元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

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元婚約者のセレナ

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 ウインナーにパン、それにサラダにスープか……うん、問題ない。

 記憶を取り戻した今でも、味に関して不満はない。

 人工香味料が入ってない分、逆に美味しく感じるくらいだ。

「お、お兄様がサラダを食べてますの!」

「お嬢様、そんなわけ……食べてます!」

「サラダくらい食べるよ! いちいち驚かなくて良い!」

 前の俺は好き嫌いも激しかった。
 料理はよく残すし、文句ばかり言っていたような気がする。

「やはり、アレがこたえたのですね……」

「お兄様……」

「別にそんなんじゃないから。ほら、ささっと食べて学校に行くよ」

 三人の顔が驚愕に染まるけど、あえて無視をする。
 いちいち反応していたらきりがない。
 今の俺に、少しずつ慣れてもらわないと。



 朝ご飯を済ませたら、隣の部屋にある厨房に入る。

 当然、皆の視線が俺に集まる。

 多分、不満を言われると思っているのだろう。

「いつも朝ごはんをありがとう。今後とも、よろしく頼みます」

 それだけ言い、ささっと厨房から出る。
 そのすぐ後に、物凄いざわめきが聞こえてきた。
 それを無視して、俺は自分の部屋に戻り、学校の制服に着替える。
 少し豪華ではあるが、概ね日本のブレザーに近い。

「……ったく、どれだけ自堕落というか……とりあえず、少しずつやっていくか」

 記憶を取り戻す前の俺は、ダラダラすることに慣れきっていた。
 公爵家嫡男にして、王位継承者だがあくまでも王太子のスペアだ。
 権力を持たせすぎてもいけないし、かといって蔑ろにもできないめんどくさい存在だ。

「結果、ほとんど一人ぼっちで過ごすことになって……甘やかされて生きてきた。いや、言い方は悪いが飼い殺しというやつかな」

 俺自身が王位を狙わないように、国王陛下達がそういう風にしたのだろう。
 別に、それを責めるつもりはない。

「前世の記憶を取り戻した今、ここからは好きにやらせてもらおう」

 幸いにして王太子が結婚し、奥さんは男の子を妊娠している。
 そうすれば、俺は晴れて自由の身になれるはず。

「御主人様、馬車の用意ができましたよ」

「わかった、すぐに行く」

 よし、ここからが第二の人生の始まりだ。
 少しずつ信頼を得て、後は静かに過ごしていこう。





 ……だと思っていたのに。

 馬車を降りて校内に入ったら、面倒な方に引き止められてしまった。

 振り返ると、制服に身を包んだ美少女がいた。

「アレク! 待ちなさい! こんな朝早くに来るなんて珍しいわね?」

「これはセレナ様、おはようございます」

 きちんと礼をして、敬意を払う。
 なにせ、相手はこの国の王女にして……俺の元婚約者でもある。

「な、なんで、そんなに畏まってるのよ! ……やっぱり、私がもう婚約者じゃないから?」

「いえ、そんなことはありませんよ。ただ、お互いに成人した身ですから」

 以前の俺は軽口を叩いていたが、それは婚約者であり成人してないから許されていたこと。
 向こうの親から婚約解消されてるわけだし、これ以上悪感情を抱かれるのは困る。
 無論、悪いのは俺である……遊び呆けてダラダラしてたから仕方ないね。
 というか、さっきから後ろの護衛がめちゃくちゃ睨んでるし……怖いよぉ~!

「そ、そう? 別に、私のことを嫌いになったわけじゃない……?」

「ええ、もちろんです。今日も可愛らしくて素敵ですね」

 サイドテールにまとめている黄金の髪は、朝の日の光を浴びて輝いている。
 身長は160くらいで、そのスタイルはグラビアアイドル顔負けだ。
 ブレザーの上からでもわかるお椀型のおっぱいは、もはや凶器ですらある。

「……えっ!? そ、そんなこと言われたの初めてですわ……!」

「そうかもしれないですね。ですが、今なら本音が言えるので。それでは、失礼します」

 前の俺は彼女のことが好きではなかった。

 ひどい言葉を浴びせてくるし、よく叱ってくるし、態度も悪かった。

 ただ、もしかしたら……不器用な女の子なだけかも。

   まあ、俺が嫌われてるのは間違いなさそうだけど。

 今となっては……できれば、良い方と縁があるように願うだけだ。


 ◇

 呆然としてしまい、アレクが歩いてくのを見送る。 

「ど、どういうことかしら?」

 突然、お父様が婚約解消をするって言ってきて……。
 私が気がついた時には、もう話が済んでいた。
 あんな男に私はやれないと……そして、次の相手を探すと。
 私はアレクがいいのに……アレクだけが、私に遠慮なく話しかけてくれたから。
 私が文句を言うと言い返してきたり、軽口を叩いたり……楽しかったわ。

「なのに、さっきのはまるで他人行儀な感じで……少し寂しい」

 でも可愛いって言われて、不覚にも胸が熱くなってしまったわ。
 それに、なんだが急に大人びた感じがして……素敵に見えたり。

「ん? ……今なら本音が言えるって言ってたわね?」

 つまり、今までは言えなかったってこと?
 それは、なんで?
 もしかして……そういうこと?

「……急な変わり様、そして婚約解消……これは、少し調べる必要があるわね」

 私は婚約解消なんて嫌。

   小さい頃から、アレクのお嫁さんになりたかったもん。

 そう思った私は、アレクの行動を監視することを決めた。

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