【完】【R18】婚約者を妹に取られました。

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二章(アーネスト視点)

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 戦争が勃発した。ロワール国の領土であったニッヒラビを獲得するため、隣接する侯国が攻め込んだ。
 ニッヒラビはロワール国にとって重要拠点だった。北部の国へ行くには、陸路からでも海路からでもそこを経由しなければならなかった。
 それは北部の国達も同じだった。そこを手に入れれば、ロワール国と結ばれている不平等な交通税を失くせるし、交易においても多大な利益が回ってくる。常にニッヒラビは各国に狙われていた。

 戦争が勃発して直ぐに父が亡くなり、兄にダジュール侯国が継承された。北部の更に北部に位置する我が国は、正直言ってニッヒラビを巡る争いに加わっても、何の益もない。だが侯国をまとめ上げる皇帝からの要請を断るわけにはいかない。

 そこでアーネストが選ばれた。兵は出せないが弟一人を差し出すという。人質とも、捨て駒とも取れる手の打ち方だった。

 アーネストとしては、これはチャンスだと思った。かつて戦争で功を上げた将軍が、奪った土地の自治権を得た前例がある。ダジュール侯国が兄の物ならば、自分は新しい土地を得ればいい。領主として新たな国を作り、兄と、母を見返す。…見返すなど、せっかく家を出れたのだから、自由に生きればいいものを。そんな思いもよぎったが、まだアーネストの中には、あの花園の少女が息づいていた。

 生き延びたと報告を聞いてから、彼女の情報は何も得られなかった。何をしているのか。候爵家には留まっているのか。一切分からなかった。
 彼女が留まっているのなら、まだ候爵令嬢ということになる。この戦争でうまく立ち回れば、彼女を自分のものに出来るかもしれない。出来ずとも、一目でも会えるかもしれない。そんな思いも密かにあった。

 
 結果として、ニッヒラビを制圧し、皇帝から武功を称えられた。一人でやって来たアーネストに対し、最初こそ憤慨していた皇帝だったが、ちょっとした小遣い稼ぎで貯めていた金で傭兵を雇い、ロワール軍を次々と撃破し、あっという間にニッヒラビを獲得すると、手のひらを返すようにアーネストを褒め称えた。

「そなたのような逸材は当分は現れまい。これからも我が帝国の為に力を尽くしてくれ」

 膝をつきながら皇帝の言葉を頭上で聞く。頭を下げたまま、アーネストは次の言葉を待つ。

「なればこそ相応の褒美をやりたい。何が望みか言ってみろ」
「…恐れながら、まだ懸念が残ります」
「うん?」
「ニッヒラビはこれまでも数多の争いの火種となってきました。今はまだ一時的に制圧したのみで、いつロワールが奪還しようと兵を差し向けるか分からない、危険な状態です」
「なにか策があるのだな」
「立国してはいかがでしょう?新たな帝国の一国になったと内外に示すのです」

 ニッヒラビがどこの国の物なのか。長年の論争の的であり、戦争を起こす口実にもなった。帝国の一部になったと示してもどれほどの効力があるかは、これからの国造りにかかっている。

「であれば、新たな国を作ってやろう。爵位は候爵でよかろう。ニッヒラビの土地は侯国にしては狭いが、重要拠点だ。うるさい老人どもは余が退けてやろう」
「よいお考えかと。私ではそこまで思いつきません」
「言わせておいて、しらじらしい」

 皇帝が喉の奥で笑う。クツクツと静かな笑いに、ドン、という大きな音が響き渡る。持っている王笏で床をついた音だった。アーネストは怒りに触れたと思い、深く頭を下げた。

「アーネスト・ストレリッツ」

 低く凄みのある声で名を呼ばれ、アーネストはただ、返事するしかない。

「陛下、お怒りをお鎮めください」
「野心があるのは良いことだ。余も兄に代わりこの地位を得た」
「陛下にも、実の兄にも刃向かおうなどとは思いません」
「余もそう言って、かつて兄に問い詰められた謀反の疑いを交わしてきた」
「………………」
「顔を上げろ」

 直ぐに顔を上げる。齢四十になる皇帝は、王笏を従者に渡すと、金の鞘の剣を手に取り、壇上を降りてきた。
 降りきって、剣を鞘から抜く。アーネストの両肩に剣が置かれると、剣を鞘に戻した。

「アーネスト・ストレリッツ。お前がニッヒラビを制圧した功は、何者にもまさる。お前を新たに候爵位に叙勲し、ニッヒラビを与える。ロワール国の脅威から余を守ってみせよ。期待しておるぞ」
「………は。ありがたき幸せ」
「であれば早々にニッヒラビへ行け。侯国の名は追って知らせる。ああ、早々に妻を取れよ。候爵ともあろう者が妻もいないのでは箔がつかんからな」

 どこまで見通されているのかと、さすがにアーネストは皇帝に畏怖を感じる。密かな想いを誰にも明かしたことは無いから、皇帝が知るはずもない。ただのお節介だろうと、自分を納得させた。



 
 ニッヒラビはユルール侯国と名を改め、アーネストはユルール候爵となった。新たな立国でかかりきりになっていると、いつの間にが一年の時があっという間に過ぎ去り、兄の結婚式が近づいていた。
 出席しないわけにはいかなかった。何と言ってもあの少女の妹の結婚式だ。彼女に会えるかもしれない。再会を果たして、彼女を手に入れられたら。そんな淡い期待もあった。

 しかし結婚式に彼女は姿を見せなかった。それどころか誰も彼女の話をせず、いないものとして扱われていた。
 
 彼女の行方が気になった。だがそれを自分が口に出すわけにはいかない。嫌な予感がした。彼女はもう既に、この世にいないのではないか。そうとしか思えなかった。



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