反逆の英雄譚~愛する幼馴染が処刑されそうだったので国を捨てることにした~

おとら@ 書籍発売中

文字の大きさ
5 / 60
一章

積年の恨み

しおりを挟む
 俺は兵士達を蹴散らしつつ、奥へと向かう。

 「……いた、あそこか」

 野営地の一番奥に、一際目立つ天幕がある。
    というより、もはや家といった方が正しいか。
   その前にアークライト辺境伯、それを守るように上級士官達がいる。
   どうやら、俺を待ち構えていたようだ。

「クロウ! 貴様どういうつもりだ!」

「どうもこうもない……貴様を殺しにきた」

「な、なんだと!?   恩を仇で返しおって!  お前達、奴を殺せ!」

「恩だと……? お前が俺達に何をした!?  俺の部下達を殺しやがって!」

「ヒィィ!  早く奴を殺せぇぇぇ!」

 アークライト辺境伯の一言で、兵士達が一斉に動き出す。
 その動きは統制が取れており、俺を囲むようにじわじわと寄ってくる。
 腐っても、上級士官といったところか……まあ、それだけだが。

「馬鹿め! 一人でどうにかなるとでも思っているのか!?」

「英雄や白き虎などと呼ばれ増長したか!」

「戦いもせずに後ろで指示するだけの連中が吠えるな。本当の戦いを知らないお前達など敵ではない」

「舐めるなよ! 我らは雑兵とは違うぞ! 皆の者、 一斉にかかれ!」

 上級士官達が、槍や剣を構えて一斉に襲いかかってくる。
    その後ろには、弓兵や魔法使いもいた。

「腕は確かでも、実戦知らずが何を言う!」

 剣撃がくる、槍の突きが迫る、弓矢が飛んでくる、魔法が飛んでくる。
   俺は全身と剣に魔力をめぐらせ——二本の剣を振り回す!

「ハァァァァ!」

 二本の剣から放たれる暴風により、全ての攻撃が弾かれる。
 同時に余波により、敵の馬達が暴れだす。

「うわ!?  なんだ!?  馬が!?」

「ヒヒーン!?」

 その隙を見逃さず、まずは馬の制御のきかない奴らに迫る。
    騎兵など、動きを止めてしまえばなんてことはない。
 二本の剣を縦横無尽に振りながら、上級士官達を一思いに始末する。

「魔刃剣!」

 さらに魔力の斬撃を飛ばし、弓兵や魔法使いを戦闘不能に追い込む。
     四肢が飛び、あちこちに転がる。
     やはり痛みを知らない奴らは、それだけで戦意を喪失する。

「俺の足がない!? ァァァァァ!?」

「血が止まらない!  だれか……!」

 治療する暇もなく、次々と地に伏していく……そして、死体の山ができた。
    その山を越えて、俺はアークライト辺境伯の前に進む。

「さあ、後はお前だけだな……ブレイダ」

「ヒィィ! やめてくれ!  か、金か!?  女か!?  それならいくらでもやる! だから……!」

 戦えるとは思えない肥満体の身体、禿げた頭部に顔に湧き出る汗。
 情けなく命乞いをし、尻餅をついている様……その全てが醜い。

「こんな奴のために、俺の部下達は……もういい、お前は喋るな。本当なら苦しませて殺したいが、俺にも時間がないのでな……一瞬で終わらせてやる」

「や、やめてくれ!  俺はまだ死にたくない!」

「きっと部下達も、そう思って死んでいっただろう……死ね」

「やめ——ケペェ!!」

 アスカロンを振り降ろすと、頭部が潰れてただの肉塊と化した。
     だが、俺の心は晴れない。

 「これで仇はとれた……いや、ただの自己満足にすぎんな。死んだ者達が帰ってくるわけでもない……それでも、手向けくらいにはなっただろうか」

 気持ちを切り替え、俺は馬を走らせて王都へ向かう。

 カグヤ、待っていてくれ。

    今、助けに行くから……君が、俺を助けてくれたように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...