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お茶会
しおりを挟む丸テーブルを囲んで四人でお茶会。白地に水色の格子状の模様が入ったテーブルクロスの上には、定番のお菓子と軽食が並べられていた。金縁のティーカップには、小さな薔薇あしらわれている。
「薔薇のお庭に薔薇のカップだなんで、不粋ではなくて?」
「テーブルの中だけの世界として見たなら、水の上に薔薇が浮いてるみたいで素敵だと思わない?」
「あら!上手いこと言うわねぇ。さすが我が息子!えらいわぁ」
「まぁ適当に持ってきただけなんだけど」
「もう!ダンフォースったら、いつの間にこの母を騙すようになったの?」
いけない子、と、ダンフォースの母、カトリーヌ王太后が息子の額をつつく。ダンフォースも母親につつき返す。笑い声。二人だけの世界。まるで恋人のように、二人のやり取りが続く。
ローズとアルバートは、その様を無言で見ていた。ローズが呆気にとられつつ、隣のアルバートに視線を送る。事前にはある程度きいていたが、こんなにこの母子が仲睦まじいとは、見ているこちらが恥ずかしくなるほどだ。先日の、花園での良い名前の発言うんぬんは、元々そういったやり取りを繰り返してきたからこその発露だと思い至る。
アルバートが腕を組んでローズに耳打ちする。彼いわく、これが永遠続くのだそうだ。
「ほっとけばいい。サンドイッチ美味いぞ」
「あ、ありがとうございます」
寄せられた皿から一つ摘まむ。確かに美味しい。するとまたアルバートが耳打ちした。
「リラが作ったみたいだぞ」
「リラが?」
「ほら」
一つ取ってみせると、繋がったキャベツがついてきた。この切りきれていないカットの仕方。確かにリラだった。
ローズが笑みをこぼす。ふと視線に気づくと、向かいの母子がこちらを凝視していた。
「嫌だわ二人して内緒話だなんて」
「四人でお茶会なのに意味ないよね」
「ないわ」
アルバートがため息をつく。
「じゃあ俺たちはもう下がってもいいか」
「だめ!」
ダンフォースは直ぐに不満の声を上げた。菓子が乗った皿を指さす。
「このクッキー、ローズが作ったんだよ。食べないの?」
「そうなのか?」
問いはローズに向けられている。ローズは頷いた。
菓子作りは淑女のたしなみ。貴族ならば誰でも作れる。そう珍しいものでもない。ただ砂糖とバターを混ぜただけのシンプルなクッキーで、失敗したくないから、いちばん簡単なものにした。
アルバートがクッキーを手に取り口にする。美味しい、と言ってくれた。
また向かいの二人が喋りだす。
「新婚はいいわねぇ何でも褒めてくれるから」
「見せつけてくれるよね」
「いっそ私たちが外そうかしら」
少し会話しただけでこれだ。ローズは喋りにくくて仕方がなかった。アルバートはまた、ため息をついた。
「二人とも茶々を入れるの止めろ。喋りにくくて敵わん」
「お茶会なだけに茶々を入れるってね」とダンフォース。
「言ってろ」
二人は全く堪えていない。菓子を食べて美味しい美味しい言い出した。
「あ、良いこと教えてあげるローズ」
ダンフォースは母にクッキーを食べさせてやりながら言った。
「はい…何でしょうか?」
「アルって甘いもの食べられないんだよ」
「え?」
「おい、余計なこと言うな」
ダンフォースから意外な事実を教えられて、ローズは目を丸くした。これまで何度かお菓子を焼いてはアルバートに食べてもらっていたが、そんな素振りすらも見たことが無かった。
「おっしゃっていただければ…別のものを作りましたのに」
そう告げると、アルバートは、いや、と気まずそうな顔をした。ダンフォースが口を挟む。
「ローズが作ったのだけ食べれるんだよね?」
「…お前は」
アルバートは手を伸ばして、ダンフォースの頬を思いっきりつねった。
「いたたたっ!!アル!いたい!」
「何でもべらべら喋りやがって。今に身を滅ぼすぞ」
ダンフォースは何とか逃れて、母親に助けを求めた。カトリーヌは我が子を抱きしめた。
「あら、ずいぶん男前になったじゃない。赤いほっぺたが可愛らしいわ」
どっち?とローズは思った。母親ならば、息子がどんな姿でも愛おしいものなのだろう。
アルバートはローズが作ったクッキーだけを一つの皿に集めると、ひょいひょい口に運んで食べ始めた。
みんなもう好き勝手し始めて、ローズが想像していたお茶会とは随分違ったものになった。
「アルバート様、無理して食べなくても…」
「聞いてたろ。君が作ったものだけ食べられる。そこの二人に食べられるのは癪に障る」
「皆さんのために焼いたんですよ」
「嫌だ」
子供みたいなことを言う。
「あ、そうそう」
と言ったのはカトリーヌ。まだダンフォースを抱きしめている。
「貴方、話題になってますわよ」
貴方とはアルバートを指しているらしい。
「とっても美しい殿方だと、宮中は色めきたってましたよ。私にまたお目にかかりたいと、色んな人たちから言われてますのよ」
彼は素知らぬ顔でクッキーを頬張っている。カトリーヌもカップに口をつけると、ゆっくりソーサーに置いた。
「貴方、いちど晩餐会に出なさいな」
「絶対に嫌だ」
「そこの可愛い可愛いローズさんを見せびらかしたくないの?」
「安売りしない主義なんでね」
残念そうな顔をして、カトリーヌはサンドイッチを手に取る。切りきれていないキャベツがくっついてきたが、彼女は余り頓着しないようで、二切れ分両手にとって食べ始めた。ローズは内心でホッとした。
「ローズさん」
「は、はい」
「貴女、着飾ったアルバートを見せびらかしたくない?」
今度はローズを誘い始めた。ローズは余りカトリーヌとは面識が無い。だが、この会話を見る限りは、とても押しが強そうに見えた。それに相手は王太后。下手なことは言えない。
とはいえ、カトリーヌの誘いにローズは心動かされた。先の先王の葬儀に着ていた軍服。不謹慎だが素直にかっこいいと思っていた。
そんなことは言えない。ローズは、いえ、と呟く。
「…夫は忙しいですから」
「忙しくないわよ彼」
「え?」
「義姉上」
アルバートの低い声による牽制も、カトリーヌには全く効かない。扇子を広げて仰ぎだした。ほほ、と慎ましく笑った。
「彼ねぇ?隣国の総督にはなるけどただの名目で、権限は何もないの。ハンコ押すだけ」
「そうだったんですか?でも、よく外出されてますから…てっきり…」
「義姉上」
「そんな睨まないで。ローズさんが快適に過ごせるようにね、屋敷を買って改修してるのよ。それで頻繁に家を開けてるの」
「…そうだったんですか…」
アルバートは咳ばらいをする。ダンフォースが彼をまたからかうようなことを言って、怒らせていた。
そのうちにカトリーヌはローズに身を寄せた。
「どうかしら。貴女がうんと言えばアルバートも出てくれるわ」
「…せっかくのお誘いですが──」
「うん決まりね!」
最後まで言い終わらないうちに、カトリーヌは手を叩いた。ローズは『せっかくのお誘いですが、夫は気が進まないようですし』と続けようとしていた。違うんですと言いたかったが、向こうはもう出席するつもりだと思ってるから、良かった良かったありがとうねなどと礼を言ってくる。本当に押しが強かった。
「じゃあ今夜ね」
「今夜!?」
「晩餐会くらい毎日あるでしょ?何も驚くことないじゃない。あなた達が来ることは隠しておくから、目一杯、おめかししてね」
ウインクされる。どうしようとアルバートを見る。既にダンフォースとの会話は終わっていたから、こちらに視線を向けてくれたが、なんだか少し困ったような顔をするだけで、何故か何も言ってくれなかった。
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