10 / 51
第10話 第四章 一坂新九郎、スカートをめくる
しおりを挟む
「今日、初めてエリヤちゃんの笑顔見たねー」
「いやまあ、今日は、そうでしょうね……」
そう私が答えるのと同時に、いきなりトイレの中の電気が消えた。
突然のことに絶句する私達の耳に、トイレの外から一坂の声が響いた。
「二人とも、大丈夫ですか!」
「新九郎君! 何? 停電?」
「分かりません。あ、いや、違うな。学校の外には、街明かりがいつも通りに見えます。この学校だけ、電気が消えたみたいです。出て来られますか?」
月のお陰で、校舎の中は完全な暗闇にはならずに済んでいる。私と柚子生先輩はうなずき合うと、廊下へ出て一坂と合流した。少し離れていたらしい斯波方先輩も駆けつけて、四人が揃う。
「二人とも無事だな。何だってんだ。蟲に感染した奴が感電死でもして、ショートしたのか?」
「えー、そんな回りくどい死に方するかなあ。偶然の事故でないとしたら、誰かが故意に電源を落としたんじゃないかな」
そう言う柚子生先輩に、私は思わず、訊いた。
「誰かって……誰ですか」
柚子生先輩は右手の人差指をぴっと立てて、
「もちろん、生き残ってる人」
一坂が割って入った。
「この時間じゃ、元々学校に残ってた人数自体多くはなかったと思いますが……それでも生き残りなんて、僕ら以外にいるんですかね。柚子生先輩、何でそう思うんです?」
「蛍光灯がピカピカ光ってる下じゃ、蟲の光は見えづらいのよね。むしろ、暗い方がすぐに発見できると思わない? それなら、電気を消してメリットがあるのは、あたし達みたいに夜煌蟲から逃げてる、まだ感染してない人間ってことになるじゃない」
その理屈は、一応合っているとは思う。けれど、本当にいるのだろうか。私達の他にも、誰かが。
斯波方先輩が腕組みして、言う。
「でも、確か全校分の配電盤やらスイッチがあるのって、職員室の隅だぜ。さっき見たろ、真緑の職員室。蟲どもに触らずに、あんな中を移動できるもんかな」
「あたしだって、確証があるわけじゃないよ。でも、可能性はあるでしょ。何か、蟲を避ける方法があるのかも知れないし。あたし、……職員室に行ってみる」
そう聞いて、他の三人が三人とも、この人は何を言い出すのかとのけ反った。
けれど私が柚子生先輩を止めようとする前に、一坂が口を開いた。
「でも斯波方さん、確かに、蟲避け――ああなんて気楽な響き――の方法を実践してる生き残りがいれば、僕らにも思いっ切り有益ではあるんですよね」
「そうだな……。そいつが職員室から逃げ出してりゃ合流できるだろうし、もし配電盤を操作した後身動きできなくなってたりしたら助けてやらなきゃならねえし。見るだけ、見に行ってみるか。やばそうなら引き返そう」
職員室へ行く方向で、意見はまとまりかけていた。唯一積極的にイエスと言っていない私の顔を、一坂が覗き込む。
「エリヤ、怖い?」
「……いや、そうじゃなくて。怖いけど、その」
そうもじもじと言った時、一坂が私のスカートの裾をつまみ上げ、膝の上までが露出した。
何をする、と叫ぶ前に、私の右パンチが一坂の頬を撃ち抜いていた。それから一応、
「何をする!」
と叫んで、続けて左のパンチを一坂の逆の頬に見舞う。
「ち、違う! 膝だよ、その膝!」
「エリヤちゃん、それ……」
私が階段で打った膝は、廊下の月明かりの中でもはっきりと分かるほど、青黒く腫れていた。歩こうとすると、痛みが走る。夜煌蟲がうじゃうじゃいる中に、この状態で入り込んで行って、逃げ切れる自信は無かった。けれど――
「いえ、いいんです。行きましょう、職員室」
「いやまあ、今日は、そうでしょうね……」
そう私が答えるのと同時に、いきなりトイレの中の電気が消えた。
突然のことに絶句する私達の耳に、トイレの外から一坂の声が響いた。
「二人とも、大丈夫ですか!」
「新九郎君! 何? 停電?」
「分かりません。あ、いや、違うな。学校の外には、街明かりがいつも通りに見えます。この学校だけ、電気が消えたみたいです。出て来られますか?」
月のお陰で、校舎の中は完全な暗闇にはならずに済んでいる。私と柚子生先輩はうなずき合うと、廊下へ出て一坂と合流した。少し離れていたらしい斯波方先輩も駆けつけて、四人が揃う。
「二人とも無事だな。何だってんだ。蟲に感染した奴が感電死でもして、ショートしたのか?」
「えー、そんな回りくどい死に方するかなあ。偶然の事故でないとしたら、誰かが故意に電源を落としたんじゃないかな」
そう言う柚子生先輩に、私は思わず、訊いた。
「誰かって……誰ですか」
柚子生先輩は右手の人差指をぴっと立てて、
「もちろん、生き残ってる人」
一坂が割って入った。
「この時間じゃ、元々学校に残ってた人数自体多くはなかったと思いますが……それでも生き残りなんて、僕ら以外にいるんですかね。柚子生先輩、何でそう思うんです?」
「蛍光灯がピカピカ光ってる下じゃ、蟲の光は見えづらいのよね。むしろ、暗い方がすぐに発見できると思わない? それなら、電気を消してメリットがあるのは、あたし達みたいに夜煌蟲から逃げてる、まだ感染してない人間ってことになるじゃない」
その理屈は、一応合っているとは思う。けれど、本当にいるのだろうか。私達の他にも、誰かが。
斯波方先輩が腕組みして、言う。
「でも、確か全校分の配電盤やらスイッチがあるのって、職員室の隅だぜ。さっき見たろ、真緑の職員室。蟲どもに触らずに、あんな中を移動できるもんかな」
「あたしだって、確証があるわけじゃないよ。でも、可能性はあるでしょ。何か、蟲を避ける方法があるのかも知れないし。あたし、……職員室に行ってみる」
そう聞いて、他の三人が三人とも、この人は何を言い出すのかとのけ反った。
けれど私が柚子生先輩を止めようとする前に、一坂が口を開いた。
「でも斯波方さん、確かに、蟲避け――ああなんて気楽な響き――の方法を実践してる生き残りがいれば、僕らにも思いっ切り有益ではあるんですよね」
「そうだな……。そいつが職員室から逃げ出してりゃ合流できるだろうし、もし配電盤を操作した後身動きできなくなってたりしたら助けてやらなきゃならねえし。見るだけ、見に行ってみるか。やばそうなら引き返そう」
職員室へ行く方向で、意見はまとまりかけていた。唯一積極的にイエスと言っていない私の顔を、一坂が覗き込む。
「エリヤ、怖い?」
「……いや、そうじゃなくて。怖いけど、その」
そうもじもじと言った時、一坂が私のスカートの裾をつまみ上げ、膝の上までが露出した。
何をする、と叫ぶ前に、私の右パンチが一坂の頬を撃ち抜いていた。それから一応、
「何をする!」
と叫んで、続けて左のパンチを一坂の逆の頬に見舞う。
「ち、違う! 膝だよ、その膝!」
「エリヤちゃん、それ……」
私が階段で打った膝は、廊下の月明かりの中でもはっきりと分かるほど、青黒く腫れていた。歩こうとすると、痛みが走る。夜煌蟲がうじゃうじゃいる中に、この状態で入り込んで行って、逃げ切れる自信は無かった。けれど――
「いえ、いいんです。行きましょう、職員室」
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/9:『ひかるかお』の章を追加。2025/12/16の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/8:『そうちょう』の章を追加。2025/12/15の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/7:『どろのあしあと』の章を追加。2025/12/14の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/5:『ひとのえ』の章を追加。2025/12/12の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/4:『こうしゅうといれ』の章を追加。2025/12/11の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
【完結】知られてはいけない
ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。
他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。
登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。
勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。
一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか?
心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。
(第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる