猛毒の花と愛

栗菓子

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第2章 海の世界

第10話 踊る死神

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南洋のある場所では、死神が笑って酒を飲みながら顔にぺったりと白を塗りたくり、骨の形をした化粧をする。
ドレスは、植物の花の紋様や、クジラやイルカなど海の魚の刺繍をした原色の華やかなものだ。
海と死の女神マリアをもじって聖母像を作り、年に1夜祭りを催すのがこの世の習わしであった。

死神は、太陽神とも結び付けられ、旱で灼熱の太陽の熱に焼き滅ぼされた民たちは、最後には痙攣をおこし、息絶える。壮絶な死に様に、民は畏怖と死と直面するしかない現実に押しつぶされないために、陽気に今を生きる刹那的な生き方を戦略的に選んだ。
男は過去の幻想の無邪気な生き方に縋る。女は今を見据え、ただ生き続ける。

そこには僅かながら、まつろわぬ者として、放浪する巫女や、呪い師、魔法士が砂漠や、海を放浪していた。
そこで静かなある異変が起きていた。
「知っているか。とうとうある呪い師が、伝説のスレン神の幽閉された場所を見つけた様だ。」
「マジ!?ああ今更スレン様が蘇ったとて、皇国の安寧は覆されないよ。恐ろしい。せっかくささやかな平穏は得られたのに、もしかしたら更なる流血に満ちた世界になるかも知れない。」
「そんな……。あたしらはどうなるんだい。あたしらはまつろわぬ者。もう何者にも支配されたくない。だからあたしたちは放浪しているんだよ。」

不安と猜疑心に彼らはひそひそと話しあいながら、どうやって生きるべきか対策を埒もなく延々と話し続けた。
ああ、死神が笑っているわ。馬鹿ね。不確定な未来を不安がり怯えてもどうしようもないのに。
名もなき巫女は盲目であっても、鋭敏な聴覚によって人々の不安や怒りや動揺の気配や雰囲気を感じ取った。

死神は生の滑稽さを笑う。愉快に楽しみ、踊り続けるだけだ。
そこには、底知れぬ悲哀と貧乏と猥雑な深淵な歴史が海のように流れているだけだ。

『私たちはどこにいくのか』
人間の普遍的な悩みと謎に満ちた言葉。人間は、生きるために、或いは戦うためにどこにでも放浪し、時には定住し、また放浪する。
英雄さえも、戦いに赴き、敵と相まみえ、深き葛藤の末、何かを獲得する。
それはただの村人さえも試練が押し寄せる時が来る。
それに敗北するか勝利するかはそれぞれの運命だった。

巫女は視力の代償に予知能力を持っていた。
近い未来、反乱者たちは、皇国に反旗を翻し、狂気的に流血と革命を起こすだろう。
それらは、連鎖的に各地に争いの炎が飛び散る。
多くの死体が山のように積み重なっているのを巫女は幻視した。
それでも、巫女はあえて沈黙を選んだ。
このような不吉な未来を予言したら、民を動揺させた罰として巫女は処刑されるだろう。

巫女たちの住まう館に何十年もひきこもって、僅かな従者が食事を与えているから巫女は生きながらえている。半ば死人のような生活を送っていても、巫女はまだ死にたくなかった。
存外生き汚い己の生に半ばうんざりしながらも、巫女は生に対する執着を捨てきれなかった。
未来だ。巫女は現実にこのような事が起きるのかどうなのか、それがどうしても知りたかった。

「諦めぬよ。とるにたらぬ路傍の石のような私でさえも、歴史の証人になりたがる。民の生きる事への貪欲性を侮るなよ。私たちは必ずこの動乱に向かう世界を見届ける。」

巫女はやせ細った顔に似合わぬ強い眼光をして、何もない空間を凝視した。
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