反逆の英雄譚~愛する幼馴染が処刑されそうだったので国を捨てることにした~

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二章

空白の時間を埋める

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 これは夢か……。
 
 幼い頃の俺と、母上が見える……それにアイツらも。

 父親と後妻である女が、俺と母上を見下していた。

「さあ、何処へでも行くがいい。お前達に行くところなど、ありはしないだろうがな」

「早く出てお行き! ああ、スッキリしたわ! どうして私がコソコソとしなくてはいけないの!?  私は子爵家の娘よ! 男爵家の娘とその子供なぞ、伯爵家には相応しくないわ!」

「こいつら……!」

 殴りかかろうとする俺を、母上が必死に止める。

「クロウ、おやめなさい。今までお世話になりました……失礼いたします」

「母上、何故ですか!?  こちらは悪いことなど何もしていないのに……!」

「いいのよ、クロウ。私には、貴方がいるわ。それだけで、十分だもの……」

 そうだ、この日……俺と母上は家から追い出された。
 そこから苦難の日々が続いていく。
 ひもじい思い、カグヤに助けられたこと…………やめてくれ! 続きを見せるな!
 俺の願いも虚しく、ベッドに横たわる弱々しい母上の姿が映し出される。

「母上!」

「クロウ、ごめんなさいね……貴方を置いていってしまうわ……」

「なんでだ!?  なんで母上が!? 母上は、アイツに散々尽くしてきたじゃないか! アイツの借金だって、母上の私財を売って返した!  そのせいで、母上はお洒落やお化粧もできなかった!」

 俺は母上が身を粉にして父親に尽くしているのを見てきた。
 だからこそ、この結末に納得がいかなかった。

「クロウ……私も悪かったのよ、あの人に口出しをしてしまったから。善かれと思ってやったのだけれど、プライドを傷つけてしまっていたのね……」

「母上は何も悪くない! 至極真っ当な意見ばかりだ! ギャンブルはするな、女遊びや借金は作るな、横柄な態度をとるな……どれも、当然のことじゃないか!」

「クロウ、貴方は真っ直ぐに育ってくれた……私は貴方がいてくれて、幸せだったわ……復讐など、考えてはなりませんよ?」

「……奴らが目の前に現れなければ……それ以上の妥協はできません」

 「ふふ、ありがとう。幸せに生きて……クロウ、私の子供に生まれてきてくれてありが……とう……」

「母上!?  ……母上ぇぇぇぇ!!」

 そうだ、こうして母上は息を引き取った。

 俺は母上の遺言通り、復讐など考えずに過ごしたが……だが、もし目の前に現れたなら。

 そのとき、俺を暗闇から呼び寄せる声が聞こえてくる。

 ……ねえ……ねえって……ねえったら!!

「クロウ!」

「ん……? カグヤか……どうした?」

 目を開けると、カグヤが心配そうに上から覗き込んでいた。

「どうしたって……泣いているから。うなされていたし……私、心配で……」

「ああ、いや……なんでもないんだ」

 久々に嫌な夢を見た、あの日のこと……クソ。

「ク、クロウ!!」

「ど、どうし——!?」

 カグヤが急に俺を抱きしめる。
 そして俺の頭が、カグヤの柔らかな胸に当てられていた……。

「な、な、なんだ!?   どうした!?」

「じ、じっとしていなさい!  わ、私だって恥ずかしいんだから!」

 俺が離れようとすると、更に強く抱きしめられる。
 当然、感触も強くなるわけで……俺はひとまず、大人しくすることにした。

「いや、だったら離れて……」

「私はクロウの何!?」

 俺の言葉を遮り、抱きしめるのをやめて、今度は俺の両頬を押さえて見つめてくる。
 その目は真っ直ぐに俺を捉えていて、こんな時なのに綺麗だなと場違いなことを考える。

「な、何って……大事な幼馴染だ」

「私だってそうよ! だから、その……私を頼ってくれても良いのよ! 何か辛いことがあったなら癒してあげたいの! その、私で役に立てるかはわからないけれど……」

「カグヤ……ありがとう……それじゃ、話を聞いてくれるか?」

「うん! 任せて!」

 そして、久々に母上の夢を見たことを話した。

「そう、カエラ様のことを……優しくてしっかりしていらして、良いお母様だったわ
 ……母親のいない私を、本当の娘のように可愛がってくださった」

「母上は、カグヤを娘にしたがっていたからなぁ……」

 俺は可愛げのある子供じゃなかったし、カグヤは母上に懐いていた。
 そういえば、あの子ならお嫁さんにしてもいいとか言ってたっけ。

「え、そうなのね! ……クロウはお父様を恨んでいるの?」

「そうだな……殺してやりたいくらいには。だが母上の最期の言葉があったから、踏みとどまった。もちろん、次に会ったら自信はないがな」

「……私はそれを否定しないわ」

「ありがとう。それに、カグヤのおかげだ。カグヤは、母上を亡くした俺を癒してくれた。
 もし、あの時カグヤがいなければ……俺は復讐をしていたはずだ。そしてカグヤがいたから、俺は今日まで生きてこられたんだ」

 あの時の俺が復讐などしたら、当然何もできずに返り討ちにあっていた。
 それどころか、世話になった辺境伯に迷惑をかけていただろう。
 そして、こうしてカグヤを救うこともできなかった。

「わ、私だって! クロウが頑張っているって聞いたから、王都でひとりきりでも頑張れた!」

「カグヤ……」

「クロウ、私には大したことできないわ。それでも、貴方の力になりたいの。もちろん、クロウも男の人だから言い辛いと思うけど……それでも、私にだけは弱音をはいて」

「……格好悪くないかな?」

 俺がそう言うと、カグヤが満面の笑顔を見せる。

「そんなことないわ! クロウはカッコいいもの!」

「そうか……そうだな、これから2 二人だ。すまんが、力を貸してくれるか?」

「うん!  それに色々話を聞かせてよ。私もいっぱい話すから。だって六年も会っていなかったのよ?  楽しい話じゃないけど……それも含めて知りたい」

「そうだな……ここまでは、そんな余裕もなかったし。ゆっくりだが、話していこうか」

 すると、カグヤが勢いよく立ち上がる。

「そうと決まれば行くわよ!  お腹が空いたわ!」

「おいおい、俺は顔も洗っていないぞ?」

「わ、私だって、お風呂に入ってないわ!」

「そういや、そうだったな……良いのか?」

「後で良いの! この雰囲気で入ったら、なんかアレじゃない……」

「ん? どういうことだ?」

「いいから行くわよ!」

 そして頬を赤らめたカグヤに引っ張られて、俺は部屋を出るのだった。
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