24 / 38
24◇続編は約100年後の予定ですかぁ?◇
しおりを挟むふう・・・
「アイリ大丈夫?」
上質な布張りのクッションの効いたソファーに座り、入れてもらった花のような香りの紅茶で喉を潤すと知らず知らずに息が漏れた。
それはため息のように聞こえたらしい、フィオナさんが心配そうに隣で寄り添ってくれている。
私は、それにコクリと首を縦に動かして答えることしか今はできない。
泣きはらした目元は、クレイさんが回復魔法をかけてくれたことで腫れずにすんだけど、止まった涙はほんの少しの感情変動で再び決壊しかねない。説明をしてくれるというその言葉に、何とか感情を押し殺して止めた涙。素人が行った突貫工事のように涙を止めただけだから、いつまた号泣してしまうか恐ろしい。
こんなに泣いたのは、いつぶりだろうか・・・
日奈子がいなくなった時も、交通事故にあって後遺症が残ると言われた時も泣いたけど号泣とはいかなかった。
私の知る、地球とは違う異世界に来てから、一人ぼっちになってまさかの知人の消息を知ったことで感情が爆発してしまったと思う。
それ以外にこの涙の理由が見当たらない。
安堵したのだと思う。いろんな意味で・・・
日奈子が生きていた・・・
笑っていた・・・
絵で見ただけだけど、幸せそうに笑っていた。
ただただ、嬉しい。
あの日から、いろいろあったけど最終的に攫われた日奈子が無事で幸せならいいかと思ってしまった。
ああ、日奈子にお人好しだと怒られるかな?
出来たら叱ってほしいくらいだ。
そう思ったら、じんわりと目頭が熱くなりそうになった。
「アイリ嬢、今から話をする前にこちらを見てほしい。」
再び滲みそうな涙を堪えるように、瞼を閉じていたときすぐ近くから声がかけられた。
その声に慌てて目を開くと、そこには黒髪に金目の麗しい男性が膝をついて目の前で屈んでいた。
「えっ、あわぁぁぁ・・・イケメン?」
目尻が少し垂れた優しそうな瞳と艶やかな黒髪の男性。
ヒューバートさんやアシュトンさんたちと変わらない年齢の男性、確かさっき日奈子の娘の女王の子供と言った・・・ん?
ってことは・・・女王の息子、ってことは、あれ?
王子様?!
遅ればせながらそう認識すれば、よく考えれば、女王ってことは、この国最高権力者でもあるんだった!!!
「ぅぁっ!」
目の前の王子様は、下から座っている私の瞳を見上げて怪しく微笑んだ。
その微笑みたるや、艶やかなこと。
色気が駄々洩れとは、このことをいうのだと初めて目の前で体現できた。
というか、その怪しい視線を真っ正面から受けた私は、思わず胸を押さえてしまう。
美形男性アシュトンさんの微笑みをいつも間近で見ていても慣れないもので、アシュトンさんの爽やかイケメンとは違った、お色気イケメンの笑顔も心臓に悪い。
「アイリ嬢?」
そんな私の挙動不審な行動に、口元は微笑みを持ったまま瞳の不審な色をのせたお色気王子が再度名を呼ぶ。
うっはぁ、声も色気に溢れる声だわ。
その声で『アイリ嬢』って!嬢って、お嬢様のあの『嬢』でしょ?
生まれてこのかた、いや、前世からこのかたそんな風に呼ばれたことがないから照れるわぁ。
「はっ、はひぃ!」
あっやべ、イケメンの前で噛んじゃった。恥ずかしぃ。
許されるなら一旦は穴に入ることを諦めたけど、やっぱり穴に籠りたい。そこでまなと、飽きるまでおままごとをして引き籠っていたいくらいです。
「フッ・・・、そんなに硬くならないで、これを見てほしいんだ」
恥ずかしくも返事を噛んだ私にさっきまで見せていた、艶やかな微笑みとは違った笑みで私の手に渡されたのは、見覚えのあるもの。
随分と使い込まれているけど、私も使っていたから知っている。
というより、何故これがここに?
「これは?」
「使い方、知ってるの?」
「あぁはい、できますけど・・・」
色気王子は、ニコッと笑顔を深くして見せてと促してきたので改めて左の掌に乗せて、右の指を使って記憶の通りに使う。
「大丈夫?」
私の躊躇ない動作に、すぐ後ろにいたアシュトンさんから心配そうな声が小さくかけられる。
そんなに心配しなくても大丈夫です。頻繁に使っていたものだし、しかも毎日だ。
あの頃は、これが常に手元に無いと不安に陥ることもあったほどなのだから。
「・・・大丈夫です。ここを、こうして・・・あっ、動いた!」
これがなぜここにあるのか、なんとなくわかっていたが動く確証はなかった。
だけど、記憶にある通り側面の出っ張りを押さえると思った通りの動きをみせたソレ。
チャララッン
「「「「「「おお!!!」」」」」
起動音と共に光が灯ると、室内の誰もが声を上げた。
「やはり・・・、君がおばあさまが言っていた、新たな聖女・・・」
目の前で起動するのを感慨深く眺めているお色気王子様。
ぼんやりと光を放つソレを私も眺めて聞いていたが、聞き直したくなるような単語が聞こえた。
お色気王子に聞き直したいが、それよりも先に光が収まったソレに浮かび上がった文字に吸い寄せられて言葉をなくしてしまった。
────此れを見ている、貴女が次代の聖女です。100年経ち封印が解け復活した魔王をどうか滅してください 聖女、日奈子────
「えっ、100年後?・・・魔王の復活?」
思わず漏れた声に私の周りに集まる人たち。
「これにはなんて書いてあるの?」
集まったみんな、特にフィオナさんやアシュトンさんたちは文字を目にしているだろうに内容を聞いてくる。
やっぱりそうなんだ。この文字は誰も読めないんだな・・・
「これは・・・日本語で書いてあります、よね?」
聞いた相手は、お色気王子様。その彼は、私がわずかに上げた声に満足そうに笑みを深めていた。それは女王様も同じようで、驚きの表情を一瞬顔に表したが、その口元が喜びに綻び目を細めた。
「アイリ嬢、読み上げてくれ。」
私の質問に答えはなく、返された王子からの命令に戸惑いながら声に出して読み上げた。
一語一句、間違えなく。
最後の日奈子の名前も読み、顔を上げるとフィオナさんやアシュトンさんたちまでもその内容におどろいていた。
「100年って・・・、まだ50数年しかたっていないと言うのに、お母様の読みよりも早くに続編が始まったと言うことなのかしら?」
女王さまの声だけが響く声に、周りの人たちに緊張が走る。
特にアーサー様、勇者様たちは立ち上がって蒼白な顔で他の人たちより強ばっている。
というより、女王様の口から出ましたよ『続編』という言葉。
どういう意味なのか聞きたいけど、写し出された文字の後に現れた画像に目が釘付けになった。
「これ、・・・・・・私だ」
手の中にあるソレ───日奈子がいなくなった時に持っていたであろうスマホの待ち受け画面に映し出されたのは、いつ撮ったのかは覚えていないくらい頻繁にしていた自撮りで、一緒に目を細め大きな口を開けて笑う日奈子と今は懐かしいとさえ思える愛李だったころの私がいた。何が面白いのか今にも笑い声が聞こえそうなくらい間抜けな笑顔。
なんの悩みもないような笑顔の待ち受けの日奈子と懐かしい自分の顔を見ていてポロリと一つ粒涙がこぼれた。
そうか、間違いなくあの行方不明になった時に、日奈子はスマホとゲームの攻略本を持ってこの世界に召喚されたんだ・・・
改めて絵の中の日奈子は、やっぱり日奈子なんだと認めざるを得ないと寂しい気持ちにさせられた。
堪えきれずにこぼれた涙は一滴。
でもそれ以上に籠った感情は、言い表せないくらいの大きなものだった。
「あんね、マナちゃんね、じぃじ、きいて!きいて!!!」
私の様子を静かに見守ってくれる中、ただ一人クレイさんだけはマナに捕まりこちらを気にしつつも自分大好きな幼児のおしゃべりに付き合っていた。ほんのすこしでも、意識が他所に向こうものならば、容赦ないもみじの掌で頬を殴られて強制的に意識を向けなければいけないことになる。
実際にバッチィィィンと鳴り響く音。
そんな申し訳ない状況でマナを抱っこさせているというのに、私はそこに意識を向けることはなかった。
後で知って、クレイさんに平謝りでした・・・・・・
孫を怒れないおじいちゃんが、娘に苦言を呈するというのを身をもって体現しました。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
逆ハーレムを完成させた男爵令嬢は死ぬまで皆に可愛がられる(※ただし本人が幸せかは不明である)
ラララキヲ
恋愛
平民生まれだが父が男爵だったので母親が死んでから男爵家に迎え入れられたメロディーは、男爵令嬢として貴族の通う学園へと入学した。
そこでメロディーは第一王子とその側近候補の令息三人と出会う。4人には婚約者が居たが、4人全員がメロディーを可愛がってくれて、メロディーもそれを喜んだ。
メロディーは4人の男性を同時に愛した。そしてその4人の男性からも同じ様に愛された。
しかし相手には婚約者が居る。この関係は卒業までだと悲しむメロディーに男たちは寄り添い「大丈夫だ」と言ってくれる。
そして学園の卒業式。
第一王子たちは自分の婚約者に婚約破棄を突き付ける。
そしてメロディーは愛する4人の男たちに愛されて……──
※話全体通して『ざまぁ』の話です(笑)
※乙女ゲームの様な世界観ですが転生者はいません。
※性行為を仄めかす表現があります(が、行為そのものの表現はありません)
※バイセクシャルが居るので醸(カモ)されるのも嫌な方は注意。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げてます。
悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】
いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。
陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々
だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い
何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる