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幸せになりたい
しおりを挟むエリザベスは早々に別の殿方を射止めて婚約した。十八に結婚するつもりで、着々と準備が進められていた。
とある夜会で一緒になった例の二人組は、エリザベスを見つけるなり近づいて挨拶をした。
「こんばんは、エリザベスさん」
「聞きましてよ。男爵の方と婚約なさったとか」
扇子の奥で鼻で笑ってくる。見下し方があからさま過ぎて、エリザベスは笑ってしまいそうになるのを堪える。
「はい。とても優しい方なんです」
「エリザベス様ほどのお方なら、侯爵様とだって結婚出来たでしょうに」
「そうよ勿体無いわ」
「ありがとうございます…でも、私は位よりも、その方の人となりが大事だと思っていますから」
理解できないのだろう。二人は顔を見合わせると、ぷっと吹き出した。
「あはは嫌だわエリザベスさんったら!」
「面白いことおっしゃるのね!」
二人が理解できないのも無理は無かった。かつての自分も、二人と同じように位の高い者との結婚を望んだ。
最期を知っているからこそ、こうして抗っているのだ。
「お二人の良いご縁をお祈りしてます」
「あらそう?」
「ふふ実はね、王妃様からサロンへの招待をいただいているの。貴女もお誘いしようかと思ったけれど」
「私はもう相手の方がいますから…」
王妃のサロンということは十中八九、殿下の妃候補の集まりだ。そんなところ絶対に行くわけにはいかない。
「そうよね。貴女はもう男爵夫人になるものね」
「お幸せにね」
ほほ、と扇を仰ぎながら二人は去っていった。
夜会を終え邸宅に戻る。自室で着替えを済ませて椅子にもたれながら、エリザベスはボンヤリと天井を見上げた。
毎日のように最期を思い出すのを、そろそろ止めにしよう。
十八になればこの苦しみから解放される。運命に勝って、幸せになりたい。
相手の人は本当に優しい人。素朴で、愛してくれるのをひしひしと感じる。早くあの人と結婚したい。そう思わせてくれる良い人だった。
目を閉じる。エリザベスは静かに時が過ぎるのを待った。
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