反逆の英雄譚~愛する幼馴染が処刑されそうだったので国を捨てることにした~

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三章

魔獣との戦い

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 俺は、今回の件で思い知った。

 カグヤを守るのは一人では限界があると。

    俺のエゴより、カグヤの安全が最優先だ。

  

   荷物整理をした後、今後の予定について話し合う。

「カグヤ、ちょっといいか?」

「どうしたの?」

「俺はカグヤを守る。だが、俺にも限界はある」

「うん、わかるわ。身体は一つしかないものね……やっぱり、私が戦えるようになるわ!」

「それは……まあ、約束したしな。ただ、すぐには無理だろう。なので従魔を仲間にしようと思う。あれなら裏切りの心配もない」

「あっ! この間見た、狼みたいなやつのこと?」

「そうだ。 なので、早速見に行こうと思うがいいか?」

「うん! いいわよ! デ、デートね……」

 「いや、そう言ってくれるのは嬉しいのだが」

   とても、そんな雰囲気の場所じゃないのだが?
 その後、冒険者ギルドに紹介してもらった店に入るが……ほら、こうなった。

「まあ、役得ではあるか」

「ガルルル!」

「グァァ!」

「キャア!? ク、クロウ……!」

 檻に入れられた魔物達に怯え、カグヤが俺の腕から離れない。
  うむ、意外と着痩せするタイプだったのか……いかんいかん、平常心だ。

「だ、大丈夫だ。俺が付いている」

「う、うん……」

「ほら、しっかりと見ないと」

「わ、わかってるわ」

 魔物達の檻を眺めていると、支配人が声をかけてくる。
    白髪のご老人で、ブレナという方だ。

「お気に召しましたのがございましたら、お声をかけてくださいませ」

「ええ、了解です」

「わ、わかりました……うぅー」

 そこには、四足歩行の狼系の魔物や猫系の魔物、そして鳥系などの魔物がいた。
 さすがにドラゴンはいないが、あれは簡単に使役できるものではないから当然か。

「ど、どれも怖そうだわ……」

「今回は、カグヤを守る奴が目的だ。なので、カグヤが気に入った奴がいればいいのだが……」

「うーん……食べられないかしら?」

「それは大丈夫だ、契約した者には逆らえないからな。そもそも、相手が気にくわないと成立もしない」

 すると、カグヤがとある檻を指差した。
 視線を向けると、そこには白く輝くような毛並みで優美な姿の虎がいた。

「あっ!  あの子……綺麗」

「お客様! お客様のランクでは、あれは無理かと……」

「ん?先約がいるのですか?」

「いえ、アレは誰とも契約ができないのです。あの魔物は魔の森の王者ハクドラ。自分より強い者、なおかつ気に入った者でないと認めないのです。何名もの人が挑戦したのですが、死人こそ出ないものの、皆大怪我を負いました。なので、金等級以下の方はお断りしております」

 ほう、強そうではないか。
 なるほど、最低でも冒険者ランク金等級の強さがあると。 
 俺は改めて、虎に視線を向けるが……纏っているオーラが他の魔物とは違う。

「アレは強いな。責任はとるので、試してもいいですか?」

「そうですな、あのゼト様のご紹介でもありますし。いいでしょう……ですが、誓約書にサインをしていただきます」

「ええ、もちろんです」

 ブレナさんが一度去ると、カグヤが俺の服の端を掴む。

「クロウ、大丈夫……?  私が綺麗って言ったけど無理しちゃダメよ?」

「安心しろ、カグヤ。そういう時、俺は他の言葉が欲しい」

「えっと……た、頼りにしてるから!」

「それでいい。その言葉さえあれば、俺が負けるはずがない」

 百人の声援より、その言葉が俺の力になる。
 やる気を貰った俺は、誓約書にサインをして檻の中に入る。
 縦横共に十メートルくらいの場所で、逃げ回ることは難しい。
 つまりは、力で屈服させる必要がある。

「では、閉めますね」

「クロウ——頑張って!」

 そして檻が閉じ、同時にハクドラの檻が開かれる。
    近くで見ると、その迫力は段違いだった。
    体長二メートル以上、たくましい体つき、その強靭な爪と牙……まさしく、森の王者に相応しい。
    奴は俺を睨みつけ、威嚇をしていた。

「グルルルゥゥゥ……!!」

「よう、強いらしいな?  だが、俺はお前より強い……試してみるか?」

「グルァ!」

 挑発が効いたのか、ハクドラが飛び跳ねて襲ってくる。
 その速さと跳躍力は凄まじい。

「いいだろう。まずは、力比べと行こうか」

 全身に魔力を通して、身体強化を施す。
    そして、覆いかぶさろうとする相手を迎撃する。

「ガァァァ!」

「ふんっ!」

 奴の両爪と、俺の両腕が組み合う。
    すると、奴が不思議そうな表情をした。

「ガウ?」

「どうした?  爪が食い込まないのが不思議か? その程度では……俺の身体には通用しない!」

 組み合った状態からスッと手を離し、素早く腹の下に潜り込む。

「ガウッ!?」

 そのまま両腕で奴を持ち上げ、檻に向かいぶん投げる。
 ガシャーンという音が、闘技場に響き渡った。

「ギャイン!?」

「フゥ……さて、次はどうする?」

 奴はよろめきながらも、すぐに立ち上がる。
    そして、俺を睨みつけていた。

「ガルルル……!」

「ほう? まだやる気か?  そうでなければ張り合いがない」

「ガァァ………!」

 すると、奴が前足を踏ん張り口を大きく開く……嫌な予感がする。

「なんだ?」

「い、いけません! それは避けてください!  それこそが——王者と呼ばれる由縁です!」

「なるほど、何か大技が来ると……ならば、避けるわけにはいくまい」

 これで引いたら、奴は認めないだろう。
 俺は右の拳に魔力を集め、左の拳を前に出して右の拳を引く。
 次の瞬間、奴の口から凄まじい勢いで水が放たれる!
 俺は左拳を引きながら、腰の回転を加えつつ右拳を繰り出す!

「セァ!」

「グァッ!?」

 俺の拳と奴の水がぶつかり合い拮抗する。
 ただの水に、こんなに威力があるとは……だが。

「どうした? 何を驚いている? ……人間を舐めるなよ!」

 右腕に魔力を追加し、思い切り拳を振り抜く。
 その水の光線は、そのまま奴にはね返り当たる。

「ギャウン!?」

 直撃をくらい、奴は地に伏せた。
    そのまま、横たわってしまう。

「まずいな……生きてるか?」

「グルルー」

「おっ、生きていたか」

 俺の声に反応して起き上がる。
 しかし。鳴き声が先ほどとは違う。

「様子が変だな……」

「グルルー」

 頭を下げつつ、俺の方へ寄ってくる。
 最早、敵意は感じない……だが、俺は油断しないように構える。

「グルルー、グルー、グルッ!」

「うおっ!?」

 すると、奴が俺の手をペロペロと舐め回し始めた。

「な、なんと!?  契約を結ぶ前に服従しております!  舐める仕草は、貴方をボスと認めますということです!」

「そうなのですか?  おい、そうなのか?」

「グルルッ!」

 さっきとは打って変わり、表情が柔らかく見える。

    どう猛な獣から一転、飼いならされた猫のよう。

    これほどの強さなら、ある程度任せられそうだ。

 これにて、第二目標達成としよう。
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