12 / 27
12
しおりを挟むローレンスは二歳になって、やっと歩くようになった。歩けるのが楽しいのか、よく走り回ってよく転んだ。
マリアを始め乳母も心配して手を繋ぐのだが、直ぐに手を離して走っていってしまう。マリアは、はしたないのを覚悟で生まれてはじめてズボンを履いた。ローレンスに追いつくためだ。あまり走ったこともなかったので、夜にはいつもクタクタだった。
二歳になっても、ローレンスは言葉を話さなかった。マリアは言葉を話してほしくて話しかけるが、聞いているのかいないのか、ニコニコするばかりで、何も言ってくれなかった。
執務室へ行くと、レイフがローレンスを抱き上げて、何か仕事の書類を見せていた。ローレンスはその書類をじっと見つめている。従者のジャックが分かるんですかねぇ、と聞いていた。
マリアに気づいて、従者は一礼した。マリアも挨拶を返して、息子の様子を伺う。母に気づいたローレンスが手を伸ばす。レイフはマリアに息子を抱かせた。
「こんな小さい頃からお仕事させてるんですか?」
「いい補佐役で助かってる」
「あー」
ローレンスがタイミングよく返事したので二人して笑う。マリアは抱き直した。
「この子は、いつになったらお話してくれるようになるんでしょうね」
「三歳だ」
冗談だと思ってマリアは聞き流した。
「ジャックさんは、良い人いらっしゃらないんですか?」
マリアが気軽に聞くと、従者はあからさまに動揺してうろたえた。
「お、わ、私は!そ、その…!」
「ジャックはモニカに懸想している」
「わー!!言わないでくださいよ!」
従者は顔を真っ赤にして手で覆った。めそめそしだしたので、マリアは追及するのを止めた。
「モニカは、その気が無いようだがな」
レイフが容赦なく言う。ジャックは更に傷ついて座り込んでしまった。
「そうだったの…ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんです」
いえ、とジャックは立ち上がったが、その表情は暗かった。
一階のホールでローレンスを遊ばせていると、モニカが通りかかった。お坊ちゃまは今日も元気ですねぇ、などと言っている。
「ねぇモニカ、良い人いますか?」
「え?いませんけど」
当然のように返され、マリアはジャックに同情した。
レイフに手を引かれ、寝台に座る。マリアの耳を引っ張った。
「旦那さま…どうしてそんなにいじめるんですか」
レイフは喉元を鳴らして笑う。
「君が笑うから」
「私?」
「言わないほうが良かったな」
マリアも手を伸ばして耳を引っ張ってみた。無邪気に彼が笑って、ローレンスそっくりだった。
「もうローレンスも二歳です」
「大きくなった。笑った顔などマリアにそっくりだ」
「貴方様に似てますよ」
「いや、君に似てる」
レイフは先に寝転ぶ。寝台がきしむ。マリアも横になった。
「私…まだ二十二です。まだ、子供、産めます」
「…欲しいのか?」
「貴方は欲しくないのですか」
レイフは身体を起こした。あぐらをかいて座るので、マリアも起き上がった。
「ローレンスの時は幸い安産だったが、二人目は分からない。もう必要無いとも思っている」
「一人だけでは心もとないでしょう?」
「そんなこと言わないでくれ」
「…すみません…。正直に言いますと、あの子の兄弟に会えるなら、会いたいんです。ローレンスの成長が遅いから欲しいというわけではありません。貴方は良いお方ですから…。家族が増えるのを望むのは、自然なことです」
沈黙が降りる。マリアは言葉を待った。少し、彼の肩が揺れる。
「──細い体だ」
レイフがちらりとマリアを見た。マリアは自分の身体に目を落とした。確かに、貧相だとは思う。子を産むとふくよかになるそうだが、マリアはそうはならなかった。
「細くとも役目は果たせます」
「子は授かりものだ。役目ではなく、そう、考えてほしい」
「はい…そう、思います」
「寒いか?」
脈絡のない問いに、マリアは首を横に振った。レイフはマリアの服のボタンを外し始めた。服の隙間に手を入れて、腰を撫でた。
「腰のラインが好きなんだ。吸い付くような肌も、ずっと触っていたくなる」
「まぁ…私の身体だけが目当てなんですか?」
「白状すると、そうだ」
マリアは、むくれたフリをしてレイフの頬を引っ張った。レイフは照れたように笑う。何だか可愛かった。
「…一番はじめのとき、君は嫌な思い出だろうが、とても綺麗で、申し訳ないくらいだった。夢中にならないように自制するのが大変だった」
「本当に身体が好きなんですね」
「すねるな」
「いつ私が拗ねたんですか」
マリアは膝立ちをして、レイフの肩に腕を回した。レイフの手が腰から内ももへ移動する。
柔らかい、とレイフが呟いた。視線が合わさる。顔を寄せて、舌を合わせる。甘い味がした。
94
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる