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暴露と覚醒
エンガという男
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「あんなにも可憐で蠱惑的な乙女が未だに我輩のものでないとは……」
エンガは箱の留め金を外し、中にある大量の宝石を手に取る。
「グヒヒ。美しい宝石は乙女の肌を飾る為の真なる装束……」
そう言うと、エンガは指輪の宝石にアザム姉妹の姿を想い浮かべ恍惚の表情で笑う。
暗幕を閉じた薄暗い部屋の中で蝋燭に照らされた笑顔はある種の狂気を孕んでいた。
「どうやって我がものにしてやろう。やはりこの魅了の呪いが刻まれた宝石を送るか?しかし効果が眉唾な上に身に付け続けさせないと意味が無いし……」
コンコン
「誰だ?」
「リィルにございます。ご主人様」
「お前か……入れ」
扉が開き、黒装束を着た髪の長い女が部屋に入る。
エンガは暗幕を開き蝋燭の火を消した。
「で、どうなった?」
「はい。巫女様がたは所有の別荘に到着したあと、全ての来客を拒否して中にこもったまま誰も出てきていません」
「そんなことはどうでもいい。お得意の"召喚術"とやらで中の様子は探れんのか?」
「発覚する見込みがあまりにも高過ぎます。ここ数日の接触で護衛にかなりの手練がいるのはご存知の通りです。ましてや国の中で遭遇したとなれば、紅の騎士にこちらを突き止められかねません」
話を聞いていたエンガは忌々しそうな表情で煙管から吸った煙を吐き出す。
「まったく。親がいない上、混者のお前をここまで育ててやったというのに……お前は本当にできないことばかりだのう」
「申し訳ありません。ご主人様」
リィルは深く頭を下げた。
「我輩が望むのは姉妹巫女の全て。だったら、その邪魔になりそうな護衛を排除するくらいできんのか?」
エンガの額に青筋が浮かぶ。
「策としては不確実ですが……」
「ほう?言うてみい?」
「一時的に召喚術を反転させる術があります。つまり、少しの間だけ魔獣のいる場所に一人を送る……というものです」
「ほうほう?」
先ほどとは打って変わって興味津々の表情でリィルの言葉に耳を傾けるエンガ。
「しかしこれは踏んだ者だけに効く罠のようなものですので、確実に護衛を狙って飛ばすとなると難しく……」
「かまわん。護衛が踏むように策を練れば良いだけだ」
フーッと虚空に紫煙を吐き出す。
「そうだ、二重の策で護衛を削るとしようかの。紅の騎士さえ離してしまえば……」
リィルの申し出に何かを思いついたエンガは邪悪な表情でニタリと笑った。
「で、何者でござるか?あの絵に描いたような成金は」
灯花がバリバリと音を立てながら串に刺さった肉を食べる。
「アレはヒュペレッドの豪商です。占いの常連客で、毎回のように高価な貢ぎ物を持ってくる以外に取り柄の無い浅ましい男」
本音なのだろう。いつもの冷静な言葉とは違って、"浅ましい"の部分にかなり力が入っていた気がする。
「しかもねっ!お姉さまを自分のものにしようとしてるって!みんなが言ってるの!」
姉と違って妹の方は感情をわかりやすく露わにしている。
「え、でもかなり歳が離れているように見えたけどな……」
「ユウ氏……えてしてああいうのはそういう奴なのでござるよ」
灯花が何かを分かったふうな感じの表情で口を拭く。
「高価な貢ぎ物って言ってたけど、なんの商売をしてもうけてるの?」
「エンガは塩の流通を独占して取り仕切っている商団の長です。人界の塩はほぼ全てがヒュペレッド産……あの男は塩の量り売りから成り上がり続けた金の亡者ですね」
「それだけ聞くとすごいのに、その結果があの姿とロリコン趣味なことで評価が大きく下がるでござるな」
サーラさんは大人びて見えるが僕達より歳下の女の子だ。その女の子をいい大人が我がものにしようとするのはかなりマズい気がする。
「本当、身の程知らずもいいところです」
コンコン
「ん?」
窓硝子が何か硬いものでノックされた。
「あれは……手紙鳥?」
サーラさんが窓を開けると青と黄のシマシマ模様の鳥が羽の中から出した細い筒を器用にクチバシで手渡した。
「これ、あなた宛てよ」
「はい……いったい誰からでしょう?」
手紙を受け取ったエルさんが送り人の名前を確認する。
「差出人は"ロンダバオ流通管理組合"?ふむふむ……」
エルさんは広げた手紙の文字を目で追っていく。
「内容は"落石を破壊して交通の要衝を復活させてほしい"といったものですわね」
「現場は遠いのでござるか?」
「位置的には鬼馬で半日くらいの距離ですわ」
となると最短でも帰ってくるのは翌日か。
「一応、交代の御者さんが来るまでには戻って来れそうな……」
「シェレットがいるならともかく、私は護衛としてこの場にいるのですし、そう軽々に離れるわけには……」
「行って良いですよ」
サーラさんが鳥から差し出された紙に判子を押す。
「大丈夫です。ロンダバオの中で誰かに危害を加えようとするのは約定に批准する各国を敵に回すのと同義。それに流通が滞って国が困っているのなら助けるべきかと」
「たしかにそうですけど……」
エルさんは困った顔で迷っていた。
「エル氏!ここには拙者もいるでござる!全て返り討ちにするので安心して良いでござるよ!」
既に襲ってくる前提で話を進めてるのが灯花らしい。
「……わかりました。可能な限り全力で戻りますので、くれぐれも危険を避けてお待ち下さいませ」
そう言うとエルさんは鎧や小手は着けず、大剣のみを持って走って行った。
「大丈夫……だよな?」
「拙者とユウ氏がいればまず心配無用でござろう」
「うん……とりあえず速身かけとく」
灯花だけに頼るのではなく、僕も魔法で対応できるようにしておこう。このメンバーなら僕が魔法を使えることを知ってる人ばかりだし。
「今……大波乱の一日が始まる……!」
「頼むから始めんな」
エンガは箱の留め金を外し、中にある大量の宝石を手に取る。
「グヒヒ。美しい宝石は乙女の肌を飾る為の真なる装束……」
そう言うと、エンガは指輪の宝石にアザム姉妹の姿を想い浮かべ恍惚の表情で笑う。
暗幕を閉じた薄暗い部屋の中で蝋燭に照らされた笑顔はある種の狂気を孕んでいた。
「どうやって我がものにしてやろう。やはりこの魅了の呪いが刻まれた宝石を送るか?しかし効果が眉唾な上に身に付け続けさせないと意味が無いし……」
コンコン
「誰だ?」
「リィルにございます。ご主人様」
「お前か……入れ」
扉が開き、黒装束を着た髪の長い女が部屋に入る。
エンガは暗幕を開き蝋燭の火を消した。
「で、どうなった?」
「はい。巫女様がたは所有の別荘に到着したあと、全ての来客を拒否して中にこもったまま誰も出てきていません」
「そんなことはどうでもいい。お得意の"召喚術"とやらで中の様子は探れんのか?」
「発覚する見込みがあまりにも高過ぎます。ここ数日の接触で護衛にかなりの手練がいるのはご存知の通りです。ましてや国の中で遭遇したとなれば、紅の騎士にこちらを突き止められかねません」
話を聞いていたエンガは忌々しそうな表情で煙管から吸った煙を吐き出す。
「まったく。親がいない上、混者のお前をここまで育ててやったというのに……お前は本当にできないことばかりだのう」
「申し訳ありません。ご主人様」
リィルは深く頭を下げた。
「我輩が望むのは姉妹巫女の全て。だったら、その邪魔になりそうな護衛を排除するくらいできんのか?」
エンガの額に青筋が浮かぶ。
「策としては不確実ですが……」
「ほう?言うてみい?」
「一時的に召喚術を反転させる術があります。つまり、少しの間だけ魔獣のいる場所に一人を送る……というものです」
「ほうほう?」
先ほどとは打って変わって興味津々の表情でリィルの言葉に耳を傾けるエンガ。
「しかしこれは踏んだ者だけに効く罠のようなものですので、確実に護衛を狙って飛ばすとなると難しく……」
「かまわん。護衛が踏むように策を練れば良いだけだ」
フーッと虚空に紫煙を吐き出す。
「そうだ、二重の策で護衛を削るとしようかの。紅の騎士さえ離してしまえば……」
リィルの申し出に何かを思いついたエンガは邪悪な表情でニタリと笑った。
「で、何者でござるか?あの絵に描いたような成金は」
灯花がバリバリと音を立てながら串に刺さった肉を食べる。
「アレはヒュペレッドの豪商です。占いの常連客で、毎回のように高価な貢ぎ物を持ってくる以外に取り柄の無い浅ましい男」
本音なのだろう。いつもの冷静な言葉とは違って、"浅ましい"の部分にかなり力が入っていた気がする。
「しかもねっ!お姉さまを自分のものにしようとしてるって!みんなが言ってるの!」
姉と違って妹の方は感情をわかりやすく露わにしている。
「え、でもかなり歳が離れているように見えたけどな……」
「ユウ氏……えてしてああいうのはそういう奴なのでござるよ」
灯花が何かを分かったふうな感じの表情で口を拭く。
「高価な貢ぎ物って言ってたけど、なんの商売をしてもうけてるの?」
「エンガは塩の流通を独占して取り仕切っている商団の長です。人界の塩はほぼ全てがヒュペレッド産……あの男は塩の量り売りから成り上がり続けた金の亡者ですね」
「それだけ聞くとすごいのに、その結果があの姿とロリコン趣味なことで評価が大きく下がるでござるな」
サーラさんは大人びて見えるが僕達より歳下の女の子だ。その女の子をいい大人が我がものにしようとするのはかなりマズい気がする。
「本当、身の程知らずもいいところです」
コンコン
「ん?」
窓硝子が何か硬いものでノックされた。
「あれは……手紙鳥?」
サーラさんが窓を開けると青と黄のシマシマ模様の鳥が羽の中から出した細い筒を器用にクチバシで手渡した。
「これ、あなた宛てよ」
「はい……いったい誰からでしょう?」
手紙を受け取ったエルさんが送り人の名前を確認する。
「差出人は"ロンダバオ流通管理組合"?ふむふむ……」
エルさんは広げた手紙の文字を目で追っていく。
「内容は"落石を破壊して交通の要衝を復活させてほしい"といったものですわね」
「現場は遠いのでござるか?」
「位置的には鬼馬で半日くらいの距離ですわ」
となると最短でも帰ってくるのは翌日か。
「一応、交代の御者さんが来るまでには戻って来れそうな……」
「シェレットがいるならともかく、私は護衛としてこの場にいるのですし、そう軽々に離れるわけには……」
「行って良いですよ」
サーラさんが鳥から差し出された紙に判子を押す。
「大丈夫です。ロンダバオの中で誰かに危害を加えようとするのは約定に批准する各国を敵に回すのと同義。それに流通が滞って国が困っているのなら助けるべきかと」
「たしかにそうですけど……」
エルさんは困った顔で迷っていた。
「エル氏!ここには拙者もいるでござる!全て返り討ちにするので安心して良いでござるよ!」
既に襲ってくる前提で話を進めてるのが灯花らしい。
「……わかりました。可能な限り全力で戻りますので、くれぐれも危険を避けてお待ち下さいませ」
そう言うとエルさんは鎧や小手は着けず、大剣のみを持って走って行った。
「大丈夫……だよな?」
「拙者とユウ氏がいればまず心配無用でござろう」
「うん……とりあえず速身かけとく」
灯花だけに頼るのではなく、僕も魔法で対応できるようにしておこう。このメンバーなら僕が魔法を使えることを知ってる人ばかりだし。
「今……大波乱の一日が始まる……!」
「頼むから始めんな」
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