竜殺しの料理人~最強のおっさんは、少女と共にスローライフを送る~

おとら@ 書籍発売中

文字の大きさ
50 / 64
おっさん、異世界に慣れる

おっさん、センチメンタルな気分になるが……

しおりを挟む
 走り回るソラを見てると、居なくなった妹のことを思い出す。

 丁度、今のソラの歳くらいだった……あの子が、事故で亡くなったのは。

 結局、俺の両親が離婚したのもそれが大きい。

 だから、俺はそこまで両親を恨んではいない。

 ただ、悲しかっただけだ。

 自分では、二人を繋ぎ止める者にはなれなかったことを。

 そして、それ以来大事な人を作るのが怖くなった。

「いい歳こいて……困ったもんだ。気がつけば、こんなことになってるし」

「お父さーん! なんか果物ある!」

「ソーマ殿! 何をぼけっとしているのだ!」

「すみません!」

 ひとまず雑念を振り払い、俺は二人の元に駆け寄るのだった。





 その後、散歩しながらバナナやパイナップルなどを採取する。

   途中で休憩し、用意したサンドウィッチを食べて再び散策していると……何かの気配を感じとった。

「むっ? 何かきますね。ソラ、俺の後ろに」

「う、うんっ!」

「なに?  この辺りは狩り尽くされているはずだが……」

 ……この音と気配……上かっ!
 気配の元を辿り、空を見上げると……何かが近づいてくるのが見えた。

「上から来ます! ……なんだあれ? ドラゴン?」

「上からかっ! いや……あれはワイバーンだっ! しかし、なんでこんなところに?」

「お、おっきいよぉ……」

「グァァ!」

 ソラの言う通り、そいつは大きい。
 背丈も三メートルほど、翼を広げたら倍の六メートル以上はありそうだ。
 身体自体は細く顔はドラゴン近いが、プテラノドンに近い姿をしている。
 そいつは空から俺達を見下ろし、何やら様子を伺っている。

「珍しいのですか?」

「あ、当たり前だっ! ドラゴンではないとはいえC級上位に当たる魔獣だ!  群になるとB級にもなる! しかし、どうしてこんなところに……しかも、群れではなく一人きりで?」

「なるほど……イレギュラーということですね」

「う、うむ……単独行動することは少ないし、こんな場所にいる魔獣ではないはずだ」

「お、お父さん……」

 俺の服の端を掴むソラの手が震えている。
 おそらく、ドラゴンに食べられそうになったことを思い出してしまったのだろう。

「ソラ、安心するといい。あんなドラゴンもどきは、お父さんが倒してやるから」

「う、うん……」

「おいおい、そんな簡単に……いや、忘れそうになるがそうだったな。私も役立たずではダメだな……よし、ソラのこと任せてくれ」

「いえ、それで十分です。ソラ、クレアさんのところに」

 こくんと頷き、クレアさんの元に駆けていく。
 すると、ワイバーンがソラに視線を向けて動き出す!

「ギシャャャャ!!」

「くっ!?」

「ひぃ!?」

 その咆哮は、ソラとクレアさんを震え上がらせた。
 おそらく、前の俺だったら同じようになっていただろう。
 俺は思い切り息を吸い……同じように吠える!

「オォォォォ!!」

「ギシャ!?」

「いまのうちに!」

 その声に反応し、ワイバーンが怯む。
 その間に、ソラがクレアさんの後ろに隠れる。

「よし、これで良い」

「ソーマ殿! 気をつけろ! そいつは風のブレスを放ってくる!」

「ありがとうございます! ところで、さっき……こいつはだと言いましたか?」

 俺が気になったのはそこだ。
 ドラゴンは食えなかったが、こいつは食えるってことだ。
 料理人としては、未知の味というのは見逃せない。

「うん? あ、ああ、ワイバーンは魔獣だぞ。ドラゴンと似ているが、全く別の生き物だ」

「美味しいですか?」

「はい? ……はぁ、そういう方だったな。いや、残念ながら肉は硬くて食えたもんじゃない。強さの割に採算が合わないから、不人気の魔獣と言われている。まあ、卵は人気なので依頼が出ることはあるが」

「硬くて食えないですか……なら、料理人の腕の見せ所ですね」

「全く、頼りになるというか呆れるというか……だが、それがソーマ殿だな」

「ええ、俺は料理人ですから」

 左手を刀の鞘に添え、腰を深く落とす。

 さあ、可愛い娘を怖がらせたことは万死に値する。

 罰として、俺の料理の素材になってもらおうか。














 ~あとがき~

 念のため……妹の描写ですが、二十三話に書いてあります。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...