大輪の花火の輪

栗菓子

文字の大きさ
27 / 33

第27話 玩具

しおりを挟む
内職ともいえない様な手仕事をしている。
リハビリのための手や身体を動かす仕事らしい。

厚い布で人形のような形を創り、中身に綿を入れて厚みを出して人の形をしたぬいぐるみを創る。

それにミシンで創った子どもより小さい人形のための洋服を着せる。


これがなかなか難しい。サイズが合わなかったり、大きすぎてぶかぶかだったりする。


子どもの頃、こんな人形を持っていた記憶がある。

腹が立った時、無茶苦茶してどうしようもなかった時、人形に当たり散らした時もある。

ごめんね。痛かったよね。ぬいぐるみでも大事にすると魂が宿るって聞いたことがある。

わたしは信じよう。人形供養もあるぐらいだから。


でも一つの人形を作るのにどれだけ時間がかかるのだろう。わたしも弱っているせいだろうか。こんなに大変だったとは思わなかった。

わたしは子どもをつくらなくて良かったと思った。

だってわたしは弱いから途中で逃げ出すだろう。情けないんだもの。


せめてこの人形がどこかの子どもに喜んでもらってくれたらとわたしは思わずにはいられなかった。

わたしの道半ばで終わる人生も、どこかで続くだろうか?

それとも新しい生へ向けてはじまるのだろうか?

わたしにはわからない。唯子どもの頃が本当に思い出してしまう。


嗚呼嫌な記憶もあったはずなのに、なぜ子供のころの記憶はこんなに鮮明で美しいのだろう。

美化されているのだろうか? どこかで記憶は美化されると聞いたことがある。

でも構わない。楽しい時もあったのだから、わたしはわたしの人生に満足していた。


時々、物凄く怖くて泣きたいときもあったが、わたしはわたしの道を覚悟して受け入れよう。

間違えたこともあった。迷惑をかけたこともあった。 人に恨まれたこともあった。

でもこれがわたしの人生なのだ。不細工で不格好でも精一杯生きた人生なのだ。


わたしはわたしなりに精一杯生きた。 ごめんね。みんな。迷惑かけたりして大変だったでしょ。

でも生きるってそういうことだよ。

生きている限り、失敗したり、迷惑かけたりかけられたり、なにか小石につまずいて動けなくなったりもする。


それが生きているってことなんだよ。それでも必死でゴールまで歩く。それが人生なんだ。


今ならわたしもわかるよ。人生はレースなんだ。歩いたり、走ったり、迂回したり、登ったり、下がったり色々なルートがあるんだ。


わたしはわたしのルートを歩いて行った。


後悔はしない。頑張って生きたから・・。 この人形が誰かに喜ばれるようにとわたしは祈った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

十年目の結婚記念日

あさの紅茶
ライト文芸
結婚して十年目。 特別なことはなにもしない。 だけどふと思い立った妻は手紙をしたためることに……。 妻と夫の愛する気持ち。 短編です。 ********** このお話は他のサイトにも掲載しています

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
 ☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

私と先輩のキス日和

壽倉雅
恋愛
出版社で小説担当の編集者をしている山辺梢は、恋愛小説家・三田村理絵の担当を新たにすることになった。公に顔出しをしていないため理絵の顔を知らない梢は、マンション兼事務所となっている理絵のもとを訪れるが、理絵を見た途端に梢は唖然とする。理絵の正体は、10年前に梢のファーストキスの相手であった高校の先輩・村田笑理だったのだ。笑理との10年ぶりの再会により、二人の関係は濃密なものになっていく。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...