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暴露と覚醒

葛藤と発動

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「いやぁ、席が空いてて良かったでござるな」
 サーラさんのお気に入りのお店と聞いて僕はどんなお店なのか期待と不安が入り交じる複雑な心境だったが、来てみればお客さんでにぎわう普通の繁盛店はんじょうてんで安心した。
「この店がこんなにむなんて珍しいですね……」
「お姉さま、アルはこれにする~!」
 そう言ってメニュー表を指差すアルネリアちゃん。
「お二人も遠慮えんりょせずに好きなだけ頼んでください」
 メニュー表を渡されて上から文字を目でなぞる。
岩鶏ドンガンの素揚げ・朝採れ氷結人参レクルンの野菜盛り・白銀鮪ノスキルの甘辛和え……』
 読めないはずの文字が頭の中に浮かんで響く。どうしてこんな時には聞こえるんだろう?
「ユウ氏……どれが美味しそうでござるか?」
 この世界の文字が読めない灯花とうかが僕の服のすそを引く。
「灯花ならこの『飛び鰻ヒンヒン蒲焼かばやき』とか好きなんじゃないか?」
 うなぎが好きなのは知ってる。こっちの鰻が僕の知ってる鰻と同じかは分からないけど。
「じゃあ、それにするでござる」



「このお店、結構いいお値段するっちゃけどね……」
 店内にいる客は全員が商会の従業員。
(……確実に陣を踏ませる為だけにここまでするん?)
 リィルの仕事は召喚魔法の発動とエンガから渡されたあるもの・・・・をアザム・サーラに飲み込ませること。

――――――時は少し前にさかのぼる。

「陣の設置せっちが終わりました。この後は如何いかがなさいましょう?」
「ご苦労。お前にはもうひとつ仕事がある」
 そう言うとエンガはふところから小さな赤い石を取り出して机の上に置いた。
「それは……」
「例の商人が持ってきた宝石だ。指輪から取り外して石だけにしてある」
 あの胡散臭うさんくさい商人からのみつぎもの……。
魅了みりょうまじないがかけてあるとはいえ、我輩わがはいが贈った指輪をずっと身につけ続けるとは思えん。ならば……取り外せぬようにすればいい・・・・・・・・・・・・・
 カッと開かれたエンガの目は狂気に満ちており、リィルが子供の頃から見てきた温厚ながらも勇気と野心にあふれる姿とはまるきり別人だった。
「それはつまり……」
護衛ごえいが消えて浮き足立ったところを狙い、食事に混ぜるか直接口の中へほうめ。暴力を振るうわけでも毒をるわけでもないならそこまで大事おおごとにはならん」
 なにより目撃者も居ないのだからな!と、エンガは大笑いした。


(……ご主人様にここまでさせるって、一体なんが起きとると?)
 リィルは葛藤かっとうする。
 このままエンガの指示通りに動けば恐らく簡単に達成できる。護衛の少年と姉妹巫女みこはここからでも分かる程度には親しげだ。突然居なくなれば冷静ではいられなくなるはず。
 しかし……。
(それでいいん?いつもと違うおかしなご主人様の命令をそのまま聞いてよかと?)
 こんなやり方で結ばれても誰も幸せになれないんじゃないのかとリィルの心は揺らぐ。
(でも、ここでやらんかったらもうお払い箱やけんね……混者まざりもののウチが放り捨てられたら、明日からの住む所にもご飯にも困って死ぬだけやし)
 サーラとなんの関わりも持たないリィルにとって、エンガに逆らってまで彼女を助ける義理ぎりは無い。
 店内を歩き回る店員3人が同時に姉妹巫女達と反対方向の客席へと呼ばれた。
「合図やね……」
 ふぅ……と、リィルは呼吸をととのえる。
「"法力マナえさに喰らいつけ、喰ったらしっかり働けケダモノ……おいで菖蒲蜥蜴アヤメトカゲ"」


「ん?」
 灯花は足元で何かが動く気配を感じた。
 椅子イスの下をのぞむと、そこには道中どうちゅうで何匹も斬りまくった紫色の蜥蜴……が地面から首を伸ばしてユウの足を噛もうとしている。
「えいっ」
 すかさず蜥蜴の頭を踏み抜く。
「?」
 すると踏んだ蜥蜴が光り出して――――――。
「これ、もしかしなくてもワ」
 一瞬で灯花の姿が消えた。
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