった様なんですけど、コレの時は‥‥
見て下さい、袖口の返しとか襟とか、さりげなく控えめなレース柄仕上げになっていて、キチンとしているけど可愛いんです。
それだけで、結構テンション上がるんですよ!」

「ふふ‥‥
領民もここの使用人達も皆あなたを慕っている‥‥
特に領民は、6年前、全てを捨てて領主スタード公爵と闘おうとしていた。
差し違える事も辞さない覚悟で。
領民達は生活が立ち行かず追い詰められ何かに取り憑かれた様な顔をしていた。
あなたのアイデアときめ細かなケアのお陰で今は充実した日々を送っている。
『まさかこんな日が来るとは‥‥ステラ様のお陰です』と、
私が領地に行く度に領民に言われる言葉です」

「まさか、私など。
無知な子供だったからこその考え無しのフワフワしたアイデアを特産品という形にまでしたのはカロン様の才覚と努力のお陰です。
カロン様を手放すなど、スタード公爵家はこれから苦労されるでしょう」

「い、いえ、
それこそ私など‥‥」



ステラのフワリとした笑顔に見惚れて言葉を失くすカロン。

ステラは感慨深げにお世話になった人々を想う。


(最初の頃はメイド達の態度に悲しい思いもしたけれど‥‥)


別邸城でステラを世話するメイド達は、最初の頃こそ意地悪だったが、リーダー格の二人がクビになった後は、泥固めヘアや肉襦袢付きドレスを強要するディングの異常行動やステラの前向きさや気遣いに心を入れ替え、良好な関係になっていた。

本邸城の使用人達は彼女達からステラの人となりを聞き、実際待遇改善やきめ細かい心遣いをされ、今では公爵家のメンバーよりもステラを主と仰いでいる。



「使用人達はまだ、あなたが去る事を知りません。
知ったらどれだけ‥‥」

「わ、私も皆と別れるのは辛いので、黙って去ります。
少しでもザワつけば、公爵家は使用人達を咎めるかもしれませんので」

「‥‥あなたは人の事ばかりだ。
人に対する気遣いの十分の一でも自分に向ければいいのに‥‥」

「いえ、私はただ出て行くだけですから。
私よりも、スタード公爵邸で心配な事があります」



ステラがそう言うと、カロンは眉を顰める。



「あなたはこれまでスタード公爵家に多大なる恩恵を与えて来た。
それなのにディング様は浮気の上あなたとの婚約を解消した。
恨みこそすれ、心配する事など無いと思いますが?」

「その、恩恵が今後問題になるかなって思いまして‥‥」

「どの恩恵ですか?
有り過ぎて分かりませんが」

「魔玉です。
他に何かありましたか?」



そう聞くステラにカロンは目を丸くする。



「なッ‥‥
無自覚ですか?
アレもコレも‥‥
公爵家の領地経営にしろ商売にしろステラ様のお陰で上手くいっているのです!
魔玉‥‥あぁ、
成る程、そうですね。
確かに魔玉はすぐに影響が出ますね」

「ええ‥‥
今まで魔道具と魔玉に関しては殆ど私が管理してきました。
空になった魔玉に魔力を充填‥‥充魔するのも、魔道具の保守・点検も」

「そうですね、
特に充魔に関しては…
金額にすれば国の一つや二つ買えるほど莫大な額になるでしょうね。
いや‥‥全然足りないか?
スタード公爵家に再三報告は上げているのに、あなたに何一つ報いていない。
魔力を軽視するが故の事か、解っていないのか‥‥」

「魔玉に関しては、それほど心配ではないのです。
6年前――私が充魔する前に使っていた魔玉が保管庫の奥に残っているはずです。
それを使えばいいだけですから。
今後は充魔にお金がかかる様になりますが、それも6年前に戻るだけです」



6年前どうだったのか、カロンは詳しくない。


6年前、カロンはスタード公爵家の領地にいたから。
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