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料理人は人々と交流する

竜人ドラン

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 二階に行った俺は、早速夕飯の仕込みをすることにした。

  「さて、何を作ろう?……オークの赤ワイン煮込みでも作るか」

 まずは、寸胴鍋にオークの肉を入れて火にかける。
 その間にニンニクを潰し、玉ねぎを切っていく。
 後、森で手に入れた香草類を紐でくくればブーケガルニの完成だ。
 椎茸も一口サイズに切っておけば、大体の下準備は完了だ。

「まずは、肉を取り出す。そして、玉ねぎとニンニクを炒める。おお、相変わらずいい匂いだ……」

 同時に、赤ブドウをフライパンで熱していく。
 赤ワインの芳醇ほうじゅんな香りがするが、飲みたいのを我慢して混ぜていく。

「おっ、玉ねぎが色づいてきたな。そしたら肉を戻して赤ワインを入れると」

 すると、ジュワー!という良い音と共に、食欲を刺激する匂いが部屋中を包む。
 堪らん……早く食べたいが、煮込みとは我慢との勝負。
 ブーケガルニと椎茸を入れ、さらに煮込む。
   すると、足音が聞こえてくる。
 
「ん? 誰か他のお客さんかな?」

 そして現れたのは、人の身体に竜のような顔をした生物だった。
 身長は俺と同じくらいで、逞しい身体をしている。
 ……もしや、これが噂の竜人ってやつか?

「ここか、とてつもない良い匂いを放っているのは……」

「あのー、すみません。下の階まで、匂ってしまいましたね」

「いや、構わない。それより、今日からここに世話になる竜人のドランと申す。このような見た目だが、害はないのでよろしく頼む」

 その佇まいは紳士的で、とても理知的な瞳をしていた。
 確かに見た目は怖いが、俺の直感が良き人だと言っている。

「俺の名前はタツマっていいます。こちらこそよろしくお願いしますね」

「……我が怖くないのか?」

「ん? なぜです? 貴方は何も悪いことしてないじゃないですか」

「……くははっ! 虚勢ではなく、ただ自然体で答えるか……面白い人族だ」

 すると、そのまま俺の方に寄ってくる。

「ところで、それはなんだ? 我が好むブドウの匂いのようだが……少し違う」

「これは赤ワイン煮込み料理と言いまして、ブドウを加熱する料理です」

「なんだと!?あれを加熱だと?あの希少なブドウを……」

 あれって希少だったのか? 確かに数は少ない気はしたが。

「すみません、よく知らないもので……」

「そのブトウは、森の奥にしかない物だ。熟練のハンターでも見つけ出すのは難しい」

「なるほど……教えてくれてありがとうございます」

「いや、構わん。それで相談なのだが……我も食べたいのだが、何をすれば分けてもらえるだろうか? 竜人族として、タダで貰うわけにはいかん。なので、何か願いを言ってくれ」

「ふむ………竜人族は強いのですよね?」

 良いチャンスだ。
 竜人族は、最強の種族と言われてるとか。

「うむ。最強種と自負している。我はまだまだ未熟者だがな」

「では、力比べをしてくれますか?」

「お主も、相当な強者に見える。良いだろう、では庭に行こう」

 セバスさんに煮込みの様子を見ていて貰えませんかと頼んだところ、快く引き受けてくれた。
 是非、夕飯を食べてもらわないと。
   そして庭で対峙する。

「では、お互いに一歩も動かずに押し合うか。これは、我らの里に伝わる決闘方法の一つだ。これなら、死人も出ないので安心だろう」

 すると、足で円を描いた。
 なるほど、前の世界でもあったな。

「ええ、それでいいです」

「では、やるとしよう」

 手と手とを組み合わせたら準備完了だ。

「いち、に、さんで初めだ……いいか?」

「ええ、大丈夫です」

「いち」

「に」

「「さん!!」」

「ハァァァ!!!」

「ガァァァ!!!」

 強い! 本気ではないが相当な力を入れているぞ!
 これが最強種と言われる種族か!

「なんと!?人族の身で、我と互角……いや、それ以上だと!?だが、我とて負けるわけにはいかん!」

「やりますね!さらに、上がりますか!これなら本気を出せそうですね!……行きます!」

 俺はフルパワーで手を押し出す!

「こ、これは!……くぁ!?」

 俺はドランさんを、円から押し出した。 

「我の負けだな……これでは、料理を貰う訳にはいかないか」

「いやいや、あげますよ。だって付き合ってくれましたし」

「なんと器の大きい、敗者にも情けをかけるとは……」

 「いや、殺し合いではないですし」

 すると、鼻を鳴らすように笑う。
 なんだが、少し分かり合えたような気がした。
 やっぱり、男同士はこれが楽だよな。

「変な男だ……だが、感謝する。俺のことはドランでいいし、敬語もいらん」

「じゃあ、こちらもタツマで良いから」

 そうして、俺とドランは自然に握手を交わす。

 なんだか、新しい友ができそうな予感がした。




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