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序
しおりを挟むエリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
処刑された瞬間、エリザベスは目を覚ました。天蓋ベッドの天井。ベッドに寝かされていた。
しばらくは何が起きたのか分からなかった。荒い呼吸ばかりが耳について、それが自分の呼吸音だと直ぐに気づかなかった。
……? なに…?
自分は処刑されたはず。首が跳ねられて、首のない体が崩れ落ちるまで、ちゃんと意識が残っていた。ついさっきの出来事だ。
身体中が縛り付けられたように動かず、恐怖が侵蝕していた。
おかしい。わたしは、死んだはず。
まだ生きている。動く手が首に触れる。繋がっていた。
どうして?
夢でも見ていたのだろうか。そんなわけがない。夢であって欲しかった。でも夢であるわけがない。
ぱたりと扉が開く。やって来たのは、母だった。
エリザベスは目を疑った。
母はもう五年も前に病でこの世にいなかった。
と同時に納得した。ここは死後の世界なのだ。自分はやはり死んでいて、母に再会出来たのだと。
「かあ、さま…」
「まぁリズ!どうしてそんなに顔色が悪いの!?」
母はエリザベスの顔を包むように抱きしめた。直ぐに離れて額に手が置かれる。
「熱も高いわ。待っていて。直ぐにお医者さんを呼んできますね」
ぱたぱたと走り去っていく。その背中を見送りながら、死後の世界にも病気があるのだろうかと、ふと思った。
しかし医師と共に父がやって来て、エリザベスはますます混乱した。
父は、自分が知っている姿よりも若かった。
まず髪が黒髪だった。母が死んでから、父は白髪になっていた。そもそも父はエリザベスが死んだときにはまだ存命だった。
絶句している間に診察を受ける。医師がただの風邪だろうと決めつけて、熱冷ましを処方して帰っていった。見送りのため席を外した母に代わり、父がエリザベスの元に残った。
「とうさまも…死んでしまったの…?」
父は眉を潜めた。
「私が処刑されたあと、父さまも処刑されたの…?」
寡黙な父は険しい顔をして答えてくれない。エリザベスは同じことをもう一度言った。
父は頭をそっと撫でた。
「そんな事実は無い。熱が出て混乱してるのだろう」
「でも…わたし…」
「よく眠りなさい」
取り合ってくれない。父の反応にエリザベスは理解できない。
夢なのかもしれない。
死んだ自分が夢を見るわけがないのだが、これが現実だとも思えなかった。
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