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歓迎と理由
恩恵の発現
しおりを挟む~時はカガリがいなくなった日まで遡る~
「じいや!大丈夫ですの!?」
野営地に到着した僕達を出迎えてくれた男性は右腕を失っていた。
「何者かに襲撃を受け不覚を取ってしまいました。他にも負傷者が多数出ており、このままでは死ぬ団員も出てくるかと……」
おそらく、僕達を襲った化け物は先にこの野営地を不意討ちしたのだろう。
「ユウ氏、たしか聖法には傷を癒すものがあるのではござらんか?」
最初に聖法の説明を受けた時に『怪我や病気を癒す……』とカガリが言っていた。
でも————。
「僕が教えてもらったのは”速身”と”発光”、詠唱を覚えてるから使えそうなのが”音消し”と”清浄”……どれも直接治療には使えそうにないよ」
カガリにとっても離脱は予想外だったのだろう。
旅をする中で治療技術が使えるなら、何よりも真っ先に僕が教えてもらわないといけなかった。
「……無いものねだりしても仕方ない!エルさん、僕に手伝えることはありませんか?」
包帯を巻いたり、消毒するくらいなら医療知識の無い僕でも手伝える。
できることからやらないと。
「ありがとうございます。じいや、負傷者はどこに?」
「軽傷の者はすでに応急処置を終えております。重傷者はあちらの天幕に……」
案内されたテントの中で僕が見た景色は地獄そのものだった。
「うぅ……いてぇよぉ……」
「水……水をくれ……」
「足が寒い……誰かあたためてくれ……」
「くそ、血が止まらねえよ……!誰か……」
鼻を突く血と泥のにおい。
呻き声すらあげられない人、口元から血を垂らしている人、顔を包帯でぐるりと巻いているのに滲む血で眼の位置が出ている人。
そのテントの中に、僕は見えないはずの”死”が充満しているように感じた。
「ユウさん、これを」
エルさんに液体の入った木筒と包帯が詰められたカゴを渡されて我に返る。
「怪我人の手当ては私たちでやりますわ。ユウさんは消毒液と包帯を処置をしている団員に配ってください」
これが僕にできる仕事。
エルさんは今日会ったばかりの僕を信頼して、大切な仕事を任せてくれた。
「はい!」
ボーっとなんてしてられない。
仕事で信頼に応えないと!
「こっちに包帯をくれ!血が止まらないんだ!」
必死な形相で僕を呼ぶ団員さんのもとへ走る。
「くそっ、足からの血がいくら押えても止まらねぇ……。これじゃ死んじまうよ!」
千切れかけた右足の太腿からの流血は、包帯を強くグルグル巻きにしても止まりそうにない。
「ダメだ、どんどん冷たくなってる……!おい死ぬなよ!子供が生まれたばっかりなんだろ!家族のために頑張らなとって昨日言ってたじゃねえかよ……」
子供……家族……。
一瞬、僕の頭の中に父親の姿がよぎった。
葬儀場の布団に寝かされている父さん。
今にも動きそうなのに、冷たくなった身体は硬くて石みたいだった。
また、僕は何もできないのか?
すごい力をもらっても、怪我した人を助けることすら無理なのか?
何か……。きっと何かできるはずだ……!
聖法の中で消毒や止血に役立ちそうなもの……と考えていると、脳内に言葉が浮かんできた。
«解毒の聖法キナグ»
«治癒の聖法トギリ»
«治療の聖法ワブキ»
「……??」
なんだこれ。なんでこんなものが浮かんでくるんだ?
でも、”治療”って……!
「すみません、ちょっと失礼します!」
「なんだなんだ!?」
僕は怪我をしている部位に両手をかざし、頭の中に浮かぶ言葉をゆっくりと唱える。
「”死を拒絶する生命の光、聖なる息吹により護らん”……」
「”治療の聖法……ワブキ”!」
「被害内容の報告は後になさい。今、優先すべきは負傷者の治療ですわ」
鎧を脱ぎ、消毒をした手には針と糸が握られている。
あの化け物の鋭い爪で襲われた為か、負傷者のほとんどは刃物で斬られたような傷を負っていた。
大きな傷は一度縫って閉じなければ血が止められない。
しかしそれができる団員は少なく、焼いた刃物を当てて無理矢理に傷口を閉じる処置をされた負傷者ばかり。
「血が止まっていない負傷者を優先的に治療するので、あなたは後の処理をお願いしますわ」
「はっ!了解しました!」
しかし、天幕に入った私の目に映ったのは……。
「おお!こ、こいつも頼む!腹に空いた穴から中身が出そうなんだよ!」
「はい!」
ユウさんの手から出る光が大きな傷をみるみる内に塞いでいく。
周りを見渡すと、苦しんでいた負傷者のほとんどが綺麗に包帯を巻かれて眠っていた。
そのせいか、先程まで聞こえていた負傷者の呻き声ももう聞こえない。
「これは……!?」
「あ、団長!聖法使いの方を手配してくださりありがとうございます!これでみんな助かりますよ!」
道中に聞いた話では、ユウさんはカガリ枢機卿から治療の聖法をまだ習っていないと……。
私自身、諦めるつもりは無かったものの数人の死者は出てしまうと覚悟を決めていた。
「な、なんにせよ良かったですわ……。誰も死ななかったのなら、それ以上の成果なんてありませんものね」
手に持っていた針と糸を近くにいた団員に渡す。
「被害報告をお聞きします。ユウさんには治療が終わり次第、休息を取っていただきなさい」
「はっ!」
負傷者を集めた天幕を後にして、エルは野営地の中央へと向かった。
「————ってことがあったんだよ」
「それは大活躍でござったなぁ」
その日の夜。
僕と灯花は野営地のキャンプファイヤーを見ながら、お互いの報告も兼ねた雑談をしていた。
「そっちの取り調べはどうだった?」
「終始、丁寧な対応でござった」
カツ丼は出なかったでござるが……と、灯花は軽口を叩く。
「それにしても、なんでいきなり知らないはずの聖法を使えたのでござろうか?」
「……わかんない。けど、あの時の僕は”何か出来ないか?”って必死に考えていたから、それで奇跡が起きたんじゃないかな?」
「ふむ……」
灯花が考える人のポーズで考え込む。
「ユウ氏、もしかして……目的を思い浮かべながら聖法を使おうとしたのが原因では?」
「どういうこと?」
「いや、拙者が漫画やラノベを見て不思議に思ってた事のひとつに”詠唱付きの魔法をどうしてあんなにたくさん暗記できるのか?”というのがあって……」
灯花は続ける。
「覚えていると言うより実は、イメージと記憶を繋げる魔法が頭にインプットされているんじゃないかと考えたのでござるよ」
「ちょっと分かりづらいな……」
「簡単に言うと、使いたい魔法をイメージしたら自動で検索されて詠唱文が出てくる的な」
あぁなるほど。
「元々、治療の聖法は洗礼の時点で使えるようになってたってことか」
「そうでござる。そして、今日まで使うタイミングが無かったせいで使えないと思い込んでいた……」
たしかに、誰も怪我したりしなかったもんな。
「そこでちょっと気になるのでござるが」
「ん?」
「使える聖法を全部知りたいって思い浮かべるのは可能でござろうか?」
「”記憶の魔法”に直接アクセスするってことか」
「そうそう。一度、試してみてほしいでござる」
僕は目を閉じて想像する。
(自分が使える聖法にはどんなものがあるのか……)
……………………。
パチパチと、木が焼けていく音だけが聞こえる。
「ユウ氏?」
「ダメだ。全然出てこない」
ふぅ~と僕はため息をつく。
「そこまでうまい話は無かったでござるか……」
灯花は火かき棒で外に転げた木片を火の中に押し込む。
「あ、そう言えば拙者の泊まる部屋に薪ストーブがおいてあるのでござるが、その火種を探してたのでござった」
「火種?松明か何か無いのか?」
ここで燃えている木を直接持っていくのは無理だろう。
「部屋の近くには見当たらなかったでござるな」
近くに置いてある木はキャンプファイヤー用の大きな丸太だしな……。
「ユウ氏、火を付ける聖法って無いのでござろうか?」
「あん?そんな都合の良いものがあるわけ……」
”弱火炎魔法”
「……?」
「どうしたでござるか?」
「いや……」
”魔法”?
どうしてそんなものが?
「灯花……ちょっとストーブに使う薪を持ってきてくれるか?」
「了解でござる……?」
疑問を感じながらも走って、すぐに戻ってきた灯花から薪を受け取る。
「ちょっと離れててくれよ……」
薪に手をかざし、聖法を使う時と同じイメージで呼吸を整え集中する。
「……弱火炎魔法」
ボッと、僕の手から火が出た。
ライターの火を手のひらサイズまで大きくしたような炎が薪を燃やす。
「こ、これは……?」
それを見て混乱する灯花。
「火をつけたいって頭の中でイメージをしたら言葉が聞こえたんだけど……」
でもこれは聞いていた聖法の特徴とは違う。
「もしかして僕、魔法も使えるのか?」
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