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23◇50年前の現実と乙女ゲームを比べませんかぁ?◇
しおりを挟む50年前、魔王討伐をした聖女は、異世界から召喚された日奈子だった。
召喚の経緯、勇者パーティ一行の選定、悪い魔女を逃したがために魔王は封印までしかできなかったが魔女の力はこの度の戦いでなくなったことで100年は安寧のときがすごせることなど、その話をしてくれたのは日奈子似の女性───娘でリド国の女王様。
その話を聞いて、私が発した第一声は・・・・・・
「えーーーっ!まさか、あの『ツンデレショタ枠の神官見習いクレイ』ってクレイさんのことだったの!!!」
だった。
どうやら、本当に日奈子が召喚されたこの世界は『君と歩むこの世界2~eternal world』、日奈子がいつも略していた『キミセカ2』だと言う。
私は、日奈子に頼まれプレイしたあのお泊り会の一晩しかプレイしていない。だけどキャラのこととか概要は、毎日毎日毎日・・・日奈子の口から出ていたから覚えている。
『君と歩むこの世界~eternal world』は、強制的に召喚したことで基本的に誰もが聖女に優しい世界。
魔王の脅威にさらされている人々にとっては、聖女は救いの手なのだ。
たとえ最初の戦闘ステータスが低くとも、神が遣わした救世主だからと誰もが縋った。
だから、乙女ゲームとしてはヌルゲーと言われていた。
そして、RPG要素が強く加わったことでその人気は爆発的になったらしい。
まずは、攻略対象にいたのが召喚されたリド国の王子オーフェン。
彼は、金髪に金瞳の王子様。王子様とあって勿論、メインヒーローだ。国の危機を救ってもらうために召喚した聖女の傍に一番いる人物。物腰の優しい穏やかな王子様。王子様なのに敬語キャラで俺様でない乙女に傅く王子様キャラが基本。なので好感度は、早くあがる。見知らぬ世界に召喚された聖女が前向きに頑張れば頑張るほど好感度はグングン上がる。反対に弱音ばかりを吐くと好感度は下がる。選択肢を5回連続弱音と取れるようなセリフを選ぶと攻略は、かなり難しくなる。
そんな後ろ向きなセリフを選んだヒロインは、騎士アドルフの好感度が上がりやすい。
聖女は普通の女の子という触れ込みなので、剣なんて触ったこともない。だから、最初アドルフの持つ剣を恐れていたけど、筋肉隆々厳つい見た目に反して子供や女性老人に優しい、騎士道にまっすぐな性格のアドルフは、気弱そうな聖女に優しく恐れる彼女の傍に寄り添う。そして、聖女もアドルフの言葉に励まされて頑張ると言り頼りにする。頼られてアドルフの好感度は、爆上げすると言うシステムだ。オーフェンと一緒に訓練しているときに5回目の弱音セリフを選ぶと王子が離れていき、一人になった聖女にアドルフが現れて騎士ルートに進む。
聖女は、召喚されてから毎日討伐に旅立つまで訓練がある。
聖女は、聖なる魔法が使えるが他の魔法も使える。魔力属性が全種類というステータスなのだ。勿論、最初はレベルは低い。それを日々の訓練でレベル上げをするのだが、聖魔法のレベルが突出していれば神官見習いのクレイが、聖魔法以外の属性魔法のレベルが上がると魔術師見習いコリーが出てくる。
どちらも13歳のショタ枠なのだが、枠の内容が違う。クレイは、ツンデレ枠。コリーは、甘えん坊弟枠。
どちらもショタ好きには堪らないらしく、制作側が選びきれず、ならばどちらもということになったと日奈子が熱弁していた。
日奈子は、断然ツンデレだと言っていた。それはもうマナと同じくらいの唾を飛ばしながら延々とツンデレショタの良さを聞かされた。嫌というほど聞かされた。耳にタコどころが、蛸壺ができて住み着いてしまうほど・・・
そのくらいに、日奈子はツンデレショタが大好物だった。
そして、そのツンデレショタの見習い神官クレイとは、私を保護してくれた神経質そうな仏頂面なのに、身元がはっきりとしない前世の異世界の記憶しかない怪しさ抜群の女を治療と保護して、独り立ちできるくらいまで面倒を見てくれて、いまだに何やかにやで気にかけてくれる優しいお爺さんのクレイさんだった・・・、うわ、まんまツンデレだわ。
「おぉぉぉ、久しぶりに聞いたな。聖女がよく口にしていたなぁ。」
そう言って豪快に笑い声をあげたのは、お年を重ねても衰えることのない筋骨隆々な体つきの英雄騎士アドルフ様。
ジェフさんのお爺さんだ。
そのそばでうわぁ~っと顔を青ざめている柔和な顔つきの男性は、魔術師コリーさん。
「ってことは、この子も聖女と同じ異世界の娘なのかい?」
そう言ってズイッと顔を寄せてくるのは老齢のはずなのに艶やかな深緑の髪の女性。ヒューバートさんのおばあ様という。魔術師マーリン。
「・・・マーリンって、悪役令嬢?」
近すぎる顔には、年齢よりも若々しく老齢の女性とは思えないつるりとした肌をしていた。
ツンととがった目尻が気が強そうな印象を与えるが皺など見当たらないその人は、乙女ゲームには付き物の『悪役令嬢』なのだ。彼女は、魔力が生まれつき膨大な伯爵家のご令嬢。令嬢ながら巧みな魔力で多種類の魔法を巧みに使い戦うエキスパート。
『キミセカ1』では、完全なる悪役令嬢で攻略対象と全てに対して現れる障害となるのだ。
悪役令嬢からの特訓という名の虐めともとれるしごきに耐え、マーリンに模擬試合で打ち勝てば待っているのは、好感度が高いヒーローとのハッピーエンド。
恋愛重視の1では、冒険シーンはナレーション静止画で次がいきなり魔王を倒して凱旋パレード、祝賀パーティからのエンディングというものだった。
因みにマーリンは、ヒロインに負けたことで高すぎるプライドを傷つけられ、己の存在意義を知らしめるためと言ってヒロインたちより先回りして一人魔王に戦いを挑む。だが、勿論返り討ちに合い膨大な魔力を持った体を魔物の器にされてサブボスとなり勇者一行に殺されるラストだったはず。
普通の乙女ゲームのような、断罪とかざまぁはないと日奈子がつまんないと不満をもらしていたが、嘗ての仲間に殺されるなんて十分なざまぁと私は感じたけど・・・
それに、指導してもらっただけで断罪はできないでしょ?
それが『キミセカ1』のストーリーだった。
がっ、『キミセカ2』では、マーリンは悪役令嬢からライバル令嬢兼仲間となる。
前半の好感度を高めている段階で、マーリンと友情までもっていけば彼女は冒険の時に大いに役立った。
同じ魔術師のコリーは、強大な魔法を使えるが技数が少ない。現れる魔物の属性によっては役に立たない。だがマーリンは、どの属性にも精通しているうえに前衛後衛にも置ける。戦い方がいろいろ選べるというのは、RPG好きとしてはありがたいキャラなのだ。
「ああ、そんなこと聖女も言ってたなぁ・・・」
マーリンもコリーも遠い目をして呟く。
「ついでにカーラは『お助けキャラ』と言っていたよね」
コリーの呟きにああ、そういえばともう一人の女性キャラを思い出す。
真っ赤な髪の背の高い女性騎士カーラ。
彼女は、聖女の護衛騎士として召喚当日からずっと一緒にいるキャラで。勇者一行の全キャラの好感度を教えてくれるお助けキャラなのだ。
カーラとの友情が上がると、お目当ての攻略対象が今どこにいるかとか、好きな食べ物、好感度の上がるプレゼントなど教えてくれる。
恋愛の好感度上げには必要不可欠なキャラなのだ。
勿論、護衛騎士としての腕も確かなのだ。
代々近衛騎士の家系で生まれ育ち、真面目な性格。突然の召喚に時として寂しく悲しそうな顔をするヒロインを同性の目線で友として支えたのがカーラ。
カーラも最初は、任務のため傍にいた。だが、縁も所縁もないこの世界の為に危険を冒してまで魔王討伐を引き受け厳しい訓練に耐える姿に庇護欲が刺激され、癒しの魔法で行く人々を心身ともに優しく癒していく姿に感銘し最後には生涯の忠誠を誓った。
「わぁ~、カーラまでいる・・・って・・・」
やっぱり、ここはまぎれもなく『キミセカ2』の50年後の世界?
異世界だとは思っていたけど、そんな漫画のように『ゲーム』の世界だなんて思いもやらなかった。
でも、思えばRPG要素が多い『キミセカ2』でよかったかも・・・
「他の乙女ゲームじゃなくってよかった・・・」
「そうそう、『乙女ゲーム』ってやつよね!」
私の小さな呟きを正確に拾い上げたのは、いまだに至近距離にいるマーリンだ。
そして・・・
「あぁもし、ここに聖女様がいてくれたなら・・・」
アシュトンさんを老齢化させたら、こんな素敵なおじさまになるであろう男性は2の新たな攻略対象で聖女が見つけ出した勇者アーサーだ。
年齢を重ねているため目元には皺が寄っているがそれでも優しい碧い瞳は、アシュトンさんによく似ている。
その彼が言った言葉に、ふと思い立つ。
この世界に聖女として召喚されたのなら、日奈子は今どこに?
室内には日奈子に似た、日奈子の娘だと教えてくれた女王様と、その子供の王子様。
アドルフさん一家は、アドルフさんの奥さんとジェフさんの両親、お兄さん。
コリさんとマーリンさんは、ご夫婦だそうで。一人息子のヒューバートさんのお父さんにヒューバートさんの弟さん。
アーサーさんは、奥さんは一緒にいない。アシュトンさんのご両親と領地で留守をしているらしい。
そして、アシュトンさんのお姉さんお二人と、ここサロンと呼ばれる室内に集まっている。
だけど、日奈子らしき人がいない。
50年前に召喚されたのなら、おそらくはアーサーさんたちのように年を重ねていただろう。
ここにいるはずのは、日奈子とオーフェンさんがいない。
どうして・・・
そのどうしてを考えたくない。
だって、この世界は、私の知る医療の進んだ世界じゃないもの。
話を聞きながら、もしかしてと頭の片隅に浮かんだ考え。
でも、ここで会えるかもしれないと期待した気持ちがそれを認めたくないと言っている。
一言聞けばいい・・・でも、現実を受け止めることが出来るかと言われたら・・・それは・・・
「アイリ?」
急に黙り込んで顔色が悪くなった私にいち早く気が付くのは、いつもアシュトンさん。
傍にいるマーリンさんは、アシュトンさんの声にこちらを見る。
他のみなさんの視線も集まる。
ごくりと喉が鳴る。
今の日奈子のことが聞きたい。
それは紛れもない、今一番の関心。
怖いけど・・・
知りたい。
だから・・・
「あの・・・、日奈子は、今・・・」
勇気を出して絞り出した声に、フイっと視線を逸らされる。
傍にいるマーリンさんも音もなく私の隣から離れていく。さっきまであれだけ集中していた視線が一斉にそらされる様は、そこに何かあるのだと、私の予感を現実化する証拠となった。いや、なりうる理由になる。
思わずジェフさんやアシュトンさんたちに視線を向けるが、ジェフさんはフィオナさんに視線を向けフィオナさんはアシュトンさんの腕を突く。
「・・・あっ、アイリ」
何時もは優しい穏やかな顔のアシュトンさん。
こんな顔は初めて見る。
言いにくそうに視線をさまよわせ、口を開いては閉じてを繰り返す。明るい碧の色のその瞳は、寂しそうに暗く影を落としている。
その瞳が雄弁の語っていた。
でも、信じたくない・・・
「ねっ、ねっ、ねっ!マナね、しゃんさいになったよ。プリンをい~っぱいたべたのよぉ」
クレイさんの膝に入って、明るいマナの声が静かな室内に響く。
いつもなら、マナの声が何の音よりも声よりも耳に届くというのに、この時ばかりは遠くに聞こえるようだ。
その代わりに静かに耳に入ってきた声は、一番聞きたくない言葉だった。
「母は、5年前に眠りについたわ。・・・カーラが最後まで共をすると言って一緒に・・・・・・」
日奈子の微笑む絵をバックに聞いた女王の言葉に、止まっていた涙が壊れた蛇口のように流れだしたのは言うまでもない。
だが、今度は声も出ないくらいのショックに、ただただ涙するだけだった。
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