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19初体験

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ブランカ先輩の噂話は本当に広まるのが早く、生徒会からの掲示板でイベントの姫君が私になったと発表されてから急速に広がった。

「侯爵令嬢だからですって」

「やっぱり!権力で生徒会に近づいて、王子様達に婚約者がいないから、押し込んだのね」

「地味な子なのにね、見かけに騙されたわ~、身分をひけらかしているのよ」

「あの髪の毛見ました?ホウキよ!艶もないし、掃除をしてなさいよ。地味なら地味らしくねぇ」

「図々しいわよね、婚約者候補になったみたい」

「だからか、少し箔をつけるための誰かの入れ知恵ね」

はあーーーーー
深い深い溜息を吐く。
はあーーーーー

「気にする事ないわよ、ティア。私達は生徒会メンバーとティアが婚約者ではないことも知っているし、候補でもないんでしょう?」
とミンネに言われた。

この三日間人の目が私に向けられて、値踏みをされて、悪口を言われて、こんな事今までの人生で一度たりともなかったから辛い…辛すぎる。

でも悔しいとも思ってしまう。
言い返せない自分、下を向いてしまう自分。

「セレナさんって凄かったのね」
と声に出してしまった。

「え?」
ミンネが驚いた。

「だって、生徒会メンバーとご一緒に和気藹々として注目されないはずがないわけでしょう?それを跳ね除けてメンバーと仲を深めて、いじめられても耐えて、やっぱり仲良くいられるなんて…並大抵の精神力じゃ無理だと思うわ。私なんてイベントの姫に選出されただけで、もう人の目が気になって仕方がないのですもの」
と言えば、ミンネ達も同情してくれた。

「何かセレナさんって生徒会メンバーといても遜色なかったっていうか、華やかさがあったから、僻みももちろんあっただろうけど、でも何かお似合いのカップル的な、逆境の姫様感があったというか…
…あ、ごめん、決してティアが華やかさがないとか、生徒会メンバーに似合わないって言っているわけじゃなくてね」
とミンネに言われ若干落ち込む。

「かなり言うわね」
と他の子からも同情される。

「でもわかるわ、クリスマスパーティーの横並びを見ても、確かに違和感がなくて、特別感があってみんなが受け入れていたわ」

セレナさんは、唯一の女性の生徒会メンバーに選ばれるほど色々足りている人だった…それに比べてイベントだとしても、きっと他の皆さんから見て足りなすぎるからこんな風になっているのよね。

わかるけど、辛いわ。
身分なんて本当は首の皮一枚で繋がっているような所をひけらかすわけない。


「キャー、ログワット様よ」
と歓声が沸く廊下…

「こんにちは、ティアラ嬢、今日の放課後に靴の採寸をしてもらいたい。もし良ければ、我が家の馬車を使ってくれてもいいのだけど…」
と言われた。


なんて恐ろしい台詞をこの人は、みんなの前で言うのだろう…

「こんにちは、ログワット様。馬車の方は我が家で大丈夫です。では、お言葉に甘えて、ご紹介の靴屋さんに伺わせていただきます。本日はご足労ありがとうございました」
と一礼した。

もう二度と教室には来ないでほしい…
誤解が生じる。
もう私達を見ている生徒達が
『なんかあの二人、婚約するんじゃないの?』
的な目になっている。
非常にまずい。
全く関係ないし、そんな話は本当にないから。

「いいなぁ~ログワット様もやっぱりかっこいいわ~」
とミンネの目がハートになっている。

確かにかっこいいけど、いかにもナルシスト系に見えるし、何度も自分の髪を触る殿方…私の好みではないわ。
と溜息を吐きながら席につく。
わざわざ来ないで欲しい。あの人達は存在自体が火種を起こしているのだと早く気づいて、女生徒の目を一度きちんと見て欲しい。

「じゃあね、ティア。ログワット様の靴屋の情報教えてね。金額とか色々探って来てね」
と言われ頷くしかない。
本当にミンネの気軽な優しさに感謝しかないわ。

気が重いまま、馬車乗り場へ…

「やぁ、お嬢さんじゃなくてティアラさん。今日は帰宅が早いのですね」
と警備員の服を身に纏っているクランさん。
素敵だわ。
この制服の似合い度も高く、凛々しさカッコ良さが増している。
朝はいなかったから、学園の警備員は二交代なのかしら?
「クランさん、こんにちは。この時間をお借りしてしまいますが、例のお茶会ですが、今月末の木の日の放課後サロンになりました。勤務もあると思いますが、よろしくご検討お願いします」
と言えば、

頬と口が上がり、朗らかな笑顔を見せてくれたっぽい。前髪で目が隠れているけど…
雰囲気だけでイケメンって分かる事が、表情の一部も見逃せないと、じっと見てしまう。
「警備員の服はまずいかなぁ?」
と聞かれ、自分の失礼さに慌てしまった。
「あ、えっと、一応先輩には警備員さんですと伝えてありますが、すみませんお気遣いさせてしまって…」
と言えば、

「あぁ、ここの学生さんと話をするのは楽しいですし、私もここにいられるのは、三月までですから。だから思い出が出来て嬉しいですよ」
と言ってくれた。

「そうなんですね」
あぁ、非常に残念だわ。癒しの朗らか系大人枠がいなくなるなんて。

「あぁ、私と話していて、時間が過ぎてしまいましたね。折角早く帰るところだったのではありませんか?」
とクランさんがゆったりとした空気感をくれる。本当に傷だらけだった心が穏やかになるわ。

「えぇ、では失礼しますね」

馬車に乗った。
我が家のオンボロ馬車が、クランさんの癒しの声や雰囲気で夢心地に変わるんだから不思議なものです。

「…お嬢様、着きました」

「ありがとう、では採寸だけして来ます、すぐ帰るわ。待っていてください」
と御者に言ってから靴屋へ。

「いらっしゃいませ、ティアラ・ビルド侯爵令嬢様、お待ちしておりました。ログワット様よりお伺いしております。まずこちらの椅子へお掛けください」
と案内されたのは、王様が座るような椅子…

椅子からして違う…高級店、震える。

「ティアラ様、もう少し深く座られても良いのですよ」
と店員さんに声をかけられた。

気づくと激浅で座っていた。お尻半分空間よ。いえ、この椅子を汚してはいけないと無意識にほんの少しの布生地の場所で座っていました…
…緊張します。

「ハハハ、ティアラ様緊張されてますか?大丈夫ですよ、普通の店ですから。では、飲み物は何になさいますか?微炭酸やワイン、一通り揃えておりますが…」

何故靴屋に入って飲み物?

「あ、申し訳ありません、私は本日は採寸をお願いしたくて…」
と言えば、少し困った顔をされて、
「はい承っております。少々お時間がかかります故、」


これは、もしや…高級店の常識?

「あ、そうですか。では紅茶でお願いしますね」
と店員さんの困りが居た堪れなくなり話をきった。

知らなかった。採寸に時間がかかるから、飲み物を飲みながらなんて…
高級店にはそういうお作法があるのだわ。

「では、こちらを。素足を触れさせていただくのは、女性店員ですので何なりとお申し付けください」
と紅茶とケーキだけじゃなく焼き菓子やフルーツが出てきた。
それも三段タワー。

…どうしよう。困ったわ。今手持ちのお金がないわ。


そして足の幅、長さ、厚さ、指、甲の角度や高さを測る。
靴を作る皮のサンプルが並べられた。

「お選び下さい、ティアラ様」

選ぶ?革生地のサンプルに値が記されていない。
金額が書いてない!?

どう、どうすれば、いい?
一杯の紅茶をがぶ飲みする。
フゥー、少し落ちついた。
そうよ、これは、副賞!!少しあの人達を困らせればいいのよ!

「では、こちらで」

新しい紅茶が来た…

「高さですが」

「学園の授業にも使いたいので、一般販売と同様でお願いします」

「形ですが」

「先程も申し上げた通り、一般販売と同様で」

また新しい紅茶が来た……
「宝石ですが」

「あの授業で邪魔になりますので辞退させてください」

白のハイヒールを貰うだけなのに、何故そんなに多種多様にあるの?とても疲れた。ケーキ頂いて良かった。紅茶も三杯も頂いた…

はぁーーーーー
疲れた。
「すみません、お代ですが明日…」

「えっ!?あぁ、ご存知ありませんでしたか?ログワット様から頂きますので。ティアラ様の為の最高の靴をお作りします。楽しみにしてください」

「はぁ、い」
と気の抜けた返事をした。

紅茶やケーキ代も靴代に含まれるってことなの?

「またのお越しをお待ちしております」

バタン

重い、重い、とんでもなく分厚い扉が閉まった。
(恐ろしい…わ、高級店)
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