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アルド・カガリ

不知の仇討ち(2/3)

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「……それで、かれはこの洗礼の儀・・・・えられそうですか?」
 眼鏡めがねをかけたおとこがリースにける。
「カガリは優秀ゆうしゅうよ。素質そしつだけでえば、王都おうとあつめられている”御使みつかい”たちを凌駕りょうがしているわ」
 もりはずれにてられた管理棟かんりとうなか、眼鏡の男とリースは戦闘中せんとうちゅうのカガリを監視かんししていた。
「この監視かんし装置そうち貴重きちょう魔石ませきをふんだんに使つかった技術ぎじゅつ結晶けっしょうですからねぇ……。聖王様せいおうさま教育きょういくへの情熱じょうねつかんじられますよ」
 感知かんち遠見とおみ聖法イズナを魔石に定着ていちゃくさせる最新さいしん技術ぎじゅつよりも、リースのこころ波紋はもんひろげている研究けんきゅうがある。
聖法イズナ使つかいにもう一つの段階だんかいがあるなんて、だれつけたんだか……」
「"かえりの恩恵おんけい"のことですか?存在そんざい自体じたいむかしからかたられていましたからねぇ。我々われわれ研究けんきゅう結果けっかとしては歴史れきししょのこるほどのものですねぇ」
 "生き返りの恩恵"……聖法イズナ使いがから生還せいかんしたさい使つかえる法力マナりょう増加ぞうかし、かみからあらたなちからおくられるという伝説でんせつ
「伝説も解明かいめいしてしまえば新しい技術ですからねぇ。それでもやりたがるひとすくないせいでこんなふうに実験じっけんまがいの実例じつれいつくりにいそしんでいるわけですが……」
 そう。
 この試練しれんはカガリを死なせるためのもの。
 貴族きぞく王族おうぞく連中れんちゅう確実かくじつに力をけたいがための人体実験じんたいじっけんのようなものだ。
「もしかして、この実験をめたい……なんて考えてませんよねぇ?」
 眼鏡の男はかみに何かをきながらリースに問う。
「止めないわ。カガリがこれからさき、生きていくうえで"恩恵"は強力きょうりょく武器ぶきになる……。聖法イズナ使いとしての素質をされた以上いじょう、強くなるしかしあわせになるみちのこされていない……」
 家族かぞく友達ともだちうしなったのに気丈きじょう振舞ふるまい、何年なんねん訓練くんれん没頭ぼっとうつづける子供こども姿すがたに何も感じないわけがい。
流石さすが、実例第一号だいいちごうってた人はちがいますねぇ」
「……それで、どんな怪物かいぶつ用意よういしたの?」
 リースにかれて男が紙のたばをめくる。
巻牙豚キャルストンが二頭に逃鼠シルマ隠鼠ウルマがそれぞれ一匹ずつ……そして暴進牛ゴルルゥブ……コイツが本命ほんめいでしょうねぇ。聖法イズナ使いになってあさい子供では即死そくしでしょう」 
 そうのこし、男はおく部屋へやへとんだ。



「ふぅ~っ……」
 右足みぎあしむらさきいろぬのいた巻牙豚キャルストン仕留しとめたカガリは、血抜ちぬ作業さぎょうえて一休ひとやすみしていた。
はやわらせて師匠センセイめてもらいたいなぁ」
 訓練くんれんはまだはじまったばかり。のこりのけもの仕留しとめれば終了しゅうりょうだけど……。
(森がやけにしずかな気がする)
 今までは訓練中でもとりさえずりくらいは聞こえていた。
 ――――しかし。
 聞こえるのは森をとおけるかぜおとと、れる青葉あおばたがいをこする音のみ。
 次の瞬間しゅんかん
「うわっぶ!!」
 どこからともなく飛んできた何かに顔をおおわれる。
 つかんでがしたソレ・・は、ひらべったいへんかたちねずみみたいなものだった。
 よく見ると首元くびもとむらさきいろの布が巻かれている。
「なんだかよく分からないけど取っておこう……」
 ほどいた布をふところに入れた。
「キキーッ!」
 鼠が何かに感付かんづいたのか、きゅうあばれだす。
 必死ひっしにもがいてカガリの手から脱出だっしゅつした鼠は、どこかへと飛んでいってしまった。
「なんだったんだろう……」
 鼠を見送みおくるカガリのみみに、ミシ……ときしむ音が聞こえた。
 バキバキバキ!
 ドォンという大きな音とともに木がたおれて土埃つちぼこりう。
 土埃の向こう側には巨大きょだいかげが一つ。
 顔の中心ちゅうしんからは大木たいぼくみきのようなふとさの一本角いっぽんづのやし、背丈せたけはカガリの数倍すうばいにもなるその巨牛きょぎゅうは、ゆっくりとすすめ……。

「ガゥル……ゴフッ」

 まえのめりにたおんでしまった。
 全身ぜんしんきずきずだらけのその姿すがたはまさに満身創痍まんしんそうい
「こいつにも"布"……もしかして、この怪物かいぶつ目標もくひょうだったの?」
 聖法イズナでどれほど自分じぶん強化きょうかしてもかないそうにない相手あいてんでしまってホッとむねろしたのもつか、カガリはあること・・・・気付きづいてしまった。

(……っていうことは、この怪物をころしたものちかくにいる!!)
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