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第一章 迷宮へと挑む
第四十八話 掟破り
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今までの知識と経験、そのすべてを活用して現状を分析、把握に努める。
まず魔人とは何か。
一般的には迷宮に選ばれた人間のことを指し、人ならざる力を発揮する。もちろん実際に見たのは初めてだ。そもそも最近までは実在さえ疑っていた。
なら何故迷宮は他者に力を与えるのだろうか。迷宮は掟の具現化であり、一種の生命体であるとされるため、生物のように成長しようとしているはず。
その一助として力を与え、同時に迷宮の意のままに動く人間を必要としているのではないか。
(ん? 今何か……?)
エタの思考の端を閃きが掠めた。
しかしまだ足りない。では、ハマームは何を与えられたのか。姿形は樹木、蟻、そして何かよくわからない丸い板。
つまり丸い板以外この迷宮に存在するものだ。
(ハマームは迷宮に力を与えられている。そして迷宮の力の根源は掟。なら、ハマームにも迷宮と同じ掟が与えられている?)
魔人の戦いぶりを見るとどうもハマームが人間だったころに持っていた掟は使っていない。いや、おそらく使えない。
(なら、まだらの森の掟を解き明かせば、その能力と弱点もわかるはず。いや、それだけじゃない。多分、ハマームだけがこの迷宮の掟に適応したんだ)
考えてみればおかしい。ここにいるほかの人間を無視してハマームだけに迷宮が話しかけたのは理由があるはずだとエタは推察した。
このまだらの森の構造。形ではなく、魔物や生き物がどのように扱われているか。それがこの迷宮の掟にもなっているはず。
それに、何かハマームに近いものはあるだろうか。
仲間たちはまだ奮戦している。しかし戦況は芳しくない。魔人の攻撃はより激しくなっているが、灰の巨人の冒険者たちはエタと同様に力が入らないらしく、全く戦列に加わる様子がない。
(僕、ミミエル。そしてあの人たち。その共通点、そうだ、全員灰の巨人に所属していることだ)
抵抗感からか、あるいは裏切っている後ろめたさからか、無意識的にエタ自身とミミエルを灰の巨人の一員ではないと思い込んでいた。
(つまりハマームにとっての味方から力を奪う。そういう能力? それにふさわしい言葉は何?)
不意に思い出したのはまだらの森に到着して初めて会話した老人。あの時、彼はこう言っていた。
『まあな。油断してあっさり死んだ奴なんか珍しくない。わしがここまで生き延びたのは運が良かっただけだ。わしらは搾取される側なんだよ』
ついに答えを掴んだエタは叫んだ。
「この迷宮の掟は、搾取!」
洞窟内の全員がわずかにエタを見る。ただ、魔人だけは驚いているかのようにエタを凝視していた。
「大白蟻が植物を、大黒蟻が大白蟻を、上位の者が下位の者から奪い続ける。それがこの迷宮の掟の構造。そしてハマームは自分の部下たちを使い捨てにすることで利益を得ている。搾取するものがなくなることを恐れたハマームと、攻略されることを恐れた迷宮が同調した。それが魔人として選ばれた理由。つまり!」
一度言葉を切る。
息が続かないほど体が重くなっていた。だが、これだけは伝えなくてはならない。朗々とした声で宣言した。
「ギルドの構成員でなくなれば搾取の対象にはならない!」
携帯粘土板を操作し、灰の巨人を脱退する。
するとエタの体は軽くなり、息も楽になった。
まず魔人とは何か。
一般的には迷宮に選ばれた人間のことを指し、人ならざる力を発揮する。もちろん実際に見たのは初めてだ。そもそも最近までは実在さえ疑っていた。
なら何故迷宮は他者に力を与えるのだろうか。迷宮は掟の具現化であり、一種の生命体であるとされるため、生物のように成長しようとしているはず。
その一助として力を与え、同時に迷宮の意のままに動く人間を必要としているのではないか。
(ん? 今何か……?)
エタの思考の端を閃きが掠めた。
しかしまだ足りない。では、ハマームは何を与えられたのか。姿形は樹木、蟻、そして何かよくわからない丸い板。
つまり丸い板以外この迷宮に存在するものだ。
(ハマームは迷宮に力を与えられている。そして迷宮の力の根源は掟。なら、ハマームにも迷宮と同じ掟が与えられている?)
魔人の戦いぶりを見るとどうもハマームが人間だったころに持っていた掟は使っていない。いや、おそらく使えない。
(なら、まだらの森の掟を解き明かせば、その能力と弱点もわかるはず。いや、それだけじゃない。多分、ハマームだけがこの迷宮の掟に適応したんだ)
考えてみればおかしい。ここにいるほかの人間を無視してハマームだけに迷宮が話しかけたのは理由があるはずだとエタは推察した。
このまだらの森の構造。形ではなく、魔物や生き物がどのように扱われているか。それがこの迷宮の掟にもなっているはず。
それに、何かハマームに近いものはあるだろうか。
仲間たちはまだ奮戦している。しかし戦況は芳しくない。魔人の攻撃はより激しくなっているが、灰の巨人の冒険者たちはエタと同様に力が入らないらしく、全く戦列に加わる様子がない。
(僕、ミミエル。そしてあの人たち。その共通点、そうだ、全員灰の巨人に所属していることだ)
抵抗感からか、あるいは裏切っている後ろめたさからか、無意識的にエタ自身とミミエルを灰の巨人の一員ではないと思い込んでいた。
(つまりハマームにとっての味方から力を奪う。そういう能力? それにふさわしい言葉は何?)
不意に思い出したのはまだらの森に到着して初めて会話した老人。あの時、彼はこう言っていた。
『まあな。油断してあっさり死んだ奴なんか珍しくない。わしがここまで生き延びたのは運が良かっただけだ。わしらは搾取される側なんだよ』
ついに答えを掴んだエタは叫んだ。
「この迷宮の掟は、搾取!」
洞窟内の全員がわずかにエタを見る。ただ、魔人だけは驚いているかのようにエタを凝視していた。
「大白蟻が植物を、大黒蟻が大白蟻を、上位の者が下位の者から奪い続ける。それがこの迷宮の掟の構造。そしてハマームは自分の部下たちを使い捨てにすることで利益を得ている。搾取するものがなくなることを恐れたハマームと、攻略されることを恐れた迷宮が同調した。それが魔人として選ばれた理由。つまり!」
一度言葉を切る。
息が続かないほど体が重くなっていた。だが、これだけは伝えなくてはならない。朗々とした声で宣言した。
「ギルドの構成員でなくなれば搾取の対象にはならない!」
携帯粘土板を操作し、灰の巨人を脱退する。
するとエタの体は軽くなり、息も楽になった。
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