【完】【R18】嫁いだ姉が死んだので、妹の私が嫁ぎ直しましたが、夫に溺愛され過ぎて困っています。

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「私の懐の深さに感謝し欲しいものだな」
 鼻で笑うような声。レイフは涼しい顔で無視して、近くにあった椅子に座った。
 フェルナンド殿下の私室に通されて、互いに治療を受けた後は、人払いして二人だけになる。それまで互いに無言だったが、フェルナンドが口を開いた。
 懐の深さなどと──レイフは失笑したくなった。人の妻を横取りしようとしながら、懐が深いなどと自分で言う。レイフは、長椅子に大儀そうに座っているフェルナンドを見据えた。
「前はどうだか知らないが、今はマリアは私の妻だ。子供もいる。マリアがお前のものとなることは無い」
「貴様とかお前とか、随分無礼な物言いだな」
「相応の呼び方をしている」
 フェルナンドはまた蔑むように笑った。
「ははっ、にしてもお互いまともに面識もなかったのに、記憶持ちとはな。なんの因果かマリアは、落ち目のアンベルス家に生まれてしまっているし──覚えているか?前の時、マリアは私の従姉妹だった。幼い頃から夫婦になる約束で共に育ち、その通り夫婦となった。幸せだった」
 だが、とフェルナンドは言葉を切る。レイフも覚えがあった。

 前の世では、この国は。敵国に攻め込まれ、レイフも戦いの中、命を落とした。
 マリアがフェルナンドの妃だとは知らなかった。ありふれた名前だし、面識もなかった。前の時から王宮の出入りを嫌っていたレイフだから、マリアのことを知らないのも無理はなかった。
「それで」フェルナンドは気を持たせようと手を振る。「話とはなんだ。マリアから手を引けとでも?」
「私から奪おうものなら全力で阻止する。マリア無しでここにいる意味は無い」
「我が王を脅しているのか?」
「そうとらえてもらって構わない」
「やれやれ…随分とご執心だな」
「前の旦那なら、彼女に惹かれる理由がわかるだろう」
 今度はフェルナンドは笑わなかった。ウイスキーが入ったグラスを手に取ると一気に煽った。もう一つを注いでレイフに向ける。レイフは立ち上がって受け取りその場で飲み干した。口当たりまろやかで、甘い味がした。
「いける口か?もう一杯どうだ」
 レイフは無言でグラスを置いた。並々と注がれたそれを手に取って、席に着く。一口飲んで、息を吐く。
「私が聞きたいのは、息子のことだ。ローレンスがどうなったのか知っているか」
 レイフが命を落とす時まで、ローレンスはまだ生きていた。立てこもる城から脱出させてはいたが、無事に逃げ延びれたかまでは分からず、気がかりだった。
「息子ねぇ…」フェルナンドは思い出そうとしてか顎に手を当てる。緊張感が漂うなか、彼はおもむろに口を開いた。
「残念だが分からない。私も逃げるのに必死だった。だがあの時オリファント領は徹底的に蹂躙されたと聞く。おそらくは」
「…そうか」
「一つ話をしてやろう。マリアの話だ。国外へ脱出するために、私たちは馬車に乗って逃げていた。険しい崖に差し掛かったところで、運悪く追手がやってきた。私はマリアを逃がそうと馬車を降りて戦った。だが敵わず、捕らえられた」
 内容とは裏腹にフェルナンドは平気そうだった。見た目だけで真意は分からない。グラスに口を付けて、テーブルに置いた。
「私は捕らえられ、敵国に送られ、引き回され、処刑された。そんなことはどうでもいいが、私はマリアの行方が気になっていた。処刑される前日に衛兵が密かに教えてくれた。彼女も捕らえられたが…辱めを受けそうになり、自死したそうだ」
 重い沈黙が下りる。グラスの氷がカラン、と音を立てた。
「マリアを諦めきれない。私はマリアを愛していた。こうしてやり直しの機会を与えられたのには、マリアと再び夫婦となって幸せになるためだと思っていた。だが、そうではなかった」
「マリアは渡さない」
「神とは残酷だな」力なく笑う。「これは私への罰なのだろうな。彼女を見殺しにしたから、よその男と結婚させて、私を惨めな思いにさせる為に、こうしてやり直させたのだろうな」
 レイフはこの男を慰めるつもりなど毛頭なかった。確かに、神がこうしてレイフとフェルナンドを導いたのなら、レイフは神に感謝しなければならない。この男を見ていると、そんな気分にもなれなかった。
「私とお前の違いは」とレイフが切り出した。
「違いは、お前はこの国が滅ぶと知りながら何もしなかった。ただ皇帝の弟として座っていただけ。私は戦った。この国を守るために。ローレンスが無事に生まれて成長するのを見届けるために。死んでいった者たちが今度は生きられるように、最善を尽くした」
「その褒美としてマリアを得たのか」
 フェルナンドの言葉にそうかもしれないと思った。本当のところは誰にも分からない。戦争は終わった。マリアは自分の妻に収まっている。それで終わり。それ以上のことはもう無いし、望まない。
「彼女は記憶が無い。そのような最期だったなら、よけい思い出して欲しくない。彼女の為にも、手を引け」
「マリアは幸せか?」
「疑いようもない」
「ははっ。本当の所は分からんぞ?」
 レイフは二杯目を飲み干した。立ち上がってテーブルに置く。フェルナンドが注ごうとするのを手で制する。
「何があっても離れるつもりはない」
「向こうはそうは思っていないかもしれない」
「マリアが私の元に来てくれた理由わけがよく分かるな。貴様のような奴に、マリアの旦那は務まらない」
「──ああそうさ。そうだったんだろうよ」
 フェルナンドは一気に酒を煽った。俯いて、何も言わなくなった。



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