竜殺しの料理人~最強のおっさんは、少女と共にスローライフを送る~

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おっさん、異世界に慣れる

おっさん、覚悟を決める

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 ……俺に人を殺せるか?

 ステータスにより精神力が増しているが、正直言ってその覚悟はない。

 日本という平和な世界で育った俺には、簡単な話ではない。

 だが、それでも俺が負ければ二人が殺される……おそらく、俺の目の前で。

 それだけは耐えられん……ならば覚悟を決めるか。

「ははっ! いくゼェ!」

「シッ!」

 上から振り下ろされる大剣に刀を合わせ、そこで力を抜いて下に受け流す。
 すると相手の大剣が地面にめり込むので、その隙をついて——胴体に剣撃を叩き込む!

「ぐはっ!?」

「……硬いな」

 相手は吹き飛んだが、傷はそこまでじゃないはず。
 まるでタイヤを叩いたように、跳ね返される感触があったからだ。

「ちっ、姑息な手を使いやがって。というか、その剣?はなんだ? 俺の大剣で破壊できないとは」

「これは刀というものだ。それと姑息ではなく、ただの技だ。直撃さえ避ければ、刀はそうそう折れることはない」

「気に食わねえ」

 そう言った奴の目は、認めたくないといった感じだ。
 もしくは、理解したくないか。

「何がだ?」

「貴様はそれなり強いはずだぜ。なのに、どうして威張らない? 他者を見下さない? 強い奴は、それだけで偉いはずだ」

「そんなことして何になる? 強さとは、自分さえ分かっていれば良い。別に偉くもなく、それは他者の評価で左右されないものだ」

「な、何を言ってやがる?」

「いや、わからないなら良い」

 たまに勘違いしている奴がいるが、本当に強い者は威張らないし虚勢を張らない。
 そんなことをしなくても、確固たる信念が自分の中にあるからだ。
 やはり、こいつは……強いかもしれないが、本当の強さはない。
 おそらく、以前言った俺の予想は当たっていた。
 ならば、殺すまでもない……その鼻っ面をへし折ってやる。

「……くそがぁぁ!!」

「こい」

 大剣に刀を添えるようにして、力の方向を変える。
 そして、隙ができたところを胴体に叩きつける。

「ぐっ……効かねえよ!」

「そうみたいだな」

 その後も、ひたすらにそれを繰り返す。
 受け流して斬り付け、相手に確実にダメージを与えていく。
 こいつの頑丈さは異常だが、無敵ではないはず。
 俺の予想が正しければ……。

「ガァァァ!? なんで当たらねえ!」

「いくらステータスが高かろうが、お前には技術が足りない。それでは、おもちゃをぶん回しているようなものだ。基礎から鍛錬をやり直すが良い。というより……その強さを手に入れる過程で、何も学ばなかったのか?」

「な、なんだと?」

「……お前の強さは不自然だな。確かに強さを得たものは溺れることはあると思う。だが、その強さを手に入れる過程で苦労したはずだ。その時の気持ちを忘れてしまったのか?」

「う、ウルセェェェ!」

 そう言い、大剣を思い切り振りかぶってくる!
 まるで隙だらけで、斬ってくれと言っているようなものだ。

「そんな大振り受け流すまでもない!」

「ガハッ!?」

「セァ!」

「ご、ゴフッ……この程度でぇぇ」

「どうした? ダメージはないんじゃなかったのか? 明らかに精彩を欠いているが」

「だ、黙れ……これくらいなんとも……あん? なんだ、身体が動かない?」

 ……どうやら、ようやく効いてきたか。
 さすがA級だけあって、その体は頑丈だった。
 俺がしたことは至極単純なこと。
 相手の胴体部分……正確には脇腹部分だけを攻め立てただけだ。
 一箇所にダメージを与え続ければ、どんなに頑丈でも蓄積されていく。

「当然と話だ。いくら鍛えようと人の身体である以上、ダメージの蓄積はされるはずだ。そもそも、そんなこともわからないということは……本当の真剣勝負をしたことがないな?」

「な、なっ……」

「どうやら、図星のようだな。戦いが好きと言いながら、自分より弱い者としか戦ってこなかったのだろう。勝てる戦いに勝ち、それで愉悦に浸りたかっただけとみた」

「が、き、き、貴様ぁぁ……ァァァァ!」

 奴が立ち上がり、めちゃくちゃに剣を振りましてくる!

「なっ!?」

「ガァァァァァァァア!」

 その目は血走っており、とても正気とは思えない。
 ……まずいな、こうなると止めるのは難しい。
 俺に人を殺せるのか? ……いや、殺さねばなるまいか。

「ソーマ殿! そいつは正気を失っている! 早くケリをつけないと危険だっ!」

「……わかりました」

 俺は距離を取って、刀を鞘に収める。
 そして、身体を脱力させて……奴が迫ってくるのを待つ。

「ヒヒヒ! シネェエェ!」

「憐れな男よ——紫電の太刀」

 相手の大剣をギリギリで左側に避けてから……抜刀する!
 そして少しの嫌な感覚と共に、奴の右手が大剣ごと地面に落ちる。

「へぁ? ……ぁぁ!? おれの手が、がァァァ!」

「これでもう、お前は剣を握れまい」

「く、くそぉぉ……ど、どうして俺が……」

「自業自得だ。命があるだけマシと思え」
 
   さて、ここからどうするか……やはり、殺すべきか。
  ここで生かしておいて、あとで何かあったら俺は後悔してもしきれない。
  しかし、人は変われることも知っている……最後のチャンスは必要か。
  同時に、本当に守りたい者のためなら非情に徹することも。
 
「くっ……」

「おい、反省したか?」

「あ、ああ! した! だから許してくれ!」

「……わかった。後の沙汰は、他の連中に任せるとしよう」

俺は刀を鞘にしまい、踵を返す。
すると、後ろから殺気が漏れる。

「ソーマ殿! 危ない!」

「ひひっ! しねぇ!」

「——残念だ」

「へぁ? ………ァァァァ」

振り返り様に、相手の攻撃より先に居合斬りを放った。
胸から大量の血を流し、地に伏せる。
胃が逆流するような感覚に襲われるが、なんとか飲み込む。
 すると、逆方向から誰かがやってくる。 
 それはギルドマスターと、他数名の冒険者だった。

「そこまでだっ! ……なんと、もう決着がついたのか」

「ええ、おそらく。後のことは任せても良いですか?」

「あ、ああ、任せておけ」

 ふぅ……なんとか終わったか。

   ……悪党とは言え、人を殺してしまった。

  だが、ソラが無事にならそれでいいと思う。

  しかし、ソラが寝ていてよかった。

  できれば、そんな姿は見せたくない。

  ……ソラが起きていたら殺せなかったかもしれんな。




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